インする男
塾のある男子生徒が
なぜかいつもシャツをズボンにインしている。
それがポロシャツであれTシャツであれ
彼は全てのシャツを、必ずインにする。
そんな彼が、今日は
上半身がカッターシャツで
下半身は甚平のズボンのような半ズボンを履いて登校して来た。
もちろん、カッターシャツは甚平ズボンにインしていた。
私は彼のその姿が何かの間違いのような気がしたので
彼に、なぜその格好なのかを聞いてみた。
「ねえ、○○くん、どうしてシャツをインしてるの?」
すると、彼の答えは意外なものだった。
「え〜、だってこれが普通やもん」
ぬぬぬ。
普通は、半ズボンにカッターシャツをインは
しないと思うのだが。
というか半ズボンだったらTシャツだろ。
そう思ったのもつかの間
彼は逆に私に質問してきた。
「先生もワイシャツをインしてるやん。どうして?」
確かに。そりゃそうだ。
私がワイシャツをインしていなかったら
塾長に小一時間は説教をされるに違いない。
すかさず私は大人の対応で
「ビジネスマンは、シャツをインするのが普通なんよ」と答えた。
でも、待てよ「普通」が理由であるなら、
私のシャツ・インは彼のシャツ・インと同じである
ということになるではないか!
どう見ても彼の姿と私の姿は違うと思うけど、
言っていることは同じなのだ。
ただ私のズボンはスラックスであり
彼のように甚平の半ズボンではない。
それが救いのような気もする。
助けを求める気持ちで教室の他の生徒たちに目をやると、
その教室でシャツをインをしていたのは
私と目の前のその生徒だけだった。
その状況からすると、
やはり、彼と私は同じ種類の人間であり
今、この教室にいる人間を2種類に分類するなら、
男と女、あるいは
私たち2人の「シャツ・イン」族と
その他の「シャツ・アウト」族ということになる。
いや、私と彼が大人で、他はお子様という区分けもできる。
というか、シャツをインしていようがいまいが
別に関係ない。
ここは塾なのだから授業をせねば!
私は今までの会話をなかったことにして
授業を進めた。
そして数分して、シャツ・イン族の彼をちらりと見てみた。
すると彼は、密かにインしていたシャツをアウトにしていた。
私はタイミングを見計らって
そっと彼のそばに行き、「どうしてインしてないんよ」と小声で聞いてみたら
「だって、先生と一緒なの嫌やもん」
と彼は答えた。
私もシャツをアウトしたいと思ったが、
後で塾長にチクられるのが落ちなので
その衝動を抑え、何事もなかったように
シャツ・インの状態で授業を進めた。
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