第一話 救出編①

 その日以降、私の生活は元に戻った。

 クラスメイトの私への態度も徐々に前と同じに戻っていった。それに伴い、私は吐き気を感じることはなくなった。保健室へ行くこともない。

 私は以前と同じように仲の良い友達と昼食をったり、放課後、女子だけで集まってくだらない話に花を咲かせたりした。

 あつしも同じように心の整理をしたようだ。

 回転寿司屋へ行った翌日の日曜日、高校で休日練習があったのだが、それを休んだ。

 敦にも思うところがあったのだろう。死にひんしていた父が生きながらえることができるとわかったのだから、当然だ。

 敦は月曜日には早朝から元気に朝練に行った。

 父は以前と変わらない。普段通りに仕事をしている。

 母も父が病気になる前に比べて、快活になったような気がする。

 家族全員が元の状態に戻った感じだ。


 私が手に戻した日常。

 肥満して不細工で髪がチリチリだけれども、友達はそれなりにいて、いじめのない生活。

 そして、父の死の回避。

 そんな日常を私は取り戻した。

 しかし、私の中で引っかかるものがあった。

(このお返しを誰にすればいいんだ?)

 前任者の美少女に連絡することは禁じられている。ならば私のすることは一つだ。

(次の子を助ける。それが私なりのお返しだ)

 夜。私は寝る前に祈るようになった。

(今日こそ、私が救出できる子の夢を見れますように)

 と。


 その夢は唐突に現れた。

 私が救ってもらってから二週間ほど経った頃だ。こよみはまだ二月である

 ベッドの上。私は心の中で祈った。

(夢を、助けることができる子の夢を見れますよに)

 その日は浅い眠気から始まった。

(あ、眠りに落ちるな)

 と、感じた時に眠った。

 そして、浅い眠りは長い時間、続いた。

 どれくらいの時がった頃だろう。眠っているので正確な時間はわからない。

 が、私は夢を見た。それも、手に取るようにしっかりと認識ができる夢だ。

 父が出てきた時の夢とよく似ていた。

 夢の中で私は、私自身を見ていた。

 私は舗装ほそうされた道路を歩いてた。

 夢の中の私は、歩く私に付いて行く。

 私の先を歩く私はしっかりとした足取りで、何の迷いもなく進んで行く。

 夢の中の私はある場所で歩みを止めた。

 そこは高校だった。公立の商業高校である。私が通う高校から約五キロメートルほど離れた場所にある所だ。

 時刻は夕方のようだ。空がっすらと暗くなり始めている。

 夢の中の私は商業高校の校門の近くに立っていた。

 私も夢の中の私の隣に立つ。

 夢の中の私は、私には気が付いていないのか、あるいは無視をしているのか、全く意にしていない。ただ、門扉をじっと見つめている。

 校門からは続々と帰宅をする生徒達が出て来ていた。この商業高校と違う制服を着ている私を一瞥いちべつする生徒もいる。

 十分ほど経った頃だろうか。夢の中の私が動いた。

 ある一人の女子生徒に近付いていく。その足取りは確信に満ちていた。

 私も、夢の中の私に付いて行く。

 夢の中の私が声をかける。

「こんにちは」

 突然、声をかけられて、女子生徒は驚いたようだ。他校の制服を着ている面識のない相手から突然、挨拶あいさつをされて驚かない人などいないだろう。

 女子生徒は震える声で言う。

「こ、こんにちは」

 そこで、私の夢は終わってしまった。

 私は目覚めた。

 充電中のスマートフォンを手繰たぐり寄せると、午前三時ちょうどだった。

 私は思った。

(今の夢は次に助ける子との出会いだ。それを見たんだ。予知夢という形で)

 美少女の言う通りだった。次に救出する子に関しては、夢で見ることができると言っていた。

 私の父が病気から解放されて、約二週間。ようやく、私が救える子の特定ができたのだ。

(でも、この夢をいつ実現すればいいんだ? 場所はわかる。商業高校だ。でも、ときがわからない)

 私は夢に見た光景を思い出そうとした。

 時刻は夕刻だ。商業高校が放課後になり、帰宅する少女を私はつかまえることになる。

 ふと、考えが浮かぶ。

(ということは、私は商業高校の下校の時間にはあそこにいなくてはいけないんだ。私は学校を早退して、あの商業高校に行かなくてはならない。私が授業を終えてから、あの商業高校へ行っても遅い。私は学校を早退しなくてはならないんだ)

 頭の中で自分が何をすべきか整理がついてきた。

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