第2話 『優美! 気品! ファッショナブル! イトダ洋品店』
今回のパワーアップアイテムは、商店街川向う入り口入ってすぐの衣料品店『イトダ洋品店』より提供いただいたマフラーである。
寒い季節にピッタリの紺のマフラーはデザイン性を重視し、常の商品より遥かに長い2.5mのロングランを達成して、ヒーロー”ハチカヅキン”(本名:大鉢 和紀)の手の中で、持て余したかのようにとぐろを巻く。
マフラーの原産地はメイド・イン・チャイナ。
かつて清の時代世界最大の帝国を誇り、眠れる獅子と列強各国から恐れられた脅威の国家だ。
だが、昨今は政情不安が続き、国家としての信頼性は低下しているかのように思える。
しかし繊維産業業界でのその力量は、未だ在りし日の清を彷彿とさせる力強さであり、日本繊維業界を席巻し侵略せしめたその実力は、まさに牙を剥く獅子の姿そのものである。
大量人員導入術による「安価低品質」と言われた時代を乗り越えて、勃興してくる第三勢力の国々との戦いをくぐり抜け品質面でも研ぎ澄まされたその牙の冴えたるや……見よっ!
吹きさらしの『スーパー億万』駐車場で、人質の花男くん(フレンチブルドッグ 8才 ♂)の身代金を要求する怪人”犬王モノー”(イヌオウモノー)が寒さに震え、思わず温かい花男くん(フレンチブルドッグ 8才 ♂)を抱きしめて凄く嫌がられてしまい、傷心のまま凍えてヒーローの到来を待つ姿を!
そこへ颯爽と現れる我らがご当地ヒーロー”ハチカヅキン”は、『優美! 気品! ファッショナブル! イトダ洋品店』と虹色に彩色されたロングシールをたなびかせながら、怪人”犬王モノー”の背後よりゆっくりと忍び寄り、その首に巻いたロングマフラーの余った1.2m分をヒョウッと両手に構えるやいなや、怪人”犬王モノー”の首に力強く、そして繊細なタッチでグルグルと巻きつける!
マフラァアアアアア!
柔らかで質の良いロングマフラーで恋人同士がするように相合マフラーをされた人間が放つような音がスピーカーから再生される!
「ギャアアアアアアアア! 商店街川向う入り口入ってすぐの衣料品店『イトダ洋品店』で販売される寒い季節にピッタリ、恋人同士の語らいにも、ファッションのお供にも最高のセンスを約束する2.5mロングマフラー(紺色)が、寒さに震えて待ち続ける私の心と身体を温かい優しさで春の雪解けのごとく溶かしてしまう!! 『イトダ洋品店』の2.5mロングマフラー(紺色)の暖かさに包まれては病魔退散、寒風抹殺! こうも暖かな気持ちになってしまっては、はや戦うことはできん……退けっ! 撤退だっ!」
言い終わるやいなや怪人”犬王モノー”は、首に巻かれたロングマフラーとヒーロー”ハチカヅキン”の左腕を片腕でなんとか振り払うと、まだ抱えていた花男くん(フレンチブルドッグ 8才 ♂)をそっと下ろし---花男は”ハチカヅキン”の足元にこぼれるマフラーの端を齧りにいった---脱兎の勢いで逃走していった。
戦いは終わったのだ。
「優美! 気品! ファッショナブル! 『イトダ洋品店』の2.5mロングマフラー(紺色)があれば怪人の凍った心も恐れることはないぞ! 皆も春の訪れが待ちきれないならば『イトダ洋品店』で一足先にゲットしよう! ヒーロー”ハチカヅキン”のお勧めだ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます