第3話 届かない夢
くるくるくる、世界は回る。たとえ誰が死のうと、たとえ誰が生きようと、この世界は回り続ける。科学の進歩により破壊されたとしても、世界は回るのをやめない。
いつからだろう。こんな気持ちを抱き始めたのは。私は昔の世界に何か残してきたものがあるのだろうか。そう思うも、もう何百年も前のことだ。何も思い出せない。でも、私はきっとどこかであの時代の日々を想起しては……悲しんでいたのだと思う。
§ § §
アリスちゃんと別れた私はそのまま街の中を進んで行く。
そして、ふと小さな少年が何か棒状のものをいじっているのが見えた。その行動がなぜかやけに気になったので私はその少年に話しかける。
「やぁやぁ、少年。一体何をしているのかな?」
少しおかしな口調で話しかけるも、少年はそんなことを気にもせず私の言葉に応じる。
「ん? 見て分かんない? ロケットを作ってるんだ」
「ロケットぉ????」
何度も見ても、どこからどう見ても、これはペットボトルロケットだ。それに彼が持っているのはペットボトルだけ。少し装飾を施してロッケトのようなものにしているみたいだが……
ペットボトルだけでは足りない。私は知識としてそれを知っている。そして、彼にその事実を伝えようと思うも、彼の言葉を聞いてそれは野暮だと思った。
「僕はね……」
キラキラした目で話し始める少年は、少し間を空けてからその言葉を大事そうに紡ぐ。
「僕はあの紅い空の、あの星の彼方まで行ってみたいんだ」
彼のどこまでも澄んだその目は、あの紅い空の果ての果てにある星を見ていた。決して届くことのない、銀河の果て。彼の夢はそこに辿り着くことらしい。
だが、愕然としてしまう。その夢は叶わない。私が生きていた、あの過去の時代ならば……人は
この少年は、どうしてこの場所で一人でいるのだろうか。ここに来るまでの道のりで、何人もの子どもが一緒に遊んでいるのを見た。だが、この少年はここにいる。きっと、そういうことなのだろう。彼はこの歳にして、誰かと一緒にいる漠然さよりも、自分のやりたいことを追求するという具体的な事に時間を使うと決めたのだ。
「ねぇ、君のお名前は何ていうの?」
「ステラだよ。おじいちゃんがつけてくれたんだ。星を意味してるんだって。おじいちゃんはいつも星の話をしてくれたよ。だから、僕はあの紅い空の先にある星を見にいく事にしたんだ」
「そうなんだ」
私が10歳くらいの頃、彼のような夢はなかった。ただ周りに流されてなんとなく生きていた。あの時代に彼が生きていたならば、きっと天文学や宇宙工学などを学び、あのどこまでも広い
そう思うと、やりきれない。あの時代を知っているからこそ、この少年には同情してしまう。
「お姉さん、旅の人でしょ? 名前は?」
「私はエスカよ。よろしくね、ステラ」
「よろしく! それで、旅の人ならロケットの作り方とか知らない? 僕一人だとちょっと難しくて……」
「そうね……私は結構旅をしているから、ちょっとは手伝えるかも」
「やったー! じゃあよろしくね、エスカ!!」
「うん」
何の因果か知らないが、私は決して叶うことのない夢に手を貸すことになった。だが、不毛だとは思わない。だって、彼の気持ちは……私なんかと違って本物なのだから。
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