第59話 エルフたちと行く奇妙な縁の旅(前篇)
土曜日――昼を大きく過ぎた頃。
午前授業を終えてリッシェル邸へ辿り着いた瑛斗を待ち受けていたのは、口をへの字に曲げたハイエルフであった。
「あーら、今日はちょーっと遅かったのね!」
「今は中間試験中でさ……土曜も授業があるんだよ」
開口一番、アーデライードから非難を浴びてしまった。
瑛斗の学校では中間・末期の試験期間中、土曜日に午前授業がある。授業が答案の返却に利用される期間、学習指導要領にある総合的な学習の時間を圧迫しないようにするためだろうか。その理由までは瑛斗も知らない。
「で?」
「……ごめんってば、アデリィ」
五月末のこの時期、高校生の瑛斗にとって試験期間は重要な分水嶺だ。何故ならば、万が一に赤点など取ろうものなら、異世界行きを両親から反対されてしまうのだから。
真面目な瑛斗は鍛錬を怠ることはないが、かといって勉強を疎かにすることもない。好きな読書は学校の休み時間に済ませ、時間を有効に使うよう心掛けている。
勉強はきっと異世界でも役に立つ。全ては冒険を心ゆくまで楽しむためだ。
「学校が終わってすぐに飛んできたけど、やっぱり午後は回っちゃうな」
「それじゃ、こないだのカッコいい服は?」
「制服の事なら、防空壕の中で着替えてから来たんだ」
「ふーん、残念ね」
素っ気ないアーデライードの反応は、きっと口先ばかりだろう。
しかし本当に残念だと思われたところで、制服のまま異世界へ来るわけにいかない。
ロッキングチェアーに腰掛けたアーデライードは、キイキイと忙しなく椅子を揺らして、まるで子供の様な拗ね方していた。この様子じゃまだ機嫌を直してはくれないらしい。
「ねぇ、アデリィ。お昼ごはん食べないか?」
瑛斗はそう声を掛けてテーブルの上に重箱を並べた。これらはあらかじめ婆ちゃんに頼んで作って貰った昼食だ。
それでもアーデライードはそっぽを向いたまま。何とはなしに窓の方を見ていた。
「なぁ、アデリィ」
「なにさ」
「ごはんを食べて機嫌を直してくれないかなぁ……ねっ?」
瑛斗は相変わらず不慣れな様子で、子供に話し掛ける様な
するとダークエルフがとととっと駆け寄って、くいくいとハイエルフの袖を摘む。
「あーでら」
「なによ」
「エート、こまらせちゃ、めっ」
幼女にそう諭されては、ますますアーデライードの立つ瀬がない。途端に背水の陣へ追い込まれてしまった。それでもムキになってそっぽを向いていると、レイシャはもう彼女にはお構いなしで、今度は瑛斗へ駆け寄って袖を摘んだ。
「エート、おなかへった」
「そっか……じゃあ仕方がないね。アデリィ置いて先に食べちゃおうか」
「ん、レイシャのエート、やさしい」
二人の会話を長い耳で聞きつけたハイエルフが、がたんと音を響かせ立ち上がる。
瑛斗はこのだーえるのちびすけに対して甘い。甘すぎる。テトラトルテのメイプルシロップよりも甘い。早い話が彼女は、お腹が空いてイライラしていただけなのだ。それなのに食いっぱぐれては堪らない。
「もうっ、私も食べるわよ! お腹ぺっこぺこなんだから!」
兎にも角にも、ひとりだけ置いて行かれるのが大嫌いなハイエルフである。容赦ない幼女の戦略的作戦行動に、いい大人がみっともなく敗北した瞬間であった。
そういえば瑛斗の父が昔「こういう場合は、子供を挟むと上手くいく……」と呟いていたことを思い出し、その意味をちょっぴり理解してしまった気がする瑛斗である。
それではハイエルフの気が変わらぬうちに、昼食の準備を済ませてしまおう。
「エート、ん」
「ありがとう、レイシャ」
早速レイシャの持ってきた取り皿をテーブルの上へ配膳すると、持ってきた重箱を並べて蓋を開ける。重箱の中身は、俵型のおにぎりや唐揚げ。婆ちゃん得意のお煮しめなどが入っていた。このあたりはきっと実家の畑で採れた野菜たちであろう。どれもこれも見るからに美味しそうだ。用意した二つの魔法瓶は、冷たい麦茶と味噌汁。碗へ開けてみると温かい油揚げの味噌汁が注がれた。
「さ、食べよっか」
「いっただっきまーす!」
準備を終えて三人がテーブルへ着くと、一番文句の多かったハイエルフが真っ先におにぎりへパクついた。続けざまに味噌汁を一口啜り、お煮しめを口の中へ放り込む。
「んんー、やっぱりエイトのお婆様の味は美味しいわね。悔しいけど」
「えっ、何が悔しいっていうのさ?」
などと聞きにくい素朴な疑問を口にしてしまう瑛斗である。
その理由が「ゴトーの胃袋を掴んだ味だから」――とは、そのお孫さんに口が裂けても言えるわけがない。だからアーデライードはついうっかり口にしちゃった言葉ごと、おにぎりをごくんと飲み込んだ。
うっかりハイエルフの失言に頓着しない瑛斗も、それ以上言及することはなかった。その代わりに瑛斗は、アーデライードたちへまるで違う質問を口にする。
「ところでさ、ふたりとも」
「なによ」
「ん」
「俺がいない間、食事は何を食べていたんだ?」
何故かエルフたちが黙った。二人とも同様にして口を真一文字に結んでいる。
しかし瑛斗の疑問は尤もだ。グラスベルの森近く『悠久の蒼森亭』で暮らしていた時分は、アレックス率いる酒場の美味しい食事にありつけていたのだから。
だがそれ以外の食事の時間でアーデライードが料理を作るシーンを見たことがない。旅の間も料理は瑛斗の担当だった。見掛けたとしてもせいぜい干し肉を串に刺して炙って食べる程度である。
ではこのリッシェル邸では何を食べていたのか。大変気になるところだ。
「何って、その……台所にあったものを、ちょいちょいっと」
「ちょいちょいって、どういうこと?」
「かっぷら」
「カップラ?」
レイシャの不穏な言葉に瑛斗は眉をしかめ、ハイエルフはそっぽを向いた。いざという時の非常食として、確かにカップラーメンを幾つか買い置いてはいたが、もしや。
悪い胸騒ぎを感じた瑛斗は、食事を中座してキッチンへと赴いてみる。
「ああ、やっぱり……」
そこには食い散らかされたカップラーメンの残骸の他、レトルト食品なども開封されてとっ散らかっていた。まるで大きな鼠でも現れたかのような有様だ。
瑛斗が顔を覆っていると、その背後にはもぐもぐと口を動かした行儀の悪いエルフが二人。瑛斗の行動に居ても立ってもいられずに、わざわざ追って来たらしい。
「ねぇ、アデリィ」
「むぐ、うっくん……な、何かしら」
「これはいざって時に食べてねって言ったよね?」
「いざって時、だったのよ」
「いつが?」
「ま、毎日が……」
そんなはずがあるわけない。地下倉庫にはアードナーたちが持ち寄ってくれた食料の備蓄があるし、料理を作ろうと思えば作れるだけの材料や燃料もあったはずだ。それでもこういう結果になったということは――
「アデリィ」
「な、なによ」
「ごはんを作る気がなかっただけだよね」
「だ、だってね? これってば、お湯を注ぐだけで美味しいのよ?」
「アデリィ」
「あっはい、ごめんなさい……」
もしもの為にと持ち込んだ現代文明と温情が仇になったか。かと言って何も用意しないでは、この生活力のないエルフたちが心配で心配で仕方がない。
「……参ったなぁ」
「ごはん、レイシャやる」
「うーん、気持ちだけ受け取っておくよ」
その申し出は大変ありがたいが、料理の勉強をさせていないレイシャには、まだ難しい仕事だろう。そうでなくても彼女は今、
「私もその……色々と、ねっ?」
アーデライードは、はにかんでいるんだか苦笑しているんだか。よく分からない表情を浮かべながら、両手の人差し指と親指で四角を作ってもじもじしていた。
こんなハイエルフだが、斯くいう彼女とて何もしていないわけではない。
瑛斗がいない平日は、言語学者として点字の開発から、ドラッセルらと協力してエレオノーラの姉であるエルヴィーラの消息探しなど、忙しく働き回ってくれている……はずだ。だから彼女を責めてばかりいるのも、あまりに酷というものだろう。
暫くの間、エキドナ地方へ留まりたいと言い出したのは瑛斗である。その辺りを察している物分かりの良い少年は、それ以上エルフたちを叱ることはなかった。ただ深い溜息を突くばかりである。何か妙案はないものか。
二人のエルフのために、仲間のために。勇者見習いはひたすら頭を悩ませるのであった。
◆
その日の午後。二人のエルフたちと、新緑の森の中を馬で駆ける。煌めきと共に鮮やかな色彩が流れゆく中、爽やかな皐月の風が気持ち良い。
充実したゴールデンウィークの旅を終え、長かった五月はもう終わりを迎えようとしていた。次の六月は、残念ながら祝日がない。そうなれば土日しか異世界に居られない瑛斗は、泊まりがけの長旅へ出掛けられない。日帰りか、一泊旅行がせいぜいであろう。
そこで今回の旅は、一泊掛けてテトラトルテまで馬で遠乗りをすることになった。
異世界を巡る旅には、乗馬など騎乗の
彼らと共に旅ゆくは、二頭の馬。黒茶色の馬に跨る瑛斗と、それに並走する白馬に跨るアーデライード――と、その背中にちょこんと貼り付くレイシャ。乗馬訓練中である瑛斗の邪魔にならぬよう、文句も言わずハイエルフの背に黙って乗っている。
「どうよその子は。乗り易いかしら?」
「うん、いいね」
瑛斗が跨るこの馬は、イリス姫より贈られたプレゼントである。これは公国をエキドナ内乱の危機より救った瑛斗への、褒賞として金貨百枚と共に賜ったものだ。
騎士ではない瑛斗に恩賞や昇給、昇進はない。故に冒険者への褒賞としてそれらの金品を、瑛斗へ下賜するという形をとったのである。そう――それは先週のことだった。
「馬……ですか?」
「うん、馬が欲しいな」
イリスに何が欲しいか問われた瑛斗は、真っ先に「馬」と答えた。
瑛斗の即答に、エレオノーラを始めとした騎士たちは、目を丸くして不思議がった。わざわざ求めずとも金銭を受け取れば馬は買える。だが瑛斗は金銭ではなく、純粋に良い馬を欲しがった。皆はそのことを疑問に思ったのだ。
「勇者様は、何故お馬さんが欲しいのです?」
「だってさ、馬があればどこだってすぐに行けるじゃないか。行動範囲は大きく広がるし。そうすればイリスの元へだって、すぐに駆けつけられるだろう?」
瑛斗に他意はない。異世界に於ける移動手段の重要性を純粋に考えてのことだ。
だが騎士たちはこの答えに心から感嘆した。主従の忠義を第一とする彼らの答えとして褒賞に馬を求めるは、我が主の元へ真っ先に馳せ参じるための模範解答といっていい。
アードナーとドラッセルは眉を吊り上げ興奮し、エアハルトは顎を押さえ「ふむ」と唸って感心し、エレオノーラは陶酔した表情で胸を抑えて顔を真っ赤にした。
イリスは眩いばかりの笑顔でキラキラと輝き、ふたりのエルフたちは反面、膨れっ面としかめっ面をしていた。ソフィアはそんな各位の反応を、面白そうに眺めたのだった。
ちなみに後の世には、我が主に褒賞を訊ねられた時には馬を求めよ、との言葉が流行したが、これは瑛斗の台詞を故事としたものだと言われている。余談である。
「おかげで移動は早いし、便利になったよ」
馬を走らせながら、笑顔の瑛斗は嬉しそうにそう言った。
この馬はエキドナ邸内で飼育されていた馬の中でも上等な、気性の優しい牝馬だという。乗馬初心者が跨るには最適な子だと、エレオノーラが太鼓判を押してくれている。確かによく訓練されており、経験の浅いの瑛斗でも十分に扱い易い。普段はエキドナ別邸の馬小屋に預けておいて、そこからリッシェル邸への移動に使ったばかりだ。
今も馬術でいう
「で、名前は決めたの?」
「うん、あおだよ」
「あお?」
とはいっても瑛斗の馬は青色ではない。
どちらかといえば、黒に近い茶色――黒鹿毛といったところか。
「何であおなのよ?」
「あおは……何ていうか、昔ながらな馬の名前なんだ」
瑛斗のいう「あお」は、馬一般の呼称としてよく用いられる名である。
元々は青みがかった白馬を「あおうま」と呼び、神聖なものとされて神祭に供せられたり、貴人の乗馬として利用されていたのだそうだ。やがて青黒色のものまで同じ呼称となり、濃い青みを帯びた黒馬までもそう呼ばれるようになった。要するに、白くても黒くても馬は「あお」なのだ。
「黒っぽいのにあおなの?」
「そうだよ」
「へんなの」
「そうかな」
「だって黒い犬にシロって名前を付けるようなものじゃない?」
アーデライードが言いたいこともよく分かる。どうにも納得できない様子で小首を傾げていたが、不意に何かを思い出したような顔になって、瑛斗に訊ねた。
「そういえば晩年のゴトーだけど、黒い犬を飼ってたわね」
「爺ちゃんが黒い犬を?」
「ええ、その名前はちゃんと「クロ」だったわよ」
犬好きな爺ちゃんは、実家でも何匹か犬を飼っていた。リッシェルに隠居していた頃も、異世界で犬を飼っていたのだろうか。
瑛斗がそう思い出していると、段々と昔の記憶で蘇ってきたことがある。
「あれ……黒い犬?」
「どうしたのよ」
「言われてみれば、爺ちゃんと黒い犬……昔遊んだことがあるような」
「なによ、エイトったらこっちに来たことあるの?」
「ううーん、ないことはない、と思うんだけどさ」
幼い頃、爺ちゃんや父さんと魚釣りやピクニックに来た場所は、もしかしたら異世界ではなかったか。両親ははっきりと言わないが、思い返してみればリッシェルへは何度か来ていたのかも知れない。最近になってそう思うことが多くなっている。
そうと聞いたアーデライードは、眉根に小さな皺を寄せて唸る。
やっぱりグラスベルなんかにじっと引き籠っていないで、もう少し足繁くゴトーに逢いに行けば良かったかも。そうすれば幼い頃の瑛斗にも逢うことができたかも知れないのに。惜しいことをしちゃったかな――などと、後悔の念がちょっぴり増すのであった。
◆
山間の街・テトラトルテの街外れ――
日のまだ明るいうちに、目的の街へ到着する事ができた。
以前ソフィアに教わりながらテルタ村からエキドナへと移動した時よりも、ずっとスムーズで早く到着できたように思う。これは瑛斗の乗馬技術が上がったのか、それとも馬がとても優秀だったのか、どちらだろうか。
そんなことを考えながら、よく頑張ってくれた二頭の馬を労って小川の水を飲ませていると、宿の手配を終えたアーデライードが戻ってきた。
テトラトルテの街中は、翌週に控えた祭りの準備で混み合っている。それ故に街の外れの森の中でレイシャと二人、馬の世話をして待っていたのだ。
「街の様子はどうだった?」
「そうね、珍しくどこも盛況。倍近い料金を取られたわ」
アーデライードは、ちょっと悔しそうな顔を見せた。
普段は閑散とした山間の街である。祭りの期間中であることを忘れていたのだろう。相場よりもずっと値切れると踏んでいたに違いない。イベントの時期に宿代が高騰するのは、異世界も同じことであったようだ。
「盛況なのは、閑散としているよりもいいことじゃない」
「別に今日は、祭りを見られるわけじゃないんだけどね」
相変わらずアーデライードはぶーたれているが、この祭りの警備計画からエアハルトたちが頑張っていたのを知っている瑛斗としては、盛況で何よりと思わずにいられない。
そんなことを考えていると、馬で移動をしている間ずっと黙っていたレイシャが、くいくいと瑛斗のシャツを引っ張った。
「エート、このもり……」
「ああ、そうか。確かこの辺は、サクラの棲んでいた森だね」
「エート、きになる?」
「そうだね……ちょっと行ってみないか、アデリィ」
絹のような肌に小さな口を結び、上の空で立っていたハイエルフに声を掛ける。
「ふえっ、どこに?」
「サクラの棲んでいた小屋に、さ」
「ええーっ?」
アーデライードは面倒臭そうだが、こうなると瑛斗は気になって仕方がなくなった。
何しろ彼女は窃盗の咎により、三十日以内に例の棲家から出て行って、他の街へ移る様にとの沙汰が下っていたからだ。翌週にはその約束の三十日を経過してしまう。
「もうどこかへ移動して、そこにはいないんじゃない?」
「それならそれでいいさ」
瑛斗は自分の目で確かめてみたくなった。どこかへ移動して新しい棲家を見つけ、新しい生活を始めているのだとしたら、それに越したことはないだろう。
渋るアーデライードを宥め賺しつつ、瑛斗ら一行は小川の上流へと歩を進める。サクラの棲家はこの川の上流、森の奥に流れる小川の
その途上、まだほど遠い距離で――ふむ、とアーデライードが鼻を鳴らす。
感知能力に優れた彼女である。そんな小さな仕草を見た瑛斗はアーデライードが「きっと何かに気付いている」ということに気が付いた。そうと瑛斗へ直接教えないのは、自分を試しているのだろうか。気を緩めていたつもりはなかったが、ここの森は
瑛斗は改めて目を光らせ、耳を澄ませ、注意深く周囲を確かめてみる。
「アデリィ、足音が聞こえる」
「足音の主までは分かるかしら?」
森の中を走る足音であった。しかしこの様子では、決して存在を隠そうとしているものではない。よって足音の主は、瑛斗らに忍び寄ることを目的としていないことが分かる。
「木靴を履いている……それくらいしか分からないな」
「ぐっど。それでいいわよ」
アーデライードが形のいい親指と人差し指で丸を作った。これは合格だということだろう。歩行音だけで身長・体重・種別などが分かるようになれば、相当な技量を身に着けたと言えよう。だがアーデライードは、そこまでの技術をまだ瑛斗に求めてはいない。
事実、木靴を履くのは、人か亜人類、もしくは人と同レベルの知能と知識を持つ
音のする方向の茂みから十分に身を離し、如何様にも対処可能な体勢を整える。
「あ、あああーっ!」
「やっぱり、ですっ!」
瑛斗が予想だにせぬ程、明るい声が日暮れへと差し掛かる森の中に響き渡った。
意外にも茂みの中から現れた小さな二つの人影は、聞いた声、見知った顔。
瑛斗へ飛びつかんばかり現れて、満面の笑顔を見せたその者たちは、ふたりの少女であった。
「あっ、君たちは……」
「ライカです、エイトさん!」
「私はカルラよ、本当にありがとう!」
小学生くらいの見た目をした彼女らは、
この少女たちは獣人族襲撃事件の際に、瑛斗が助けた子たちに見間違いはなかった。
「何時ぞやは、大変お世話になりました!」
二人揃って礼儀正しくぺこりと頭を下げると、二人揃って瑛斗の腕に飛びついた。それぞれがそれぞれ瑛斗へ握手を求め、我慢しきれずに腕に飛びつく形となったのだ。
「おかげさまで、みんなを助けることができました……」
ライカはサクラの家まで襲撃を知らせに来た、ちょっと臆病で奥手な少女だ。感動で涙目になった彼女は今も、恥ずかしそうにもじもじと忙しなく身体を揺すっている。
一方のカルラは前向きで快活な少女だ。生まれたままの姿でも身体を一切臆すことなく「おにーさん照れてるの? えっち?」と瑛斗をからかってきた、ちょっぴりおませな子である。
「みんなを代表して、何度だって言うわ……ありがとうって!」
瑛斗と二人のエルフたちは、突然降って湧いたような出来事に茫然と目を丸くした。これは運命の為せる業だろうか。
こうして奇縁に導かれるように、瑛斗らは獣人族の少女たちと無事に再会を果たしたのである。
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