第3話
仮設のキャンプで一夜を過ごした。シャワーが無いため、就寝時は汗でベトベトでそれはもう地獄のようだった。小さい頃からお前は欲がないのかと散々言われてきたが、今この瞬間はシャワーが浴びたいと心の底から思った。朝は隊長による起床ラッパという最悪の朝だった。汗臭い防護服に身を包み外へ出るとほとんどの人がすでに整列していた。私も急いで列に加わり同室の奴らも同じようにした。しばらくすると隊長から今日の任務が告げられた。
「今日は昨日に引き続き生き残りの捜索だ。」
「「はい! 」」
蜘蛛の卵が孵化する時のように白い塊が皆、散り散りに広がっていく。皆がそれぞれ捜索を始める中、私は一直線に隊長の所へ向かった。私は昨日からある1つの疑念が晴れなかった。
「隊長! 」
「なんだ? 」
「…ウイルスなんて本当に存在するのでしょうか?」
隊長の顔が一瞬曇る。
「それはどうゆうことだ。」
「昨日から感染者と言っても何の異常もないし、現れる気配も無いじゃないですか。」
「そうだな‥」
バツが悪そうな表情で頬をかきながら言った。
「実はウイルスの症状についてはもう報告書が届いているんだ。ただ、皆んなに説明しても分からないだろうし任務に支障をきたしても何だからな。」
「分からないってそれでも真実を伝えるべきなのではありませんか? 」
「そうか‥それでは君にだけ先に教えようか。」
そう言って一枚の紙を手渡してきた。
"特定重要機密物として一般市民への流出には厳重に注意されたし
今回の騒動におけるウイルスの症状は「感情の喪失」であるものと思われる。島博士の実験記録より痛みの消失は確認されているが、その他の感情については現在調査中である。このウイルスの性質上感染者の判断が極めて困難であり、パンデミックを防ぐため近隣住民の殺処分という形に踏み切った。またこの事件は一般市民に対して事実隠蔽する事が先ほどの臨時会議で決定された。この事は除染部隊に対しては任務終了後に伝え、以後、この事件については守秘義務とする。この守秘義務を違反した者に対しては本人への禁固刑及び違反者の家族への不利益などの罰則が与えられる。"
開いた口が塞がらないというのはまさにこの事を言うのであろう。実際に口が開いている訳ではないが。その場に少しの沈黙が訪れる。
「そういう事だ‥さあ、任務に戻りなさい。」
「‥はい」
白い服を着た者たちしかいない死んだ住宅街を歩きながら考える。あの報告書には色々と不可解な要素が多いのでは無いだろうか。それともこの残酷な任務から目を背けたいがための自らへの欺瞞なのだろうか。結局その日は一人も殺す事なく任務は終了した。
次の日、除染部隊の解散が命じられた。他の隊員は今回の任務に疑問を抱いてはいないのだろうか?そもそも我々だってそのウイルスに感染しているのかもしれないのだぞ。感情が消えるなんて側から見ればわからないでは無いか。いったい我々はあの場所で何をしたのか?罪の無い一般市民を虐殺したのか、悪質なウイルスに感染した感染者から人類を守るために戦ったのか?どうして、どうして誰も疑問を抱かないんだ‥皆んな何も思わないんだ‥
あっ
何かに気づいた時には思考が止まっていた。
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