五秒間の回想
ビルの窓からは、路上で新年のカウントダウンをする青年たちの姿が見えた。
「五、四っ!」
彼らは楽しそうに数字を数えている。仲間とともに新年を迎えようとしている。
廃ビルの三階でひとり、珈琲を啜る僕とはえらい違いだ。その珈琲も、すでに冬の冷たさで冷えきっており、暖かさなど欠片もない。
だから、冬の寒空で暖かそうに笑う彼らが、酷く妬ましい。
「三、二、一!」
ぼくも、ほんとうは彼らのように年を越す筈だった。
仲間と年明けのカウントダウンをして、初詣を終えたら、家に帰って布団に入る。次の日は家族とお雑煮を食べ、こたつでミカンを摘みながらテレビを観る。
そんな何処にでもあるけど、暖かい新年を迎える筈だったんだ。
けど、そんなことはもう起きない。少なくとも今年起きないことは確実だ。
些細なことで、仲間とも家族とも、ぼくは顔を合わせられなくなってしまった。
「ゼロぉぉ! 新年明けましておめでとう!」
カウントダウンが終わった。今年が終わって、来年になった。
彼らには仲間があり、家があり、家族がある。
そのことが酷く妬ましい。いまのぼくには、この缶コーヒーしかないから。
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