できない生徒

 一日の始まりはいつも憂鬱に感じる。

 特にアルバイトの日などは最悪だ。

 またあの出来の悪い生徒の面倒を見なくてはならないのかと思うとうんざりする。

 そうは言っても働かなければ稼げない。

 わたしは重い頭を枕から離し、覚悟を決めてベッドから起き上がった。

 洗面所に行き、ぼさぼさの髪をお湯で濡らしたあと、ドライヤーで乾かす。

 暖かい風に髪を揺られながら、わたしはバイトのことを考えた。

 家庭教師のバイトを始めたのは、今年の夏のことだ。大学生になったわたしは、それまで貰っていたお小遣いを貰えなくなり、自分でお金を稼ぐしかなくなった。

 それなりに勉強の出来るわたしは、時間を選びやすく、尚かつ生徒の両親からお小遣いが貰えるという噂のある家庭教師を選んだ。

 半信半疑ではあったが、わたしが受け持つ生徒の家庭は当たりだったらしく、バイトでその家に行く度に、生徒の母親はわたしにお小遣いをくれた。

 だが家は当たりでも、生徒は当たりではなかった。

 どれだけ丁寧に教えても憶えず、顔も悪ければ要領も悪い駄目生徒。

 お小遣いをくれるお母さんには悪いが、正直、どう対処して良いかわからない。

 最初は有り難かったお小遣いも、徐々にプレッシャーへと変わっていく。

 本音を言えば、もう止めてしまおうかと思っている。給料が良くても、環境が悪くて仕事をやめる人たちの気持ちが、いまなら嫌でも理解出来た。

 けど、それでもこれはわたしが選んだ仕事だ。あの出来の悪い生徒が、最後に辿り着く場所を見届けるまで、わたしは家庭教師を続けよう。

 わたしは髪を整え、質素な服を着て、アルバイト先へと出かけた。

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