第十六話 救出編⑯
しばしの間があった。
インターネットネット上のカフェという空間に沈黙が訪れる。
誰も発言しない。話題がなくなってしまったのだろう。
この空白の時間が私の心を揺り動かした。
(ウィルキンさんという人がモミカさんという人を知るのに、重要なキーパーソンになるのか)
が、ここで私の思考が別方向へ向く。
(ちょっと待てよ。私がモミカさんの状態を知ってどうするんだ。私がモミカさんを知ることに何か意味があるのか?)
私は前任者である美少女のことを思い出していた。
(彼女は私が命を救いたい人、父の存在をほとんど知らなかった。父がどんな人柄で、どこの会社に勤めているかなど、全く聞かなかった。それは聞いても仕方のないことだったからかもしれない)
私は心の中で舌打ちした。
(じゃあ、今、私が必死になってモミカさんがネット経由でどんな人だったかを
私は急いでタイピングした。
スズカ:ごめんなさい。そろそろ、私はチャットから離れます
くく:お疲れ様
くく:さっきも書いたけど、モミカさんのことで知りたいことがあったら、
くく:侍の格好をしたウィルキン君に聞けばいいから
私はくくさんの書き込みに対して返答をしなかった。
代わりに女子生徒が発言をする。
アヤメ:じゃあ、私も明日のこの時間位にログインします
くく:それがいいわね
くく:ネット上のことならウィルキン君も何か話してくれるかもしれないし
女子生徒が別れの
アヤメ:今日はありがとうございました
くく:別にいいのよ
くく:私もモミカさんのことは気になってたし
スズカ:突然、お邪魔して、すみませんでした
スズカ:また、明日、お願いするかもしれません
くく:了解~
私と女子生徒はほぼ同時に
『おやすみなさい』
とアバターに発言させた。
それから、マイページに飛び、お気に入りからヤフーのトップページへと画面を切り替えた。
(私の行動は間違ってるんだろうか?)
私はノートパソコンを閉じると、ため息をついた。
下手をすればモミカさんの命を助けることができなくなってしまう可能性もある。
と、私のスマートフォンが鳴った。
私は素早くスマートフォンを手にした。
私は少々、情けない声で言う。
「もしもし」
電話の相手は
「あの、あれで良かったんでしょうか?」
女子生徒も私がモミカさんのことを詮索し過ぎることを不安に感じているようだ。
私は思い切って、前任者の話をすることにした。
「実は、私もある人のおかげで、大切な人の命を危機から救えた人間なの。あまり、詳しいことは言えないんだけど、そのおかげで私は大切な人の命をこの世に繋ぎ止めておくことができたの」
スマートフォンの向こうからの質問はない。
私は言葉を続ける。
「私もあなたと同じく、学校の放課後、家に帰る途中に、ある少女に声をかけられたの。『あなたの身の周りの人を助けたくはないか?』ってね」
女子生徒は少々驚いたような声を出す。
「じゃあ、大切な人を守れることができるのは私が初めてじゃないんですね」
「私の前任者も大切な人の命を救ったそうよ」
私は前任者である美少女が好きな人を生命の危機から救うために、彼からの告白を断ったことは
私は不安げに言った。
「もしかしたら、私がしてることで、あなたの大切な人、つまりモミカさんを守れなくなってしまうかもしれない。明日のカフェ10代のログインは少し考えてから、やってもいいかしら」
女子生徒は即答した。
「勿論、いいですとも。チャットに入る、入らないはその人の自由です。無理にチャットをする必要はありません」
私はこの言葉を聞いて、なおのこと、
(彼女はネットとリアルを住み分けて考えてるんだな)
と感じた。
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