第5話 初まりの5センチ


「はぁ、よく寝た……」



 朝起きると、隣にはステラとレベッカさんが寝ていた。そうだった、昨日はあれから泊まったんだった。


 いつ以来だろう。こんなに人と距離が近くなるのは。こんなに親密にコミュニケーションをとったのは久しぶりな気がする。



 この身体のこともあって、人とは一定の距離をとっていた。でも、私はなぜかステラに惹かれていた。彼のあの望みに私も何かしらの親近感を覚えていた。だからこそ、出来もしない、叶うことのない約束をしたのだろうか。



「涼もうかな……」



 そう言うと私はまだ完全に覚醒していない体を無理やり起こし、外に出るのだった。




 § § §



「おーい! エスカ! 何してるの?」


 

 しばらく外を散歩していると、ステラが駆けてくる。その姿を見て、私は少し微笑ましく思うのだった。



「ちょっと涼もうと思ってね。ステラは何しに来たの?」


「お母さんが朝ごはんを作ってくれたよ! それでエスカも呼んで来てって言われて」


「そう。なら、行きましょう?」


「うん!」



 私はステラの手を握ると、そのまま仲良く家へと戻るのだった。





「よし! 今日こそは進歩させよう!!」


「おー!」



 朝食の後、誰もいない広場に集まると二人で再びペットボトルロケットの作成に取り掛かる。



「うーーん、でもどうしたらいいだろう?」



 ステラは外観だけは立派にさせているようだが、肝心の打ち上げる仕組みを知らない。ここは私が少し手伝った方がいいのだろうか……残酷な現実を見せることになったとしても。



「そうだね、今日は家から材料を持って来たから私がちょっと作ってみるよ」



 そう言うと私は作業に取り掛かる。二つのペットボトルを組み合わせ、ビニールテープで固定する。そこから割り箸にビニールテープを巻きつけ、水と発泡入浴剤を入れたペットボトルに蓋をする。



 そうして完成したものを地面に立てると、ステラはキラキラとした目で尋ねてくる。



「すごいすごい! もしかして、飛ぶの!? エスカすごいよ!!!」



 小さな体をピョンピョンと跳ねさせる姿は本当に可愛かった。しかし、私は彼に教える必要があった。残酷だけど、これ以上夢は見ていられない。



「あ!!! 飛んだ!!!」



 しばらく時間が経過すると、ペットボトルがわずかに空中に飛翔する。だが、目測でもたった5センチ。



 私たちの初まりはたった5センチだった。現状のモノだとこんなものだろう。ステラもがっかりしたのでは、と思うと彼の表情はとても生き生きとしていた。



 そうか。やはりステラはそう言う性格だったか。でも、これ以上の進歩は……



「すごいよ!! やっぱりエスカに頼ってよかったよ!! なるほど!!! こうやって飛ばすんだね!!! これならあの紅い空の星まで行けそうだよ!!!!!!!」


「そうかもね、でもごめんね」


「なんで謝るの?」


「ステラはもっと高く飛ぶ姿が見たいと思ってたからさ」


「そんなことないよ! 飛んだって言う事実が大切なんだ! これから二人で頑張っていこうよ!」


「うん、そうだね」



 先ほどまでは、この街をもう去るつもりでいた。だが、彼のあの目と言葉を見ると最期まで見届けたい気持ちになっていた。



 そして……それから10年の月日が経過した。


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