第十八話 救出編⑱

 その日は朝からソワソワしっぱなしだった。

 早朝。

 私は目覚めた。しかも、六時という早さだ。

(こんな早くに目覚めるなんて、人生初かもしれない)

 スマートフォンの時刻を見て、私は思った。

 私が一階に降りると、母がキッチンで驚嘆の声を上げた。

「どうしたの、こんな早くに。もしかして、ずっと起きてて、徹夜とか?」

 私は首を左右に振った。

「違うよ。今、起きたんだよ」

「無茶苦茶早いじゃない。あんた、何かあったの?」

「何もないよ」

 私はソファーにもたれた。

(何もないことはないか)

 私は、夢に見たこと、いや、夢で耳にしたことを心の中で反芻はんすうしていた。

(あれは前任者の美少女が言ってた夢のお告げだ。明日以降、女子生徒が美男子に告白される)

 朝のニュースを適当に観ていると、

「おはよう」

 とあつしが二階から降りて来た。

「うわ、誰かと思ったらねえちゃんかよ。びっくりした」

 キッチンから母の声がする。

「でしょう? こんな早い時間からこの子が起きてくるなんて、お母さんもびっくりしたよ」

 敦は野球の朝練に行くために、すでに制服に着替えていた。

「俺、姉ちゃんより後に起きたの、生まれて初めてかもしれない」

 母も同調する。

「何か不吉な出来事の予兆じゃないといいんだけどね」

「お母さんもあっくんも、私をからかいすぎ。私だって、たまには早く起きてくることくらいあるよ」

 それからしばらくして、父も寝室から出てきた。反応は母と敦と似たようなものだ。

「誰がソファーに座ってるかと思ったら、お前か。びっくりさせるなよ」

「お父さんまで……」

 私は普段、朝寝坊が多いことを家族にからかわれた。

(全く。皆して、私を馬鹿にして)

 そんなことよりも、先程から私の心に懸念材料が渦巻いていた。

(一体、いつ、女子生徒に告白をされることを言うか、だ)

 私の場合はどうだったのだろうか。

 私の場合は夜に前任者の美少女から電話がかかってきた。つまり、前任者の美少女はそれ以前に夢で私が告白されると知ったわけだ。

(問題はそれがいつか、だ)

 もしかしたら、前夜ではないのかもしれない。

 夢の中で日付が指定され、その時刻に合わせて私に電話をするようになっていたかもしれない。

 前任者の美少女は全て、夢でわかると言っていた。しかし、その夢の形態はそれぞれ違うものだとも言ってた。

 風景が見えたり、文字が現れたり、音が聞こえたり。

 伝える事の内容が同じでも、伝達手段はバラバラであるとも話していた。

(今日、私は学校へ行く。そして、家に帰る。その後、女子生徒に電話をする。これで合ってるのか?)

涼子りょうこ。涼子」

「ん、あ、はい」

「いつまでソファーにいるの。久しぶりに早く起きたんだから、早く朝ごはんを食べちゃいなさい。そのまま、二度寝なんかしたら意味がないわよ」

「わかった」

 すでに、弟の敦は朝食を終え、朝練へ向かったようだ。食卓の敦の席には空になった皿が置いてあった。

 私はいつもの朝食を口にした。パンにコーヒー、サラダ、ベーコンエッグだ。

 私は半ば無意識にパンを口に運んだ。

(よし、今日の夜に女子生徒に電話をかけよう。昼間はお互いに学校がある。メールでのやり取りも可能だが、話がややこしくなりそうで、不便だ。それに、前任者も電話で私が告白されることを予言した。これでいこう)

 腹が決まると、私はサラダを頬張った。今日のサラダは妙においしく感じられた。

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