第十一話 自と転と車

 今朝、右に曲がって車に轢かれ、その線路の上で電車に轢かれた。

「と、言うことまでは覚えてますか?」

「何よアンタ、ここ何処よ!」

「申し遅れました、夢野魅苦と申します。魅苦と呼んでください」

「じゃあ、ミクさん。これ何の冗談よ」

「あなたは死にました。ここはその走馬灯でみている《夢目》の世界です」

「死んだなんて、大嘘、今流行るとでも思うの?」

「あなたの今の身体は、こんな感じですが」

「……! ……⁉ ……?」喋れない。動けない。何も感じない。痛みもない。感覚もない「――ひ⁉」

「お分かりいただけましたか」

「嘘よ」

 元に戻った。なんのトリックか知らないけど。

 私はこういうのは大っ嫌いなの!

「分かりました。私は嫌いではありません、こういう再現は」

「な、脚が潰れていく」

 ゆっくりとゆっくりと、骨が飛び出しへしゃげていく。

 今度は喋れるけれど、痛みはない。

 お腹から内蔵が……。吐き気がするのに何も出ない。

 両腕が離れていく。

 血が吹き出していく。

「どうですか。一応、頭だけは残してすべて再現してみました」

「もどして……。やだ……怖いよ」

「実はですね、あなたの頭も電車で粉々に砕かれまして……」

「いや!」

 私は間髪入れずに拒否した。

 そんなものまでゆっくりと再現されたら、誰だって気が狂う。

「《巻戻りたい》ですか?」

「《巻き戻して》よ」

「あら、もう。それでは、承りました」

 綺麗な笑顔に初めて恐怖を覚えた。


 

 キュッキュッ――。

「っと。なに?」

 私は思わず急ブレーキを握った。

 身体は無事、自転車もなんともない。

 この先を曲がって私は轢かれた。

 いいや、あれは夢でしょ。夢。

 だってもう遅刻しそうだし、この右の狭い路地を出れば学校までほんのちょっと。

「まっすぐ走ろう」

 私は普通のルートを取った。

 そして、スマホのネットラジオをイヤホンから聴いた。

『今朝方、車が登校中の小学生に突っ込み、重軽傷を負う事故がありました。場所は――』

 この近くだ。

 とにかく、この大通りを右折しなきゃ。

 キュッキュッ――。

「……曲がれない」

 身体が言うことを聞いてくれない。

 曲がろうとすると震えが止まらなくなる。

 だって夢でしょ、あれは。

 それにもう事故は終わったんだから、大丈夫のはず。

 そうだ。左折なら問題ない。大回りになるけど、とりあえず学校には行ける。もう遅刻は確定だ。

「だけど、急げばまだ」

 私は左にハンドルを切り横断歩道を渡った。



 ピーポーピーポー!

「そこの車、止まりなさい!」



「嘘でしょ……」



――「慌てんぼさんでしたね」これはいけない。早すぎて忘れるところでした。「ああ、これは皆様。また逢える刻を、お待ちしております」

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