鼻血少女

授業中に女子中学生が鼻血を出した。

もちろん鼻をほじっていたわけではなく、

何の前触れもなく突然出血したようで

彼女が学校から持ってきていたワークやプリントは

彼女の血で赤く染まっていた。


私は慌ててティッシュを取りに行き、

彼女の周りにあったものを綺麗に拭いて、

彼女自身にも休憩するように促した。


それでも努力は報われず

彼女の私物、特に学校のワークには

かなりの血がついたままとなった。


どうしようもないのだが。。。


私はその状況を見て想像した。


もしこの女生徒が学校で「塾の先生に殴られて

鼻血が出たので、ワークが血で汚れてしまいました」と

言ったらどうなるだろう。


もちろん誰も彼女を殴っていない。

それどころか、私は慌てふためきながらも

彼女を介抱しているのだから

感謝はされても非難されるいわれはない。


でも、もし冗談であったとしても、

彼女がそんなことを学校で言ったら

あっという間にその「嘘のウワサ」がご近所中に広まって

警察やマスコミがうちの塾に来て、

きっとみんなが彼女の味方をするに違いない。


世間は中年のおっさんと鼻血を出した女子中学生を比較するときに

ほぼ確実に鼻血を出した女子中学生の味方をする。


そうだ。世間は彼女の言うことは信じても

私の言うことは最初から疑い、私を犯人扱いをするに違いない。


これはマズイ!


私は何も悪いことをしていないのに

明らかに挙動不審になり、オドオドする。


数分後、集中力の切れた教室で何事もなかったように授業を再開し

「お願いだから、冗談でも塾の先生に殴られたという嘘はつかないでね」と

私は彼女に向けてテレパシーを送った。


そして「生徒のみんな、お願いだから鼻血は家で出してくださいね」と、

心で強く願った。

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