第二十三話 救出編㉓

 全ての授業が終わった。放課後だ。

 私は女子生徒にどういじめの件を伝えるべきか、まだ悩んでいた。

 帰宅中も歩きながら考える。

(直接言うべきか。間接的に言うべきか)

 直接言う場合のメリットは何だろう。女子生徒に心の準備ができる、ということだろうか。

 では、間接的に言う場合のメリットは? その場では何もわからず、ひどいこと、というのがいじめであると認識できず軽い気持ちで翌日に学校へ行けることであろうか。

(どちらにしろ、女子生徒は学校へ行かなくてはならないのだ。それは変わらない)

 私は歩みを進めながら徐々に思考を固めていく。

(ならばいっそ、女子生徒の身に起こるいじめをちゃんと話したほうがいいのではないか。下手に遠回しに口にして、いざ、いじめにった時のダメージは計り知れない)

 横断歩道で信号が赤になった。私は足を止めた。

(やはり、ここは正直にいじめに遭うということを言ったほうがいいだろう。私の前任者の美少女もそうしたのだ。はっきりと言ってしまったほうがいい。その方が私もくよくよ考えずにすむ)

 信号が青になり、私は足を前へと踏み出した。

(よし。決めた。今日の夜に女子生徒に電話をかけよう。そして、伝えるのだ。『あなたをいじめが襲う』と)

 腹が決まり、私は気分が少し良くなった。

 いつの間にか、先程よりも早足で家に向かっていた。


 夜。

 入浴、夕食などをすますと、私は自室に引っ込んだ。

 時刻は七時半。

(これくらいの時間になら電話をかけてもいいだろう)

 私はベッドの上に座ると、スマートフォンを手にした。

 着信履歴から女子生徒の番号を呼び出す。

 女子生徒は三コール目で出た。

「もしもし」

「もしもし。私だけど。今、話をしてもいいかしら?」

「はい。大丈夫です」

 女子生徒の声は沈んでいるように聞こえた。

(無理もない。女子が女子に告白されたんだ。ショックを受けて当然だ)

 私は冷静に声を出した。

「実は、今日はあなたに大切なことを伝えたいの」

 スマートフォンの向こうで小さな吐息が聞こえた。

「女の子から告白されて、これ以上、まだ、何かあるんですか?」

 私は同情の声を出した。

「ごめんなさい。でも、このことを通らないとモミカさんを救うことはできないの」

「今度は何があるんです?」

 私は呼吸を一旦、止めた。そして、思い切って言う。

「いじめがあるの」

「いじめ?」

「そう。これからあなたはいじめに遭うことになる」

「いじめ……ですか」

「いじめはとてもつらいことだわ。でも、あなたはいじめに遭いながらも、しっかりと学校へ行かなくてはならないの」

「それも順番のうちなんですか」

「そういうことになるわね。いじめに耐えて、学校へ行く。これがモミカさんを救う道筋になるの」

 女子生徒はしばらく黙った。何か聞きたいことがあるのだろう。私もえて沈黙した。

 しばらくして女子生徒が声を出した。

「もしも、私がいじめに耐えかねて、学校を休んだらどうなります?」

「モミカさんは助からないわね」

 私は断言した。

「いじめはいつから始まるんでしょうか?」

「それは私にもわからない。ただ、いじめが起こるということは一〇〇パーセント、事実よ」

「女子に告白されて、さらにいじめですか。どうして、こうも過酷なことが起こるんですかね」

「それは私にはわからない。けど、これを乗り越えれば逆にモミカさんは助かるわ」

「私が痛い目に遭えばモミカさんの命が救われる、ということですね」

「そういうことになるわね」

 スマートフォンの向こうから溜息が聞こえた。

「わかりました。絶対という自信はありませんが、いじめに耐えてみます。そして、モミカさんを助けたいと思います」

「あなたならきっとできると信じてるわ」

 私は女子生徒を励ます言葉を出した。

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