プロローグ 救出編
あたしは自分のことを特別だとは思っていない。
商業高校に通う、どこにでもいる女子だと思っている。
小学校や中学の時は少し違った。あたしは人とはちょっと違う、何か特別なモノを持っていると思っていた。が、その「特別なモノ」が具体的に何なのかはわからなかった。
人は歳を取る。誰でも同じことだ。
歳を取るに連れ、あたしは自分で思っているよりも特別でないと徐々にわかる。
あたしには何か「特別なモノ」はない。
本当は、あたしは公立の普通科高校へ進学したかったが、家庭の事情で商業高校へ進学した。
私の家は裕福ではない。周りを見て、私自身もそれを知っている。
両親からは、
「大学へ進学をさせるほどのお金はない」
と常々言われていた。
だから、私は高卒でも就職率の良い、公立の商業高校を選んだ。それに関しては、昔からそうなると決めていたので、父と母に不平はない。
高校一年の二月末。
校内の雰囲気にも慣れ、周囲の生徒達とも打ち解けてくる。特定の仲の良い友達もできる。
成績は学年内で少し上の方だ。が、これは商業高校だからである。もし、あたしが公立の普通科高校へ進学していたら、今のような成績ではないだろう。もう少し、低い位置に身を置いているはずだ。
部活には入っていない。
放課後になると、真っ直ぐに家に帰った。
家に帰ってからは特にこれといって特別なことはしない。テレビをつけ、ニュースを観たり、アニメを観たりする。
夕食ができるまでテレビを観て、夕食を
そして、自室に入り、ノートパソコンを開いてインターネットに接続する。最近、ハマっているウェブサイトがある。
アバターを使ってチャットをするウェブサイトだ。
あたしはお姫様のようにキラキラと輝く服を着せたアバターをマウスを使って移動させる。ウェブサイト内に架空の広場や公園、ビーチ、山、神社などがあるのだ。その中を徘徊するようにアバターを移動させる。
ここの所、あたしがよく行く場所は「ワイワイ広場」だ。ワイワイ広場は年代ごとにチャットルームが別れており、10代、20代、30代、40代以上となっている。
あたしはワイワイ広場の10代のチャットルームに半年ほど前から入り
ネットという架空の空間ではあるが、顔見知りもできた。いつも、話す友人と呼べるような存在だ。
あたしは「アヤメ」というハンドルネームを使用していた。
由来は、小学校の時に飼っていた犬の名前だ。何故か、父が犬に花の名前を付けたがらせた。犬がメスだったからかもしれない。とにかく、父が「飼うなら花の名前にしろ」と言うので、なんとなく、「アヤメ」と命名した。
あたしは商業高校に通い、そこそこの成績を取り、ネットでのくだらない雑談に明け暮れるフツーの女子高生である、と思っていた。
そう、あの女子があたしに話しかけてくる前までは。
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