第四話 死楽
学校で、俺を馬鹿にするものはもういない。
絞めすぎて、一人の右腕折っちまったからな。
いい音だった。
学校の帰り、耳を馬鹿にするような仕草をしたガキを捕まえた。子供はいいサッカーボールになるぜ。
制服警官に見つかったから、ナイフで首を切り落とした。俺に勝てるなんて馬鹿なことを思う奴がまだいるか。
ちょっとムカついたから、近所の事務所にお邪魔して、傷モノどもを皆殺しにしてすかっとした。チャカも手に入ったし、清々しい血の匂いだ。
ビンビンになっちまったんで、見つけた野良犬の首を切り落として、ぶち込んだ。あんまり臭ぇんで、溝に捨てた。
家の前で構えていた、さっきの連中の仲間がいたんで、腹を割いて心臓の健康状態を見てやったら逃げやがった。診察してやったのによ。
「――! ――!」
ああ、聞こえねぇんだよ。クソ親父。
「~~、――……」
ちっ。どいつもこいつも。
お前らは、そこでおとなしく吊られりゃいいんだよ。
ほら、さっきまで家を包囲していた
よし、いい食いっぷりだ。くくく……、嫌がっていた頃が懐かしいな、おい。
だいぶ太ったな、そろそろか。
明日の朝食は、近親ステーキと洒落込むか。
想像するだけでヨダレが垂れてきたぜ。
「はじめまして。夢野魅苦と申します。魅苦とお呼びください」
ん⁉
なんで、声が聞こえるんだ。
「あの……、ここは《夢目》の世界ですから、喋ることが出来るんですよ」
「え……。あ、本当だ。明晰夢なのか? ものすごいリアルだぞ」
「あなたは人生の分岐点に立ちました」
「分岐点? 寝る前に家族を殺したことかな? あははは、すかっとしたぜ。それとも昨日のあれか。小学生を道路に投げ捨てて、肉片ゲームやったことか?」
「いいえ。そこではありません」なんだこいつ、涼しい顔しやがって。ハッタリと思ってんのか、このビッチ。
「はぁ? じゃあどこだってんだよ」
「覚えてませんか? あなたが殺人鬼になったきっかけです」
ヘッドホン……。
「馬鹿野郎」ヘッドホンを投げ捨てた「こんなもん、見せんじゃねぇ!」
「思い出しましたか」
「ああ。思い出したよ。忘れてたのによ。あのクソ親父が面白がって、ガキだった俺に大音量のヘヴィメタルを聞かせやがった。隣りにいた母親もノリノリでよ。おかげで俺は、メタルの神になるどころか、耳を失った」
「それでは、もう一度その時に《巻き戻して》、やり直したいんじゃないんですか」
「いいや。俺は、ヘッドホンを見せたお前を八つ裂きにしてやりたい」
「あら。久しぶりに肉弾戦ですか。手加減くらいしましょう」
「何言ってやがる、そんな細い体で――へぐぅ⁉」俺の身体がいつの間にか床に叩きつけられていた。
顔を踏まれた。パンツすら見る余裕がない。
こいつ、
「安心してください。殺すような真似はしたくありませんから、大人しくしていただけませんか」
顔は見えないが、笑ってやがるな。
それにしても、あんな軽そうな身体してやがるのに、なんで体重一〇〇キロこえる俺を踏みつけられんだよ。
「お返事を聞かせてください」だがミクは腕を組んだ「いいえ、いいでしょう。あなたはどうやら、生まれついての殺人鬼のようです」
「黙れ。テメェのそのでかい胸を切り取って――かはぁ⁉」
俺の腹が……馬に蹴られたみたいにめり込んだ……。この女、あんな枯れ木みたいな脚でなんてキック力してやがる。ぐはっ……。
「言っておきますが、現実のあなたにもダメージはありますよ」
「何なんだよ、お前は……」
「なるほど、ここと、ここと、ここを八つ裂きにしたんですね」
「なんだ、血が。腹からや胸から血が……」
大量の出血だ。
なんで、あいつらを刺したところと同じ箇所が、ひとりでに斬られたんだ?
な、俺のチンポまで!
「あらあら。そんなところまで斬ったんですね。さすがサイコパスさん」
「お前だって、大概だろ。その気味の悪い笑顔がしょ、証拠だ」
「たしかに、人の絶望・不幸を楽しむ性癖はありますよ」
「認めやがったな、このビッチ!」
「だからといって」目が急に鋭くなった。なんだこの悪寒は「私はあなたのように人殺しを楽しむ趣向は持ち合わせていません」
な⁉
身体が溶けていく。指が、腕が、脚がぁぁぁぁぁぁぁ。
「それはそうです。今まで人や動物にやってきたことが一気に跳ね返っているんですもの」
「……!」喋れない?
「もう話すことは出来ませんよね。だって顔はもうドロドロですもの」
突然、泥人形が現れた。
ミクは、くすりと笑った。
「それ、あなたの姿見ですよ」
やだぁぁぁ、死にたくないぃぃぃぃ、まだ俺は殺し足りないぃぃぃぃぃぃ、まだ妊婦の腹を食ってないぃぃぃぃぃぃ。あぁぁぁぁぁぁ……。
あああああああ。《巻き戻して》くれぇぇぇぇぇ。
……。
・。
「承りました。ただし、ここでの出来事
――二度と同列に扱うな。
「おっと、《貴族》の皆様、怯えないでくださいませ。これに懲りず、また逢える刻をお待ちしております」
うふふふ。
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