ご当地ヒーロー”ハチカヅキン”とは、商店街のスポンサーからの提供を受けたパワーアップアイテムで戦う正義の味方である。

壱りっとる

第1話『大好評! 新鮮安心! 正徳野菜商店』

 八百屋の『正徳野菜商店』からの支援により得られた季節のカボチャである。


 煮れば甘く柔らかに、そのホクホクとした食感と豊富なビタミンAが人の心と体を暖かくしてくれる、冬の素敵なお野菜だ。


 しかしその姿は、カボチャの素敵な一面にしか過ぎない。


 もう一つの面とは……生のカボチャである。


 加熱されていない状態のカボチャは皮が非常に固く、内に秘めた繊維質は凄まじいまでの密度を誇るのだ。


 生のカボチャを切ろうとして包丁の刃が欠けるぐらいは朝飯前。


 中でも最硬度を誇る種類ともなれば、大の大人の振り下ろすマサカリの一撃を平気で耐え抜ぬき、上段に持ち上げて鋼板に叩きつければ、逆に鉄をもひしゃげるほどの恐ろしい強度を持つ。


 実際、これほどの硬度を持った野菜は他に類を見ない。


 キュウリ・ハクサイ・ニンジン・シイタケ・ゴボウ・レンコン・大根まで列挙しても、カボチャに敵うものは一切無い。


 その無敵のパワーを持って敵を撃つのだ!


 スポンサーである『大好評! 新鮮安心! 正徳野菜商店』の大判シールを、緑のデコボコした外皮になんとか貼り付けたヒーロー”ハチカヅキン”(本名:大鉢 和紀)は、暴力の権化と化したカボチャをカメラクルーに見せびらかしながら、ステージ上で人質の花男くん(フレンチブルドッグ 8才 ♂)の身代金を要求する怪人”犬王モノー”(イヌオウモノー)の後頭部に、渾身の力を込めて繊細なタッチで振り下ろす!


カボッチャアアア!!


 超硬度の野菜で人間を殴ったような音が商店街のスピーカーから鳴り響く。


「ギャアアアアアアアア! 新鮮なカボチャで殴られると死ぬほど痛い!! お、お、おのれハチカヅキン。カボチャを甘く柔らかく煮付けて冬至に美味しくいただき、健康を回復し無病息災を賜った暁には、決してお前を許してはおかんぞ! だが今は逃げるべし。サラバダー!」


 言い終わるやいなや怪人”犬王モノー”は、まだ抱えていた花男くん(フレンチブルドッグ 8才 ♂)をそっと下ろすと---花男は”ハチカヅキン”のお尻の匂いを嗅ぎにいった---脱兎の勢いで逃走していったのだ。


戦いは終わったのだ。


「大好評! 新鮮安心! 正徳野菜商店さんの素晴らしいカボチャのパワーがあれば、怪人なんて怖くないぞ! 皆も冬至の日にはカボチャの煮つけを食べて、無病息災健康増進を心がけるんだあ!! ヒーロー”ハチカヅキン”との約束だぞ!!」

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