犬塚惇平『異世界食堂』(ヒーロー文庫)を読んで
『美味しそうな料理と食堂を賑やかせる異世界人たちが
織り成すドラマに、心が温まる――』
アンパンマンくらい餡子がぎっしりとつまったあんパンを食べてみたい。どうも、一条二豆です。
さて、今回は犬塚惇平先生の『異世界食堂』について書かせていただきたいと思います。ここ最近、いわゆる「食ラノベ」というジャンルが増えてきましたね。
このような料理系で僕が初めて読んだのは、高野小鹿先生の『彼女たちのメシがマズい100の理由』だったと思います。当時この作品を見たときは、なかなか色物のジャンルだなと思ったものです。
食ラノベを見かけるようになったのは、投稿サイト上がりのラノベ作家が増えてくるとともに、専門職に焦点が当たった(だいたい異世界に飛ばされる)作品が多くなった影響なんですかね。
◆背表紙より抜粋◆
『オフィス街に程近い商店街の一角、犬の看板が目印の雑居ビルの地下1階にその店はある。猫の絵が描かれた扉の食堂「洋食のねこや」。創業以来50年、オフィス街のサラリーマンの胃袋を満たし続けてきた。洋食屋といいながら、洋食以外のメニューも豊富なことが特徴といえば特徴のごく普通の食堂だ。しかし、「ある世界」人たちにとっては、特別でオンリーワンな一軒に変わる。「ねこや」には一つの秘密がある。毎週土曜日の店休日、「ねこや」は“特別な客”で溢れ返るのだ。チリンチリンと鈴の音を響かせてやってくる、生まれも育ちも、種族すらばらばらの客たちが求めるのは、世にも不思議で美味しい料理。いや、オフィス街の人なら見慣れた、食べなれた料理だ。しかし、「土曜日の客たち」=「ある世界の人たち」にとっては見たことも聞いたこともない料理ばかり。特別な絶品料理を出す「ねこや」は、「ある世界」の人たちからこう呼ばれている――「異世界食堂」。そして今週もまた、チリンチリンと鈴の音が響く。』
あらすじ長いわー。……それはともかく。
この「異世界食堂」には、「ある世界」に点在する扉を通って、人間に限らず亜人など様々なお客さんがやってきます。そんな彼らに出された美味しい料理と、彼らのドラマがきっと皆さんに満足感を与えてくれるでしょう。
あらかじめ断っておきますが、食ラノベはまだ絶対数が少なく、歴史が浅いです。そのため、僕もあまり多くは語れないと思いますが……魅力を伝えられるように頑張ります!
では、ここらで本題を。
◆オススメポイント1 毎回変わる語り手◆
この作品には、他作品と異なり全体を通しての主人公がいません。毎回別のキャラクターが語り手となり、物語が進んでいくのです。(重複することはあります)
ただ、「洋食のねこや」を切り盛りする店主や給仕役の魔族の少女アレッタなど、レギュラー陣のようなキャラクターたちはいます。それでも、彼らが語り手となる回は指で数えるほどしかありません。
語り手が毎回違う、つまりその分新キャラが増える余地があるということですが、その数が膨大になって把握しきれなくなり、混乱するということはありません。この作品は、約20ページの小話が連なって構成されているのですが、それら全てがつながっているのではなく、1つ1つが真新しい物語として収録されているのです。そのため、躍起になってキャラクターを覚えていかなくとも、新しい物語として問題なく楽しむことができます。
語り手が毎回変わることで、1つ1つを新鮮な気持ちで読むことができて、飽きることがありません。これは、この作品の立派な魅力だと思います。
◆オススメポイント2 まさに飯テロ! 美味しそうに料理を食べる客人たち◆
食ラノベである以上、当然この作品には料理を食べるシーンが出てきます。料理の表現については僕が不勉強なので、その素晴らしさがどれほどのものなのか判断しかねるのですが(率直の感想だと、とても食欲をそそられました)……それを食べるキャラクターたちについて語らせてもらいたいと思います!
この食堂には、大きく分けて二種類のお客さんが来店します。1つは、その存在を初めて知る新参者。もう1つは、胃袋を掴まれ、たびたび食堂に訪れる常連客。そして、その客人たちは異世界の料理の味を一方は驚きで、一方は確かめるように、各々の感動とともに語ってくれます。その姿を見ているうちにもうお腹が減って仕方がなくて……よだれが止まらなくなること間違いなしです!
また、異世界のお客さんと言うことで、エルフやドワーフ、フェアリーなどの亜人や、果てにはリザードマンやドラゴンまで来店します。様々な種族の客たちが、一体料理のどんなところに注目するのか、というところも見所です!
1話1話と読んでいくうちに、その回で出てきた料理が恋しくなってきます。僕が普段漫然と食べている料理の味やその感動を再確認させてくれました!
◆オススメポイント3 自然と浮き出てくる奇縁や人間ドラマ◆
先述した通り、この作品はショートストーリーが多数収録されたような構成になっています。そのため、話自体はつながっていません。しかし時間は自然と流れていくわけで、物語を読み進めていくうちに、登場人物たちの間で新たな人間関係ができたり、思わぬところでつながったりと、キャラクターたちのドラマを垣間見ることができます。
「異世界食堂」を通じて、ある国の皇子がそこで知り合った遠い国の皇女に恋をしたり、世界に誇る大賢者と大剣豪が実は旧知の仲だったり、常連客であるドラゴンを神として崇めている信徒たちがそこを聖地としていたり……と挙げていればきりがありませんが、「異世界食堂」内外で結ばれた奇縁を見つけるたび、言葉に表せぬ感動が込み上げてきました!
◆最後に◆
料理だけが魅力ではない、食ラノベのなんたるかを教えてくれる素晴らしい作品でした!
小話構成なので読みやすく、まだ3冊しか出ていないので、よかったらご購読ください。
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