第六話 泡娘

 記希依シルキィは秘密のバイトをやってるの。

 家に男の子を連れてきて、お金貰ってエッチなサービス。

 つまりソープ嬢。もちろん、警察にバレたら人生終わり。

 それも相手は分かっているからバラさない。

 記希依の年齢は十五歳。このバイトを始めてから二年のベテランよ。

 記希依の家は、パパが亡くなってママだけ。

 パパは八十歳で大往生。ママは五十代っぽい。

 別に無理強いされてやってたわけじゃない。記希依はビッチなの。週に四日間はセックスしてないとイライラするの。

 でも、お医者さんに定期検診に行った時、頭が真っ暗になっちゃった



「本田さん、お入りください」女医さん。ソバージュヘアで黒人とのハーフだって。

「失礼しまぁす」

「ふぅ……。あなた、まだやってるのね」

「だぁって」

「自分から進んで、しかも未成年。はぁ……」いつも愚痴ばっかり。

「記希依、アレがないと生きていけないの」

「あなた、もう自覚症状出てるでしょ。ほら、このレントゲンとか見てみなさい」

 写真とか数字のいっぱい書かれた紙を見せられた。

 説明されても全然わかんない。

「……でしょうね。というわけで、このチェキ見てもらえる?」

「ひぃぃ、なにこれ。グロい」

「これね、あなたの膣の内部よ。それからこれ、お口の中ね。あなたの身体はもう性病でボロボロなの。あなたを通して感染している子だって何人いるかわからないわ」

「でもでも、ゴム使ってるし」

「いい? フェラでも感染するのは前にも行ったわよね? ……いずれにせよ、あなた、このままじゃ赤ちゃん産めないわ。それどころか、死ぬかもしれないわよ」

「ちょ、やだ、ジョーク。それってブラックジョーク?」

「ブラックジョークだったらまだ笑えたけれど、あなたの子宮筋腫、もう手遅れなくらい進んでるの」

「……え」

「もう、あなたの卵巣、無いわよ」

「うそ……」

「月経、来てないわよね」

「あ」

「セックスのとき、痛みのほうが強くなってるわよね? 子宮内膜症もかなり進行しているわよ」

「う……」

「どうしてもっと頻繁に来なかったの。半年前だなんて。いい、プロは毎月検診にきているのよ」

「だって……」

「本田さん、鏡見たのいつ?」

「え⁉ 何言ってるの」

「自分のスマフォで顔を見てご覧なさい」

 誰、この顔。

 ほうれい線がこんなに。肌もただれていて、吹き出物まで。

 髪の毛も抜けてる。

 目の前が真っ暗になってきた。

「ほ、本田さん、ちょっと……。もしもし、女性の看護師一人寄越して――」



「はじめまして。夢野魅苦です。魅苦でよろしいですよ」

「ミクちゃーん?」サラサラのロングヘアにモデルみたいなスタイル、超ミニスカ。

「はい。ここは《夢目》の世界です」

「いや。記希依の顔見ないで」

「では、この仮面をおかぶりください」

「なにこの蝶々みたいなの」

「これで顔を隠せます。ほら、周りの淑女さまも」

 本当だ。みんな何か被っている。

「う、うん。分かった」

「それでは、あなたがここに――」

「ねえ、記希依って呼んで。タメがいい」

「は、はい。ではあらためて。記希依がここに来た理由は、人生の分岐点に戻りたいと願ったからなの」

「ええと、あの時こうすれば良かったーってやつ?」

「その通り」

「漫画とかゲームとか? よく聞いたことあるけど、全部作り話でしょ」

「おや、ここが記希依の仕事場ですか」

「やだ、ここ記希依んちのお風呂じゃない。あれ、記希依がいる? 嬉しそうにフェラしてる」

「随分と、お盛んだったのね」

 パラパラ漫画みたいに、次々とお客さんが変わっていく。記希依、何本食えたのかよく覚えてない。

 ううん、変わっていくのはお客さんだけじゃない。

 アハ体験が記希依の身体に出てる。

「やだ、どんどんオバサンみたいになっていく。なんで、やだ、これ以上見せないで!」

「この方はお父さんですか?」

「パパ?」

 若い頃のパパ、五十代くらいのパパだ。

 記希依の寝ている傍で何やってるの?

「……パパ、記希依に夜這いしてたなんて、うそ」

「気付かなかったのかしら?」

「いつも、おま◯こ濡れてたから、記希依いやらしい娘なんだって思って」

 まさか、ビッチになった原因て……。

 パパ、裸になって何しているの?

 いや、小さい記希依の脚を広げないで!

「嫌! もう見たくない」

「ここが、あなたの人生の分岐点のようね」

「知らない。知らない。知らない。こんなの分岐点なんて知らない」

「人にはよくあることです。気づかないうちに分岐点を通過することがあるのも仕方のないことでしょう。おっと、失礼タメ口には慣れなくて」

 なんなのこのミクって人。

 なんで笑ってるのよ。

「バカにしてるの! 記希依がキラキラネームだから? 頭弱いから? アホだから?」

「ごめんなさい。口角が上がる癖があるの」

「嘘よ」

「それはともかくとして、記希依は分岐点をやり直すチャンスが来たの」

「チャンスって何よ。本当にやり直せるわけ無いじゃん」

「では、試しに《巻き戻して》と言ってみて。そうすればもう一度やり直せる。ただし、その後、私は一切の干渉はしません。二度と会うこともないわ」

「じゃさ、嫌って言ったらどうなの?」

「先程の病院で目が覚め、ここでの出来事は綺麗に忘れますよ」

「いぃぃぃぃぃや! 記希依はミクの玩具にならない!」

「信じていただけたようですが、拒否されるのですか?」

「うん!」

「仕方がありません。それでは、お大事に」



「お、気がついたか」

「園田先生?」

「名前を言えただけで上出来だ。お前は倒れたんだ。今点滴している。身体のこと、よく考えろ、な」

「先生……」

「後のことは任せたぞ、うつつ

「はい、先生」

 看護師さん? いつも二人っきりなのにどうして。あ、そうかあの時倒れたから。

「あなた、魅苦に会ったでしょ」

「ミク? ボーカロイドの?」

「そして、拒否をした。偉いわ、あの娘、人がさらに絶望するのを楽しんでいるんだから、全く趣味が悪いわ」

「あの、何のことを言っているの?」

「いいの。どうせ記憶は消されているんだから」

「何を言っているのかさっきから。それに看護師さんみたいな、すっごい綺麗な人、この病院で見たことないんですけど」

「当然のことをズバリと言うのは嫌いじゃないわ。そのご褒美ってわけじゃないけど、選ばせてあげる」

「選ぶ?」

「私の名前は、現 鏡華。あなたに《反転》をもたらす者」

「反転?」

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