2話_仲間に誘われて俺は

「要は、お前を鍛えつつ、用心棒すればいいわけ?」

「端的に言えばそうなるかなー」

 まずは飯でも、ということでこの街で一番大きいという食堂に連れて行かれた。

 土地勘はないので正直ありがたい。

「話は聞いてやる、けどおごりだろうな?」

 金に余裕はあるけれど人のおごりって言うのは何とも言えない特別感がある。

「おごりのつもりどけどさー、男としてそのセリフはどうよ? 小さいヤツ」

「あ?」

「器の話だよ」

「まぁ、それならいいや」

 身長もだけどと小声で続けていたような気がするけれど、気のせいだろう。

「さっきから思ってたけど、ソラって結構馬鹿だよねー」

「何言ってんだよ。これでも学校の成績は結構良かったんだぜ」

「そういう意味じゃないんだけど、まぁいいや。とりあえず町中で荒ぶらないで、結構な被害になるから」

 大げさな奴だな。ちょっと地面が割れたり壁が壊れたりするだけじゃないか。

 はいはい、と軽く返事をしつつ、食堂のメニューを見た。

 お、俺の好きなカツ丼がある。

「それで、本題って言うのは」

「ああ」

 美味しそうだなー。

「聞いてる?」

「ああ」

 早く食べたいなー。

「絶対聞いてないよね?」

「ああ」

 あ、こっちのスペシャルカツ丼も美味しそう。

「えいやっ」

 いきなりチョップされた。全く痛くないけど。

「くっ、攻撃した側がダメージを負うなんて」

 アイリは手を抑えている。

 俺の言いたい事は伝わったらしく先に注文を済ませた。

 そして、再度本題に戻る。これで集中して話を聞ける。

「さっきも言ったけど、ウチの身体を鍛えるのを手伝いつつ、一緒に魔人と戦って欲しい」

「だけど、魔獣と違って魔人を倒すには最低でも小隊単位で挑むのが普通だって聞くぞ。それを2人でって言うのは」

「報酬は弾むから。頼むよー」

「別に金には困ってないんだよな」

 一週間魔獣狩りに専念すれば一か月は生きていけるくらいの稼ぎが入る。

 そもそも、なんで魔人狩りにこだわるんだ?

 尋ねると、困ったような顔をされた。

「ちょっとね、色々あって」

 魔人狩りを成し遂げると貴族になれる。最近では貴族や王族が魔人を討伐して名を上げるなんて例も遠い国ではあったらしい。

 アイリが魔人狩りにこだわるのもそういった社会地位的なところによるのかもしれない。

「悪いけど、魔人狩りには興味ないんだ。貴族とかになりたいわけでもないし」

 そうだと思ってたけど、とアイリは言った。

「それでもいいから、まずはウチの今の実力を見てアドバイスして欲しい」


 そう言われて魔獣生息区域に指定された森林へ向かった。

「来てから言うのもなんだけど、さっき実際に戦ったからなんとなく実力はわかるぞ」

「人相手と、魔獣相手だと勝手が違うでしょ。まあまあ、ちょっと見てみてよ」

 堂々とした態度で魔獣区域の方に向かっていく。

「あ、それから、やばくなったらヘルプよろしく」

 違った、よく見たら足が震えている。

 この辺りは街中の木々よりも遥かに深い緑が生い茂っている。いかにも何かが出てきそうな雰囲気だ。

 アイリがわざと足音を大きくしながら歩いていると、案の定魔獣が現れた。

 四足歩行で体長は1メートルほど。茶色い毛に全身が覆われている。牙が鋭く尖っている。

 目を閉じてもフォルムが浮かぶほど倒した相手だ。繁殖力が強く、この地域にはかなりの数が生息しているが、大して強くはない。俺なら一撃だ。

 アイリの練習相手にはちょうどいいだろう。

「よっしゃー、行くよー」

 助走をつけて高く飛んだ。

 戦っている時も思ったが戦い方はかなり上手い。うまく回避して攻撃を当てに行っている。磨かれた技術が光っている。

 が、力はかなり弱い。当たっていても致命打にはほど遠い。

 身体能力と技術がチグハグに見えた。

 十分ほど戦ってアイリはどうにか魔獣を倒した。かなり息が切れている。

 俺なら一秒で仕留められるレベルにここまでかかるのか。先が思いやられるな。

「どう、だった、かな。ウチの、戦いは」

「まだまだ弱いな」

「そんなの、わかってる、っての。どう、したら、いい、かな?」

 アイリは大きく息を吸って呼吸を整えている。

 そうだな、色々と思った事はあるけれど。

「力が弱いんだよな。もっと、こうガーッて感じでやればいいと思う」

「パワー不足は自覚してるけどさー、ガーッてどういう感じ?」

「例えばこうする時に今のままだとサーッて感じなんだけど、そこでゴーっていくイメージ」

 身振り手振りの実演を交えつつ、レクチャーする。

「わっかんないよ。何を伝えたいのかも、なんでそんなに軽く殴って岩が砕けるかも」

 うっかり手がかすってしまったらしく、近くの岩が砕け散っていた。

「なんでわからないんだ? 簡単だろ」

「それで出来るのはソラくらいだって」

 なぜかため息を吐かれた。

 どうにか伝える術はないかと考えているところで何か聞こえた。

「なあ、足音みたいたのが聞こえないか?」

「え? 別に何も」

「気のせい、か?」

 いや、違う!

 取り囲むように全方位から足音が聞こえる。

 これは

「魔獣の群れだ。さっきのアイリの戦闘に刺激されて来たらしい」

 アイリはまだ敵に気づいてはいない。

「数はどれくらいいるの?」

「正確にはわからないけど、聞こえる足音から考えると20以上はいそうだ」

 足音も近づいてきて、いよいよご対面だ。

 予想していた通り魔獣が現れる。走ってきた勢いのままこっちに向かって飛びかかってきた。

 どうする?

 見た限り手を焼きそうな相手では無いけど、数が多すぎて掃討するのは少し手間だな。

 撃ち漏らして町に向かっても問題だし。

「何うだうだ考えてるの! 何かあればウチが何とかするから思いっきりやっちゃえ」

 アイリは目の前の敵に苦戦しながらも声を発してきた。

 弱っちいクセに。

 思わず口元が緩む。久しぶりだ、こんな感覚。

 最近は一人でただひたすら経験値を積む作業になってたからなー。

 せっかくだし楽しんでみるか。


 アイリは力がないがカバーリングは抜群にうまかった。足止めや町へ向かおうとする魔獣の方向転換を完璧にこなして見せた。

 魔獣を1匹も残らず仕留めることが出来たのはアイリのおかげだ。

「コンビプレイっていうのも悪くないな」

 珍しい経験に悦に浸っていると

「今のはほとんどソロプレイでしょうが。ウチが倒した魔獣は最初の奴だけよ」

「あれ? そうだっけ?」

「ったく、これだから強い人間は」

 なぜかため息を吐かれた。

「そういえば、話の途中だったけど、俺にはこれ以上アドバイスすることは無い。とりあえず換金しに行こうぜ」

 これだけあれば何でも食べ放題だろ。アイリに奢ってもいいかもしれない。

「ちょっと待って。そっちの件はいいけど、もう一つの件は考えてよ」

 えーと、何だったっけ。確か、魔人を倒しに行く仲間になる、だったか。

 さっきまでは悩むまでもなく断るつもりだったけど。

「しかも、しかも、それだけじゃなくてね」

 アイリはニヤリと悪の親玉みたいな笑い方をした。

「少人数で魔人を討ち取ったってなれば一気に有名になって人気者になるよー」

「そうなのか」

 少し気持ちが揺らぐ。そこに畳みかけるようにアイリは言葉を投げてくる。

「それだけじゃない、魔人ってのは高位な道具を持っている奴も結構いる。その中には体躯を変えるものもあるかもしれない」

 ん?

「学校の授業なんて変えてどうするんだ?」

「それは体育。体躯ってのは体格のこと。つまり、ソラの背を伸ばせるアイテムがあるかもしれないってこと」

「マジかよ」

 それはやる気が高まってくる。

 いや、別に俺はそんなに小さいわけじゃないからいいんだけどさ、そりゃあ背丈は高いに越したことはないし。ただ、そんなにテンション上がるわけじゃないぞ。うん、ちょっと、ほんのちょっと嬉しいかなってくらいだ。

「ヒャッハー」

「何も奇声をあげて飛び跳ねなくても」

 おっと。

「コホン、あー。そうだな。協力してやってもいいぜ」

「今さらそのテンションを持ってこられても……」

 仕方ない。

 乗ってやるとするか。俺がモテるためにもプラスになるだろう。

 何はともあれ、こうして俺は初めてパーティーを組むことになった。

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