エピローグ
その夜、勇治は夢を見た。
「……また出やがったか」
「何度だって出るわ」
勇治は目の前で楽しそうに微笑む黒いドレスの少女……ライターにため息をつく。
本日3回目の夢。現実世界を合わせれば4回目の遭遇だ。
会う度に酷い目に遭い続けていることもあり、できれば2度と会いたくなかった。思わず後ずさりしてしまう。
「何の用だ?」
「聞きたいことがあるの……あの黒い鎧は何? あんなの知らないわ」
困ったような顔で言うライター。その言葉に勇治は一瞬フリーズする。
「は?……ちょっと待て。あれはあの本の力じゃないのか?」
「あなたに渡したのはクトーニアンの本よ……その子が鎧をつけるように見える?」
勇治の背後を指差しながらそう言うライター。勇治が振り返るとそこには今朝の夢から何度も見た怪物……クトーニアンが静かに横たわっていた。眠ってでもいるのか、ピクリとも動かない。
「あの鎧はどうやったって着れそうもないな、こいつには……」
「でしょう? ……本人にもわからないのね。本の影響が出るのも妙に早かったし……あなたが何なのか、すごく気になってきたわ」
言いながらライターはその表情を昼の夢の時のように狂気じみたものへと歪め、ゆっくりと勇治の方へ歩き始める。
「ッ……寄るな!」
勇治がそう叫んだ瞬間、何かが上からライターを叩き潰した。
振り向くとクトーニアンの隣に例の黒い鎧が立っている。守ってくれたのだろうか。
「あら怖い。ここは素直に帰った方がよさそう」
潰れたはずのライターは何事もなかったかのようにそう言って歩き去っていく。
ライターが消え去ったことを確認した勇治が息をついてもう一度振り返ると、黒い鎧は消えており、クトーニアンが体を起こしていた。じっと自分の方を見ているような気がして、勇治は姿勢を低くして警戒する。
「おい……コイツからは守ってくれねえのか?」
どこかへ行ってしまった黒い鎧に語り掛けるが、当然のように何も返事はなかった。代わりにクトーニアンがゆっくりとその口を開く。
「くそッ!」
勇治はクトーニアンに背を向けて走り出すも、すぐさまクトーニアンの巨体が飛びかかり、その口腔が後ろを伺った勇治の眼前に迫る……
「……夜中に飛び起きるってどれくらいぶりだろうな」
その日は寝苦しい夜となった。
「これ……夢……?」
少女は呆然としながらつぶやく。
フィクションの登場人物が目の前の光景を信じられないときによく言う台詞だが、まさかそれを自分が言うことになるとは思わなかった。
「そうね、きっと夢なんだわ。だってあなたは目を開けているんだもの」
からかうようにそういうと、隣に立つ別の少女――自分より幼く、今の時代では見ないような黒いドレスをまとった――が一冊の本を差し出した。
「”――の物語”? ……この子の本?」
本を受け取った方の少女を、形容しがたい何かが、じっと見つめていた。
「そう。あなたが欲しがっていたものよ」
本を渡した少女……ライターはそれだけ言うと、話は終わりだとばかりにどこかへと歩き去って行く。
一人残された少女は本を開く。
それと同時に目の前の”何か”がゆっくりと近づいてくるが、少女はそれを意に介さず本を読み進めていく。
やがてすぐそばにやってきた”何か”に飲み込まれながら、少女は薄く笑みを浮かべた。もし鏡が目の前にあったら本人も驚いたであろう、邪悪な笑みだった。
「そう、あなたは私……」
少女はその笑みのまま、自分を飲み込んでいく何かを愛おしそうに受け入れた。
THE TaleBreaker-テイルブレイカー- コケシK9 @kokeshi-k9
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