第六十六話 エピローグ

 喫茶店の前であたしは長岡さんと別れた。

 本当は長岡さんと同じ道を行くはずだったのだが、あたしはあえてそうしなかった。それが正しい道だと直感的に思ったからだ。

 あたしは長岡さんに好意を持っていた。勿論もちろん、恋愛的感情ではない。同じ女子同士、仲の良い友達になれると思ったのだ。

 長岡さんは自分が太っている事を気にしているようだったが、あたしは何も思わなかった。これくらいふっくらした女子はどこにでもいるのではないだろうか。

 大回りして家に帰ろうかと思ったが、気が変わった。

 あたしは長岡さんと道がかぶらないように気をつけながら、足を進めた。

 目的の場所はあの赤い橋だ。

 あたしは公園に入ると、真っ直ぐに赤い橋へと向かった。

 橋の上のベンチに一人の老人が座っている。

 あたしは長岡さんが夜中に座っていた欄干に近付いた。欄干に右手を伸ばす。

(ここで、あたしも次の子の試練を受けさせるのか)

 鉄製の欄干は手のひらから熱を奪っていく。

(今年の三月はいつもより寒い。夜中、ここに座っていたらお尻が冷えただろうな)

 そんな事を考えながら、あたしは欄干から手を引いた。

(あたしは一体、どんな子の大切な人を救う事になるんだろう)

 橋の下ではさらさらと静かに川が流れている。ベンチに座っている老人はまるで川の流れの音をBGM代わりにするようにして、目を閉じている。半分、眠っているのかもしれない。

 あたしはきびすを返した。

(帰ろう)

 あたしは赤い橋から立ち去る。

 あたしの足取りはしっかりとしたものだった。

(あたしもやってやる。長岡さんがあたしを導き、モミカさんを救ったように、あたしも次の子の大切な人を救うんだ)

 あたしの決意は堅かった。


 了

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順列救済 ろく @roku0408

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