4話_ナンパ野郎と出会った俺は
善は急げ。
俺は町中を駆けた。
とは言っても、無作為に探し回るほど馬鹿じゃない。
狙うは換金所の前。1人でうろついている子だ。
ここならその道の人が集まっている。頭良い、と思わず自画自賛しそうになる。
しかし、魔獣狩りに挑む男女比率は当然男側に偏っているせいで女の子は来なかった。
換金所の前に突っ立ってあくびを噛み殺している時、ようやく来た。
ウェーブがかった髪の大人びた容姿でおそらく少し年上、あまり好みではないけど他に選択肢もない。
声をかけに行こう。
声をかけに。
声を……。
ダメだ。
緊張して足が踏み出せない。
違うぞ、これは決してナンパなんて軽薄なものじゃない。パーティーへのスカウトだ。
だから、やましいことなんて何もない。
「あ、あの」
決意を固めた時間は無駄に終わった。
「へー、君も北の地方の出身なんだ?」
「てことはあなたも? 私はポロッサ出身なんだけど」
「ルタオって港町出身。やっぱりな、あの辺りってのは美男美女が多いんだ。俺と君みたいに」
「またまたー、口が上手いんだから」
声をかけようとした女性は他の男のナンパに引っかかっていた。それも上手く行きそうだ。
男の目から見ても、ぐうの音も出ないくらいイケメンだ、対抗するものではない。
パッと切り替えて次に行こう。
人通りが多くなってきた分、女の子の数も増えた。
さっき覚悟を決めていた分、すぐに声をかけに行ける。
目に付いたのは2人。1人は黒髪ストレートでヒーラー系の装備をしている。もう1人はシャギーの入ったショートヘアでゴスロリ系の服を着ている。どちらも可愛らしく悩む。
後方支援とか、特殊スキルのある人を。
アイリの言葉を思い出した。
それならこっちだろう。
「あの、すみません」
「なんですか?」
いきなり見ず知らずの男に声を掛けられたからだろう。ヒーラー装備の女の子は警戒を含んだ視線で俺を見た。
「えっと、その、あのですね」
そこから上手く言葉が出てこない。さっきのイケメンみたいに口が回ればいいのに。
仕方ない、ストレートに誘おう。口調がかしこまってしまうのはご愛敬だ。
「俺とパーティー組んでくれませんか? 」
「あなたと、ですか。どのようなパーティーなのでしょうか?」
「はい、今のところ2人と人数は少ないですが実力は確かです。最終的には魔人討伐を目標としています」
まだ警戒心を解いていないが話は聞いてくれている。もしかしたらいけるか。
「すみません、すでにギルドに所属していますので」
期待は一瞬で打ち砕かれる。
何とも言えない空虚感に襲われた。
その後も、何人か声をかけてみたもののすべて空振りに終わった。
あまりの成功率の低さに思わずしゃがんでうつむいた。
「よお、兄弟。不景気そうな顔をしてどうしたんだい」
いきなり話しかけられた。声の主は先ほどのイケメンだ。茶色い髪をかき上げながらしゃがみ、視線を合わせてきた。
言葉が詰まる。さんざん話しかけていたクセに受ける側となると固まってしまう。
「そんなに緊張すんなよ。何か飲むか、お茶とコーヒーだとどっちがいい?」
お茶。
コーヒーは苦手だ。
もらったお茶をくぴくぴと飲んだ。
「さっきから、この辺でナンパしてたっしょ? あんまり見かけない顔だし、ご挨拶と思ってな。おたく、名前聞いてもいいかい?」
「俺はソラ。隣村の出身で昨日ここに来たばかりなんだ。そういうそっちは?」
「俺はネロ。生まれはこの近くで1番大きな街。この村には来て半年ってところか。居心地がいいんで結構長居してる」
さっきは北国で育ったって言ってなかったっけか、適当な奴だ。
「ソラはどういう系の子が好み?俺は割と何でもいけちゃうクチなんだけど」
「そうだな、どっちかと言うと綺麗系よりは可愛い系が好きかも」
「ほうほう、その割に節操なく綺麗系にも声かけてたじゃん」
こっちが見ていたようにネロも気づいていたらしい。あの醜態を見られたと思うと恥ずかしい。
「俺の場合、ナンパってよりもスカウト目的で声をかけてたからな。パーティー組もうかと思って」
「お、マジか。俺も今ソロでやってて仲間が欲しいなー、と思ってたんだよ」
「そしたら、さっきのナンパも仲間探しで声をかけてたのか」
同じ考えを持った奴がいたのか。
「いんや、あれはただの趣味。それに、俺が探してる仲間は可憐な花じゃないし。とにかく強い奴」
「何か目的でもあるのか?」
強い意思があるなら、もしかしたら手を組めるかも。
「ほら、俺ってこの見た目だろ?だから女の子関係でトラブルが多くてさ。腕っ節は人並みだから」
「あ、いたぞ。アイツだ。ネロだ」
屈強な男の集団が群がってきた。むさくるしいことこの上ない。
「え?どういう状況?」
「ちょっと手を出した女がよろしくなかったようで」
テヘペロ。と舌を出しているが、苛立ちしか生まれない。
このストレスをぶつけて、追ってくる奴らを蹴散らしてもいいけど、ここで騒ぎを起こすのもめんどくさい。
「とりあえず逃げるか」
片手でネロを担いで飛んだ。ひょろひょろして見える割に筋肉はしっかり付いているらしい。
周りの建物の屋根まで飛んだ。人を抱えているので軽々とはいかないがそれでも問題はない。
追っ手の視界から消えるのには30秒あれば十分だった。
「で、これを持って帰って来たわけね」
呆れ顔のアイリを前に俺はことの次第を説明した。
「初めまして、お姫様。ネロと申します」
「おいおい、ここでナンパは止めてくれよ」
やれやれ、とネロは肩をすくめた。
「こんなのは挨拶だろ。俺は仲間になる集まりでそういう仲にはなりたくないんだ。だから安心してくれ」
「ウチもあんたに興味ないから安心して」
「それは手厳しい」
と言いながらもなぜか嬉しそうなネロを横目に説明を続けた。
「ネロはこういう状況で、助けて欲しいらしい」
「そういうわけで救ってくれると嬉しい。荒事は苦手なんだ。強面と向き合うだけで足が震えちまう」
「カッコつけてカッコ悪いこと言うなよ」
「ほら、俺って何してもカッコついちゃうし、ゲブゥ」
前髪をかきあげたところをアイリの蹴りが打ち抜いた。
ナイスヒット。
「今回、今回だけだから。な?」
「案外打たれ強いな」
「女の子からの攻撃はご褒美だろう。さらに言えば俺はドが付くレベルのマゾだ」
「キモい」
「ありがとうございます」
力が弱いとは言え、アイリの蹴りを何発も食らって嬉しそうにしているのは正気とは思えなかった。
「そもそも、助けるって言ってもどうすればいい? 俺らも忙しいんだからずっとボディーガードなんかしてられないし」
「その必要はない。クエストに1回付き合ってもらえれば」
「どういうことだ?」
「詳しく話せば長くなるんだけど、さっきナンパした女の子が彼氏持ちだったんだ。手を出したのが彼氏にバレて、無理難易度のクエスト組まされてしまった、というわけ。もちろん失敗したら身ぐるみは剥がされてぼこぼこ」
「要は美人局にあったわけね」
つつもたせってなんだ?
「後で辞書でも引いとけ」
話の流れ的には悪い奴ってことだろう。
「そんなわけで、頼むよ。助けてくれー」
ネロは地面に頭をこすり付けている。顔がすすけている。
「何もそこまでしなくても」
せっかくのイケメンが台無しだ。
「頼む」
いいだろ?とアイリに目配せをした。
ウザいけど、ネロの事は何か憎めない。
アイリは、好きにしなさいと許可をくれた。
「恩に着るぜ。今度可愛い子紹介するよ」
「少しは懲りろよ」
こうして突発的にクエストを受けることになった。
俺の村とは逆側にある草原に住む魔獣が暴れている。その撃退というクエストだ。
討伐ではないため、追い払うだけでもいい点は楽なものだと言える。しかし、ターゲットが厄介だ。
双角で爪を持ち、体長は3mほどもあるらしい。おまけに個体数もわかっていない。
説明を聞くのが面倒だったので流し聞きしつつ歩いていれば例の草原が見えてきた。
緊張しているのか、ネロは草原に近づくにつれて無口になっていた。逆に俺は落ち着いていく。
何か人が緊張してるのを見ると落ち着くよな。
「そろそろだな。もう見えてるあれだろ?」
「ああ」
「そういえば」
あえて関係ない話で緊張をほぐしてやろう。
「アイリが話す前のフード被った状態でよく女だってわかったよな」
一言目からお姫様とか言ってたし。
「俺は遠巻きに見ても男と女は見分けられるぜ、さらに言えば童貞と処女、女なら3サイズ、男ならナニのサイズまでバッチリわかゲブァ」
何か、こっちの緊張感までなくなりそうだったので軽くどついておいた。
それにしてもなんつう特殊スキルだ。これ、流石に役にはたたないだろ。
「遊んでるのはそこまでにしてよー。もう着くよ」
「ちなみに、アイリちゃんの3サイズは」
今度はアイリに殴られていた。
……それは後でこっそり教えてくれ。
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