第七話 魅苦と鏡華

「あなたが強く強く願っている、逆転させたいことを私が一つだけ叶えてあげる」

「逆転させたいこと……。記希依しるきぃは今のこの身体が嫌。元の健康な身体に戻せるの?」

「随分と素直ね。普通はいぶかしむんだけど、魅苦に会った影響かしら」

「なんとなく、信じられる気がする」

「あ、そう。じゃあ、その方法は一つだけ」

 すると、小さな顔を寄せてきた。ツインテールが揺れて、すごくおっきなおっぱいが私の胸とくっついた。これ、絶対Iカップはあるよ。

「私と《機澄キス》なさい!」

「なんで、記希依レズじゃないよ」

「いいこと? 私と舌を絡めて《機澄》すればあなたの願いを叶えてあげられる。嫌って言うなら、……そうね。帰るわ」

「やだ、帰らないで」

「何よ」

「上手く言えないけど、鏡華ちゃん、なんか優しい」

「はん⁉ ちょっと、今のは不意打ちよ」

「分かった。鏡華ちゃん、可愛いから、女の子の初めてあげても良い」

「あんた、ファーストキスなのこれ」

「違う。女の子にキスするのが初めて。でも、わたし、汚い」

「ええい、まどろっこしいわね。了承と受け取るわよ」言った途端に唇を塞いできた。

「ううんんんん。あう、はっ、あっ、うん、うふん」

 なにこれ⁉

 超気持ちいい。今までしてきたエッチなんて軽く飛び越えちゃう!

 い、イクゥゥ!

「あ、あふ……ん」初めての絶頂で身体が動かない。

「あら。まあ、仕方ないわね。私の機澄は世界一気持ちいいから」

「も、もっと」

「駄目よ」

「そ、そんな」

「いいこと? もう一度すれば《反転》が消えてもとに戻るわ。あなたの身体はもうとっくに願いが叶った状態よ」

 記希依はスマフォで自分の顔を見た。

「全部、綺麗になってる」

「身体ももとに戻ってるでしょ」

「ありがとう、鏡華ちゃん」

「こら、抱きつくな。もう、こらっ」



 その後、再検査をお願いしたところ、先生は驚いた。

 誤診だったことを謝罪してくれたが、記希依はなんども良いですからと断った。

「でもね。検診には必ず最低でも、来月にはまた来なさい。どうせ言っても、アレ続けるんでしょう」

「はい!」



 鏡華ちゃんは時々遊びに来てくれた。

 だけど、私がいくら迫っても応じてくれなかった。

「言ったでしょ。あなた、またボロボロになりたいの?」

「でも、私、今のバイトじゃ物足りなくなっちゃって」

「あと数日もすれば慣れるわ。それに私もこの街から出るから」

「え、そんな。もっといてよ。これ、ペットボトルのお茶」

 パシュッと蓋をひねって一気に飲んでくれた。

「駄目よ。《反転》が確実に行われているかどうか、それを見極めるためにいるだけ。だから……、あれ……」

「ごめんね、鏡華ちゃん。実は溜まってた睡眠薬全部、ラベルに穴開けて入れちゃった」

 鏡華ちゃんの唇……わたし、もう一度味わいたいの。

 舌を入れなければ。

「ちゅっ。あっん、すっごい」

 だめ、もう、我慢できない。

「グホッ……。なにこれ、血?」

 やだ、肌が、どんどんただれていく。お腹が痛い。

 立ってられない。早く、救急車……早く……。



――「お久しぶりです、鏡華さん」

「ちっ。会いたくなんて無かったわよ、このサディスト」

「おや、失敗されたんですか。うふふ」

「余計なお世話よ! 大体、魅苦はどれだけの人を不幸に叩きつけたら気が済むわけ!」

「さあ」

「さあ? いつもいつもふざけんじゃないわ」

「強いてあげれば、《貴族》の皆様がご満足されるまででしょうか」

「アンタって人は」

「そんなにズカズカと歩いてくると、せっかくのヒールが折れますよ」

「うるさいわね! 睨みつけなきゃ気がすまないのよ!」

「あらあら、大きなおっぱいが当たってますわ」

「もういいわ」

「あら、もうお帰りになるのですか? せっかくですからお茶でもいかがですか」

「お断りよ。いい、これだけは言っておくわ」

「何でしょう」

「絶対に魅苦から人を救い出してみせるわ!」

「その願い、《反転》しないといいですね」

「むっか! じゃあねっ」

「それでは、また逢える刻を」

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