支倉凍砂『狼と香辛料』(電撃文庫)を読んで

     『怒涛の展開を見せる金融バトルに目が離せない!

       そして、仲睦まじい主人公とヒロインの絆に心揺さぶられる――』



 年明けだからと調子に乗って新刊を33冊も買ってしまいました。新年早々、散財が激しいです……というわけで、どうも一条二豆です。



 えー、今回は第二弾と言うわけで、僕の大尊敬する支倉凍砂先生のデビュー作『狼と香辛料』について書かせてもらいたいと思います! 

 この作品は、第12回電撃小説大賞の銀賞作品で、2007年の『このライトノベルがすごい!』では堂々の一位を獲得している実力派ライトノベルです。

 シリーズ物というわけで前回のものより長くはなると思いますが、よろしくお願いします!



◆カバー折り返しより抜粋◆


『行商人ロレンスは、麦の束に埋もれ馬車の荷台で眠る少女を見つける。少女は狼の耳と尻尾を有した美しい少女で、自らを豊作を司る神ホロろ名乗った。

「わっちは神と呼ばれていたがよ。わっちゃあホロ以外の何者でもない」

 老獪な話術を巧みに操るホロに翻弄されるロレンス。しかし彼女が本当に豊穣の狼神なのか半信半疑ながらも、ホロと共に旅をすることを了承した。

 そんな二人旅に思いがけない儲け話が舞い込んでくる。近い将来、ある銀貨が値上がりするという噂。疑いながらもロレンスはその儲け話に乗るのだが――。

 第12回電撃小説大賞<銀賞>受賞作!』



 この作品に出会ったのは、すでに一区切りついた後で、きっかけは知り合いに勧められたからでした。その知り合いはシリーズの3分の1しか持っていなかったのですが、当時作品を読んで感動した僕は自分で1から全て買いそろえました。人から借りた作品を自分でそろえたくなるというのはそうそうないことなのですが、この作品は僕にそうさせるほど強く心を揺さぶってきました!



 前説はこのくらいにしておいて、本題を。



◆オススメポイント1 他に類を見ないジャンル『経済ファンタジー』◆


 自由度が高いライトノベルにはメジャーなものからマイナーなものまで様々なジャンルがありますが、『経済』を軸にした作品はあまりありません。僕個人としては、経済系のラノベでまず真っ先に挙がるのはこの作品だと思います。


 経済と聞くとお堅くて小難しい内容なのではないかと思われる方も多いでしょうが、ところがどっこいそんなことはないんですね。確かに作中に登場する経済の仕組みを理解するのが難しい場面もありますが、丁寧で非常にわかりやすい説明がなされていて、読んでいて不快感を覚えることはありません。


 お金のやり取りだから地味なんじゃないか、とはよく知人に紹介するときに言われるのですが、そんなこともありません。読めない展開、手に汗握る駆け引き、あっと驚かされるようなどんでん返し……ぶっちゃけ、下手なバトル系ラノベよりも胸躍る内容です!


 『経済ファンタジー』と言うより、『お金で戦うバトルファンタジー』と拡大解釈してもいいかもしれませんね。ただ、この作品の真の面白さはここだけではないので、『バトルファンタジー』と評すのはいささか憚られますが……。



◆オススメポイント2 まるでその世界に入り込んだかのように魅せる文章◆


 この作品の舞台は、おそらく中世ヨーロッパのような場所なのですが、その時代を感じ取られるように工夫がなされています。その最たるものが人名・地名以外で「横文字を使わない」ことだと僕は読んでみて感じました。中世というのは当然現代よりも古い時代です。それを事実としてだけではなく、肌で馴染むことができるようにそのような工夫がされているのでしょう。


 例えば、「ソーセージ」を「腸詰め」と、「ワイン」を「ぶどう酒」と作中では表現されています。日常的にも使う横文字をあえて古く感じる日本語にすることで、その時代と世界観を見事に表現しています。僕が知らないだけでこのような技法が一般的にあるのかもしれないのですが、この技術によって作品により入り込みやすいようになっていました。


 また、支倉凍砂先生は比喩表現がとても巧みです。無理やり考え出したような不自然な感じもなく、すっと情景が浮かび上がり、もっと言えば音や熱、風の強さなども感じ取れるくらいです! 読んでいて、小説家を志す者として勉強になる部分がとても多いです。注意深く読んでいたら気づくのですが、出るわ出るわ比喩の山……。


 独特できれいなこの比喩表現に、ぜひ注目してもらいたいですね。



◆オススメポイント3 鮮やかな「キャラクターの書き分け」◆


 これは読者としてと言うより、小説家を目指す身として感動した部分ですが、この作品はなんと言ってもキャラクターの書き分けがすごいんです!


 この作品は行商人(各地を巡って物を売買する商人)であるロレンスが狼神ホロを故郷であるヨイツへと送るために旅をする――つまり、一つの場所には留まらず、様々な土地をめぐるのですが、そうなってくると当然行く先々で新たなキャラクターが出てくるわけです。 


 小説を書くにあたって、難所の一つがキャラクターの書き分けだと僕は思っています。他のキャラとは被らず、読者にインパクトを与えなければなりません。愛着を持ってもらえるかどうかなどの要素はともかく、これを実際にやるのが結構難しいんですよね……。


 この作品に出てくるキャラクターは名前にインパクトがあるわけでも、さりとて行動が奇怪だったりするわけでもありません。ですが、彼(彼女)ら一人一人に強い個性があります。これはひとえに支倉凍砂先生の描写力の賜物だと思います。ラノベの登場人物の描写はその性質上、イラストに頼り切って大分おざなりになってしまっているものも少なくないと思いますね……。いや、イラストレーターさんに喧嘩をふっかけてるつもりはないんですが、やっぱり土台があってこそのイラストだと僕は思うんですよね。


 その点、文倉十さんはキャラクターたちの魅力をより際立たせていると思います! やはりライトノベルですからね、そのイラストにも注目です!



◆オススメポイント4 ゆっくりと進んでいく、二人のラブコメディ◆


 経済バトルの他に注目してもらいたいのが、ロレンスとホロの関係です! 旅を続けていくうちに引かれあっていく二人ですが、種族や価値観の違いなどですれ違いが起こっていきます。二人が旅の果てに見つけた、本当の愛とは……!


 一般的なラブコメディのように胸きゅんシーンがあったりするわけではなく、徐々に愛が深まっていくという感じなのですが、心が温かくなり、本当の「愛」とはなんなのか考えさせられます。


 また、二人が会話の折に見せる、想いが通じ合っているような雰囲気や、謎かけめいたやり取りなどを楽しんでもらえればと思います。



◆最後に◆


 僕のイチオシの作品です。今は『狼と羊皮紙』という世代交代され、主人公が変わった新たな物語がスタートしています。「話が長くてとても手が出せない!」という方はまずこの『狼と羊皮紙』をお手に取ってみてはいかがでしょうか? 前作を知らなくともほとんど内容が楽しめますし、現時点で一冊しか出ていません。それが気に入ったら、『狼と香辛料』も楽しめるはずですので、ぜひ参考までに。

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