二宮酒匂『幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。』(KADOKAWAブックス)を読んで)
『人ならぬものに恋をした少年の一途な想いに胸を打たれる――』
今回は、二宮酒匂先生の『幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。』でレビューを書かせてもらいたいと思います!
ライトノベルとか言っておきながらいきなり線引きが怪しい文芸書サイズに行くというツッコミはなしでお願いします……。
◆背表紙より抜粋◆
『田舎町のおんぼろな自動販売機、そのそばにはいつも着物姿の女がいる。軽やかに歌う彼女は「人ならぬもの」。なぜか“ぼく”にしか見えない女を幽霊と勘違いし、塩を投げつけた……それが、出会いだった。
年月が過ぎ、気がつけば“ぼく”は、大人な見た目に反して子どもっぽく純粋な「自動販売機の精」に、恋をしていた。だけど“ぼく”は知らなかったんだ。彼女の本体であるおんぼろ自動販売機に「おしまいのとき」が迫っていることを――。』
この作品は、平成28年8月15日に初版が発行された二宮酒匂先生の著作です。もちろん初版で持っています。今年の『このライトノベルがすごい!』では単行本・ノベルズ部門でトップ20にランクインしており、その評価の高さが窺えます。
ジャンルは純愛ラブコメディ。ラノベ業界では珍しく、三角関係やエロハプニングがない真っすぐで優しい仕上がりになっています。
それでは本題の感想を。
◆オススメポイント1 他の作品にはない巧みな表現方法◆
この作品には主に二人の男女が登場します。ある田舎の神主の息子「ぼく」と古びた自動販売機の付喪神である「自動販売機の精」。この二人を中心にして、物語は進んでいきます。
この名前がないというのも珍しいですね。名前をつけるのは、キャラクターを印象づけるための強い要素の一つですが、それを取り払うというのは僕の中では衝撃でした(ラノベじゃなかったらままありますが)。しかし、それでもキャラクターが像としてきれいに浮かび上がってくるところがこの作品の魅力の一つだと思いました。
また、時間の流れを違和感なく、整然と仕上げているところもこの作品の魅力です。小説を書くにあたって、作中で大きく時間を流れたことを表現するのは至難の業です。キャラクターにはなんらかの変化をつけなければなりませんし、年齢に見合った行動や考え方にしなければなりません。当然周りの環境の変化も描写する必要があります。作中で主人公は小学生、中学生、大学生、大人と成長していくのですが、その成長が見て分かり、主人公の人生を感じることができる素晴らしい文章構成・表現でした。
初めは語彙も乏しく感情的だった主人公が口達者になり落ち着きを見せ始め、言葉遣いも少し変わっていく……まるでわが子の成長を見る父のような気分になりました。
それと、付喪神であるがゆえに歳を取らないヒロインにも注目です。ヒロインは時間が流れてもとくにこれといった言動の変化は見られないのですが、主人公の視点から見たとき、最初はおせっかいなお姉さんのようだったのに、最後にはこどもっぽく見えてくるという不思議……!
目を通したとき、僕は感動しましたね!!!
言動が全く変わっていないのに、たった一冊で見え方ががらりと変わるとは思ってもみませんでした! これも結局は主人公の成長によって見られるものではあるんでしょうが、このヒロインの変化にご注目です。
◆オススメポイント2 『物を大切にする精神』それを教えてくれる◆
僕が作品を読んで感じたことですが、ヒロインが物から生まれた付喪神ということで、物を大切に扱うまたはぞんざいに扱うという描写がよくありました。物語の中に、捨てられていた新品同然の不良図書をヒロインが読んでいるのを見つけ、主人公がそれを取り上げるというシーンがあります。そこで僕は感銘を受けた一節があります。
「それぞれが『これこれの使途に用立てるもの』という明確な存在理由を持って生み出されてきたの。私たちはそれを全うするために存在してる。」
よくないものだからと真新しいその不良図書を廃棄しようとする主人公にヒロインが放った一言です。物につく付喪神である彼女のその言葉には説得力があるセリフでした。この一言から、僕たちの存在理由、そして僕たちが使っている物の扱い方について深く考えさせられました。
作中ではこのような、自然や物に対して感謝する、大切にするといったことを強く考えさせられるシーンが多く出てきます。これを読むと本当に物を大切にしようという気持ちが湧いてきます!
◆オススメポイント3 時間が上手に使われ引き立つ、二人の恋模様◆
さて、この作品の一番の魅力はなんなのか? それは、なんと言っても主人公の切ない片想い、一途な恋心、そして動かない二人の関係にあると思います。
主人公は中学生のころにひょんなことからヒロインへの想いを自覚します。以来、ヒロインのことを忘れようとする時期もありますが、結局ヒロインのことが忘れられず、彼女だけを想い続けます。彼のその一途な想いに胸を打たれました。しかし悲しいことに、ヒロインは彼のことを弟として見ており、一向に主人公の恋心に気づきません。主人公も告白する勇気が出ないまま、もどかしさを抱きつつ物語は進んでいきます。
そして迎えるクライマックス。「おしまいのとき」が迫り、ヒロインに最大の危機が訪れたとき、主人公が抱いた決意とは? ついに動き出す二人の関係は一体どうなってしまうのか! と続きが気になる展開になっていきます。
◆最後に◆
この作品は、主人公の成長とヒロインへの想い、そして万物を尊ぶことの大切さが非常によく表現された一作だと思いました。その内容もさることながら、とにかくこれを一冊分にまとめ上げたのがすごいと思いました!
自信を持ってオススメできる作品です。コミカルで読みやすく、シリーズものではないのですぐに読むことができると思います。よかったらご購読ください。
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