男のサガ

道を歩いていて、明らかな美人が5m先を歩いていると気づいた。

ただ、後ろ姿しか見えないために

どうしても正面から見てみたいと思っていた。


彼女の歩くスピードと私の歩くスピードはほぼ同じであるから

何かのきっかけで彼女が立ち止まるか、私が競歩並みのスピードで

歩かない限り、彼女を追い越すことはできない。


信号のある交差点に差し掛かれば、そこで追いつけるのに

あいにくこの道は交差点のない並木道だ。


私は仕方なく彼女と一定距離を保ったまま歩く。

するとまた別のことに気づいた。


彼女とすれ違う男たちが

みんな彼女をチラ見するのだ。


これが男のサガというものか。


その男が一人であれ、夫婦であれ、

はたまた若いカップルであっても

全員が、彼女をチラ見していた。


あ〜、やっぱり彼女の姿を正面から見たい。

と、何も解決しないままに歩いていたら

ガムを踏んでしまった。


脇見運転で起こる交通事故は、こんな風にして起こるのだと、

テレビで見たことのある悲惨な交通事故の場面が思い浮かぶ。


ミントのにおいのするガムを

道路にあった出っ張りにこすりつけていたら

彼女を見失ってしまった。


せめてこのガムが彼女の吐き棄てたものであったならと

彼女の存在に固執しつつも

きっと彼女はマボロシだったのだと

自分に言い聞かせ、私は再び歩き出した。

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