第二十四話 救出編㉔

「ネットはやってもいいんでしょうか?」

 女子生徒は質問した。

「ネット?」

「はい。モミカさんと出会った例のウェブサイトです」

 私は考えた。

(この場合、どうなるんだ? 女子生徒がネットをやることは順番に妥当するのだろうか。逆に、やらない、ということが順番に当てはまらない可能性はあるのだろうか)

 私は取りえず、インターネットの件は現状維持のままで良いと判断した。

「たぶん、そのまま続けてもいいと思う。ネットでいじめが発生してるわけではないから」

「そうですか。なら良かったです」

 女子生徒は安堵あんどしているようだった。学校がいじめの場になるならば、ネットという架空の世界は、彼女に安らぎをもたらすだろう。

「私からの話はこれで終わり。何か聞きたいこととかある?」

「そうですね。正直、いじめが始まると聞いてあまりピンときません。誰か別の人の話をしているみたいです」

「あなた、これまで、いじめを受けたことはある?」

「ないです」

 女子生徒は断言した。

(じゃあ、これが女子生徒にとって初めてのいじめになるわけか)

「初体験のいじめになるだろうけど、辛抱してね」

「わかりました」

 女子生徒の声は重かった。

「これ以上、質問とかなければ切るけど、いいかしら?」

「はい。何とかやってみます」

「わかった。また、何かあったら電話して。私はあなたの味方だから」

「ありがとうございます」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 私はスマートフォンの終話のアイコンを押した。

(さて、これからが女子生徒の勝負だ。どう、いじめと向き合い、対処するか、だ)

 私はベッドから降りると、かばんを手にした。中から英語の教科書とノート、英和辞典を取り出す。

 英語の教師は厳しいので、いやいやでも予習をしなくてはならない。正解でなくても良いから、体裁だけでも予習をやった、という事実が必要になる。

 私は机に向かった。机に英語の教科書とノートを広げる。英和辞典もかたわらに置く。

 私は教科書に載っている英語の文章を和訳し始めた。しかし、私は頭が悪いので遅々として進まない。

 また、どうしても女子生徒のことが頭をよぎってしまう。

(女子生徒はいつからいじめにうのだろう。明日? 明後日あさって? それとも、もっと先の話?)

 女子生徒は私に、いついじめが始まるのか聞いた。私はそれに答えることができなかった。むしろ、私のほうがいつ始まるのか知りたいくらいだった。

 私は教科書一ページの文章を和訳するのに四十五分間も要した。ところどころ、わからないところもある。しかし、英語の教師は予習をやった、という誠意を見せれば大して怒ることはないので、この当たりで教科書類を閉じることにする。

 私は机のものをそのままにすると、スマートフォンを持って、再びベッドに向った。ベッドに横になる。

 私はカードゲーム形式のアプリを呼び出すと、それで遊び始めた。が、全く集中できない。

 ゲームなので集中する必要はないのだが、いい加減なプレイになる。自然、ゲームはなかなか進まない。

(駄目だ。何をやるにしても、女子生徒のことが気になって仕方ない)

 私はスマートフォンを枕元に置いた。ゲームの途中であったが、無視する。

(もう、女子生徒のことを考えるのはめよう。私が考えたところでいじめが起きないわけでも、モミカさんの命が助かるわけでもない。考えるだけ無駄だ)

 私は前任者の美少女を思い起こす。

(彼女も私と同じ気持ちだったのだろうか? 今の私と同じように、私にいじめの件を伝えた際、やきもきしたのだろうか?)

 そんな自問をしても、答えなど出るわけがない。

 私は部屋の壁掛け時計を見た。

(もう、いい。今日は寝てしまおう。考えたって無駄なんだ。頭を空っぽにしたい)

 私は手元のリモコンで部屋の電気を消した。部屋が暗くなる。

(このまま、眠ってしまおう。眠ってしまえば、考えることなどできなくなる)

 普段よりも早い時間であるが、私はベッドの上で目を閉じた。

(眠りたい)

 そう思ったが、私の頭の中を数々の疑問や言葉が並び、なかなか寝付くことができなかった。

 結局、私が眠りについたのは、目を閉じてから一時間半ほどった後だった。

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