第11話『創業67年! 水曜女性サービスデー! 勝屋温泉』
銭湯『勝屋温泉』からご支援いただいたのは入浴券である。
男なら誰しも「番台に座って壁の向こう側を覗きたい」でなければ「子供に戻って女湯に入りたい」そう思ったことのある夢の楽園、それが銭湯。
子供の語る夢ではない、まさにこれは大人の夢。
そこで戦後復興期に始められた由緒ある銭湯『勝屋温泉』さんに、『ご当地ヒーロー”ハチカヅキン”一日番台代行イベント!』をお願いしたところ、快く断られた。
閑話休題。
近代以降、各自のご家庭にお風呂が普及し、銭湯の数がドンドン減っているため、昨今ではお風呂屋さんの作法すら分からない方も増えて、お風呂屋さんモラルハザードの発生が懸念されている。
そこで基本的な銭湯利用法をお教えしよう!
まず、大浴場の壁絵の風情に心を洗い、手近な給湯口で身体を洗い、最後に浴槽に入って疲れを洗い流すのだ。
決してこの順番を間違ってはいけないぞ。
心と体を癒やす正義の浴槽を、決して悪の汚れに染めてはならないのだっ!
そして、十分に各種浴槽を堪能し、お風呂を上がってかけ湯を浴びて、脱衣場へ向かって一休みである。
風呂上がりは汗をかきやすく、更に急な運動や、冷たい外気による温度変化は危険が危ない。
まずは汗が引くまで休憩するのがヒーロー”ハチカヅキン”のお勧めだ。
汗が引いたら浴場でひと流しし、清潔な下着に着替え……コーヒー牛乳である。
コーヒー牛乳とは、コーヒーを牛乳で割り砂糖を加えたものであり、風呂上がりにこれを飲み干せば幸せの充填度が120%を超え、腰に手を当てて飲むのがマストスタンダード。
だが童心に帰って、子供の頃のようにコーヒー牛乳を飲んでいる友人を笑わせようとしてはいけないぞ。
友人が吹き出してしまったら、番台の人に謝って雑巾を貸して貰わないといけないからだ!!
スポンサーたる『創業67年! 水曜女性サービスデー! 勝屋温泉』のステッカーを、ケロヨンの風呂桶に貼り付けたヒーロー”ハチカヅキン”(本名:大鉢 和紀)はいい湯加減でホカホカに温まった体で、怪人”犬王モノー”(イヌオウモノー)が銭湯から出てくるまでスタッフが預かっていた人質の花男くん(フレンチブルドッグ 8才 ♂)を受け取り背後から抱き上げるっ!
セントウガエリノイイニオィィイイッ!
ふわりと香る銭湯帰り独特のお風呂に入りたくなってしまう匂いが花男くん(フレンチブルドッグ 8才 ♂)を包んだような音がスピーカーから香り立つ。
「創業67年! 勝屋温泉、では水曜日に来られた女性は50円引き! 更に『後藤薬局』さんの協力でメーカーと提携、美容・化粧品サンプルのお試しセットも各種取りそろえ、女性のお客様のニーズに答えたより良い銭湯を心がけているぞっ! 男性の方はこれからの季節、彼女や奥さんとレジャー感覚でカモン! ヒーロー”ハチカヅキン”も体の芯からお勧めだ!! それにしても外はやっぱり寒いな……」
~二十分後~
「ギャアアアアア!! 水曜日に来られた女性は50円引きの勝屋温泉で、泡風呂・電気風呂・季節の薬草風呂、極めつけはサウナに入って楽しい時間を過ごしたのち、素敵なコスメセットの試供品を試していたら、風呂上がりのまま寒風吹きすさぶ外で私を待ち続けたヒーロー”ハチカヅキン”が、冷え切った身体で転がっているではないかっ!? ええい。このようなチャンスは二度と無い! だが血行促進、保湿成分たっぷり乳液を配合したこのけだるいヘヴン状態ではよもや戦えん! ならば今は見なかったことにし、そっと帰宅するべし。帰宅! 帰宅っ!!」
そう言うと怪人”犬王モノー”は、外で待つうちに寒さで固まったヒーロー”ハチカヅキン”が抱えていた花男くん(フレンチブルドッグ 8才 ♂)を離してやると---花男はスタッフに運ばれてゆく---帰宅していった。
戦いは終わったのだ。
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