旅に出る

小道けいな

旅に出る

 正月と言うらしいわね、人間の世界では。

 あたちはフェレットだし、関係ないというか関係あるのは世話係たちの動向よね。

 それにしても、あたちは疲れたわ。

 世話係の姉と言う人が水を飲ましてくれたけど、抱っこしてくれたりしたけれど、なんとなく面倒くさいの。おうちでぼーとしているだけでいいかなっても思ったわ。

 世話係の姉のところにいたフェレが迎えに来たし、正月の日。追いかけられるのはむかついていたけど、別に嫌いってほどでもなかったしついていこうと思ったわ。

 でもね、あたちは「世話係にあいさつがまだ」って断った。

 そうしたら世話係の代わりに病院に連れて行ってくれて、ちょっと延命されたのよね。


 あたちのフェレ生はいろいろあったわ。おうちも引越しも何度かしたわ。そのたび、一時的に世話係の姉の下にいたのよ。

 そこには別のフェレットがいて、ちょっと面倒なのよね。あたちは一人でぼんやりするのが好きなのに、あれは違うの! デリカシーと言うのがないのかしらね? あたちが行くとすぐかまいたがるのよ。

 同じ小屋に入れられていたのだけど、ある時、二匹で暴れて、トイレをひっくり返したりしたから、世話係の姉が怒って、別の小屋にしたのよ。

 英断ね。

 その件に関して、あたちは褒めてあげるわ。

 月日が流れてあいつが死んで、この人間たちの中では最後のフェレットということになったわ。


 あたちは腫瘍があると言われたの。

 薬を飲みながら、先は長くないと言われていたわ。

 でも結果的に、平均寿命は生きたのよね。

 そうそう、病院の先生は好きだわ。なんか、でかいフェレットと言う感じね。入院中はしっかり甘えておいたわ。


 それから今があるのよね。

 正月の時、連れて行ってもらって再入院。次発作を起こすと死ぬって言われたそうなの。その日のうちに飼い主と帰るつもりもあったけど、忙しくて延長。

 もう、あきたのよ、病院にいるのも。つまらないの。

 安心したわ、帰ったとき。

 一応、飼い主の姉の家で挨拶もしたし、先生にもお別れしたし。


 話に聞くと、治療するということで、体を開くという選択肢もあったというの。最初は世話係はやるといったようだけど、他の人たちの意見や麻酔や手術中にあたちが旅に出ることを考えてやめたそうよ。

 それで正解よ。

 あたちは家に帰って嬉しかったわよ?

 まー、ちょっと食事療法やらペットシーツのことは申し訳がないけれど。

 あたち、粗相を寝床でしちゃったから外で待っていたのよ。

 あー、世話係が帰ってきたと思ったら安心したわ。

 そして……栄養価高いミルクとか突っ込むの!?

 飲み損ねたわ!

 今度、また会うときはもっと早くそれをちょうだいね。おいしんでしょ? 食べてみたいわ!

 そもそも、これまでの食事でもあたち自身は問題なかったのよ! 開けたてはサイコーよ!


 よく見えるようになったし、一度家に帰ってから、しばらく休憩して、あっちに行くつもりよ?

 だから、しばらく、厄介になるわね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

旅に出る 小道けいな @konokomichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る