第53話 エルフたちと始める新生活の旅(後篇)

 玄関口の森の中で、ソフィアらとの会話をひと頻り楽しんだ後。

 彼女らと別れリッシェル邸へと戻った瑛斗は、リビングルームとして使用している共用の大部屋をせっせと整頓し始めた。いずれ四人の騎士らが訪れることを想定して、大人数でも居心地が良いように模様替えをしようと考えたのだ。

 建物の維持・管理や室内の清掃といった手間は、魔法や精霊たちの仕事で必要がない。ただし、内装や家具の配置といった好みに関しては、人間たちがやらねばならぬ仕事だ。椅子やテーブルといった家具類を移動させるだけでも、きっと使い勝手は変わるはず。瑛斗はこれからの生活スタイルと導線を考えながら黙々とこなしてゆく。この辺り、若いのに生活感溢れるマメな少年である。


「ねぇ、アデリィ。このサイドテーブルを移動してもいいかな?」

「んー、いいわよ」


 そんな働き者を尻目に、ごろ寝スタイルで書籍を読み漁るハイエルフが一人。言わずもがな『聖なる森グラスベルの大賢者』と称されるアーデライードである。

 瑛斗が『悠久の蒼森亭』から運び込んだ書物を何気なく手に取ると、つい我慢が出来なくなったのだ。折角本棚へ整理した書籍の山をだらしなく散らばしている辺り、罪深い。


「ねぇ、アデリィ。このソファー、ちょっと固くないかなぁ?」

「ああ、そう? そうかもね」


 異世界には当然ながらスプリングや低反発素材はない。幾つかのクッションを重ねてみたが、今度は座りが悪くなってしまった。次来る時には、もっと快適なクッションを持ち込んでしまおう。生活を快適にするモノもまた、冒険に重要な物品アイテムなのだ。


「ねぇ、アデリィ。その場所は居心地良さそうだね」

「んふー、そうね」


 彼女が寝転んでいる暖炉前のカーペットはフカフカで、この屋敷の中ではベッドに続いて最も柔らかくて快適な場所だろう。自分にとって一番居心地のいい場所をいち早く見つけてキープしてしまうその様は、まるで猫のようだ。

 そういえば今日のアーデライードは、ハイエルフ特有の長い耳がひょこひょことよく動く。猫の耳なんかは、その時々の気持ちで動きが変化する――といわれているが、ハイエルフも同様なのだろうか――と、当人が聞いたら怒り出しそうなことを瑛斗は考える。


 一方のアーデライードといえば、とても幸せな時間を過ごしていた。彼女は何よりも、午後のちょっと眠たくなるような時間を、ゴロゴロと怠惰に過ごすのが大好きなのだ。

 美味しいお昼ごはんでお腹は満たされていて、大好きな書籍が傍らにあって、何よりも返事をすれば聞こえるくらいの場所に瑛斗がいて――大変充実した昼下がりである。

 だらだらと本を読みながらだったから、アーデライードは生返事を返していた。一方の瑛斗も模様替え作業の真っ最中だったから、生返事を繰り返す彼女に曖昧な声を掛けた。

 始まりはそんな瑛斗の、ほんの何気ない、何となしの一言だった。


「ねぇ、アデリィ」

「んふー、なに?」

「あれ、やっぱりだ」

「なによ?」

「アデリィは、俺と話す時さ」

「うん」

「何故か声が違うよね」

「うん?」

「ちょっと声のトーンが高いのかなぁ?」

「ううんっ?! そ、そんなことないわ!」


 あまりに不意討ち過ぎて、鼻からちょっぴりお水が出ちゃいそうになった。

 確かにね、瑛斗にアデリィって大好きな愛称で呼ばれると、つい嬉しくなって心躍ちゃうけどね。でもそんな声に出る程、浮かれてない筈だけれど……油断したかしら?


「そうかしら。私はいつもこんな感じよ?」

「あれ、また声を変えちゃった?」


 今は意識して、ちょっと気取った声を出しちゃった気がしなくもない。


「こえが、かわった」

「アンタまで真似しなくていいわよ」


 唐突に口出ししてきたレイシャに、カッと目を見開いて牽制する。さっきまでソファーの傍で絵本を読んでたんだから、アンタはそこでじっとしてなさいな。


「うーん、やっぱり声が変わった?」

「そ、そんなことないわよ……」

「あーでれ」

「変わってないわよ?」


 まだ割り込んでくるレイシャにも、にっこり微笑んで対応する。するとこのだーえるのちびすけは、とととっとわざわざ走り寄って耳打ちした。


「あーでれ、でれでれ?」

「で、デレデレじゃないわよっ!」


 余計な口を利いてくるレイシャのほっぺをうにうにとつねる。なんだかぷにぷにしててえらく柔らかい。ちょっと気持ちいいのが、かえって癪に障る。


「まぁまぁ、アデリィ」


 片付けついでにこっちへ振り向いた瑛斗が気付いたせいで、私がたしなめられた。ちょっかいを出してきたのはこのだーえるなので、私は悪くないわよ、瑛斗!


「ん、んふん、か、変わらないわよ?」

「あーでれでれれれぇ」

「混ぜるんじゃないわよ!」

「ねぇ、アデリィ?」

「んっ……んふ、な、なによ、エイト?」


 改めて瑛斗に愛称で呼ばれると、こそばゆくなって鼻から声が出てしまった。

 微笑みかける瑛斗の表情が今日に限ってとても柔らかくて、どうしても気持ちが落ち着かなくなる。冒険中の引き締まった少年の表情とは、違うからかも……知れない。


「ホラ、声が変わった」

「かわった」

「ね、レイシャ?」

「ん、かわった」


 ああ、しまった。今のは完全に意識し過ぎて露骨過ぎた。そもそも二人掛かりで入れ代わり立ち代わりで声を掛けられたら、上手く切り替えできないじゃない!

 って、切り替えしていると自分で思っている時点で、ダメダメだけど……


「アデリィはさ」

「な、なによ……」

「いつも凛としてるからね。屋敷で寛いでいる時くらいは、のんびりしててよ」


 瑛斗は嬉しそうな顔でそういうと、せっせと作業に戻っていった。

 彼の解釈だと声の調子が変化するのは、そういう事であるらしい。そのつもりもあって模様替えをしていたとすれば、なんてよく出来たいい子なんだろうと改めて思う。

 もしかして瑛斗ったら、いつもそういう目で見てくれているのかしら?

 それはそれで嬉しいけれど、もうちょっと勘違いしてくれてもいいんだけどな、と思う。それは贅沢な悩みだろうか。尤も、勘違いされてしまえば――困ってしまう。きっと何も対応できずに、おろおろしてしまうだろう。


「……あーでれれぇ」

「うっさい。アンタは絵本でも読んでなさい!」

「はーふへほほへは……」


 ちょっかいを出してくるレイシャのぽっぺを引っ張ると、なんだか気分と調子が良くなって、悔し紛れにうにうにと弄り倒すアーデライードであった。



 片付け作業が落ち着いたところで、レイシャが瑛斗の傍へとやってきた。

 瑛斗のズボンの端をちょこんと摘むと、遠慮がちにくいくいと引っ張る。


「エート……」

「なに、レイシャ?」

「えほん」

「ああ、いいよ」


 レイシャがおずおずと差し出してきたのは、日本語で描かれた絵本。瑛斗が異世界の共通語コモンとなっている日本語の練習用に、現実世界から持ち込んだものだ。

 学業優先の瑛斗は、土日休日しか異世界こちらに来られない。瑛斗のことが大好きな甘えん坊のレイシャとしては、ここで思う存分瑛斗を享受しておきたいところだろう。

 恐らくレイシャはずっとタイミングを見計らっていた。瑛斗のすぐ傍で絵本を抱えていたのはその所為だろう。瑛斗の片付けが済んだなら、異世界チェスにでも誘おうと思っていたアーデライードとしては、ちょっと面白くはない。


 まぁ……流石にそんな意地悪をする気はないけれど。


 ここは一旦読んでいた本を閉じて、わざわざ寝っ転がっていたカーペットから立ち上がり、面白くなさそうな顔をして、のそのそと瑛斗とレイシャのいるソファーへ向かう。


「……って、ああー! 何やってんのよ!?」


 長椅子の前へ回り込むと、レイシャが瑛斗の足の間に腰掛けて、絵本を読んでもらっていた。所謂いわゆる、後ろからぎゅっと抱っこしている状態だ。


「えっ、絵本を読んでいるんだけど……?」

「えほん」

「普通に読んで貰えばいいでしょ!」

「ええっ? 普通に読んでるよ、アデリィ」

「普通に読む、の意味が違うわ!」


 困惑する瑛斗に、拗ねたアーデライードがぶーたれて文句を付ける。

 子供だからって抱っこされるなんて、そんなのズルだ。ズッこい。

 自分は元々文字に強い子だったから、そうやって両親に読んで貰ったことなどない。独り部屋の隅に座り込んで、ずっと集中して本を読んでいるような子だった――ハズだ。


「でもさ、本を読んで貰う時って、こうしたよねぇ?」

「そんな! 本を読むのに……後ろから抱っこなんて……」

「爺ちゃんには、よくこうして読んでもらったけどなぁ」


 そういわれてアーデライードの動きがはたと止まった。

 唐突に過去の自分を振り返り、と或る日々を思い出したのだ。


「やった……やってた。ゴトーにやって貰ってた……」


 後ろから抱っこしてもらって、絵本を読んで貰うの。

 今の今まで、すっかり忘れてしまっていたけれど。

 皆に聞こえぬようなひっそりした声で、独り言ちる。


 あの頃――私はゴトーと会話を交わしたかった。

 その為にも日本語を覚えたかった私は、ゴトーの世界の本をせがんだ。

 子供の私に彼が選んで持って来てくれた物語は、日本語の絵本の数々。

 ずーっと昔からゴトーの国に伝わっている、昔話だって言ってたっけ。

 あの小さな花畑で、彼に後ろから抱きかかえられて。

 ゆっくりと、読み聞かせる様に、絵本を読んでくれたんだっけ。

 ゴトーの身体は大きくて、あったかくて、包まれているみたいで。

 そのまま寝入っちゃうこともあったなぁ……


 不意に思い出す、ゴトーと過ごした小さな花畑の日々――

 昨日、思い出の花畑で花冠を作ったりしたせいかも知れない。

 記憶が鮮明に甦り、ついつい赤面してしまう。

 頬が火照って、身体中の血が顔面に集まってきてしまったようだ。


「エート、これなんてよむ?」

「どんぶらこっこ、どんぶらこっこ……ううーん、これは説明し辛いなぁ」


 知らぬ単語を訊ねるレイシャに、瑛斗がそう言って苦笑する。


 ……ああ、おんなじだ。


 幼い頃に自分が疑問に思うと同じ所を、レイシャが瑛斗に訊ねてる。

 そう思い返せば思い返す程、当時の自分に重なって恥ずかしくなった。


「止め……もう止めて、昔の自分を見ているようで、辛い……」


 ……などと、口にすることなんて絶対にできるもんか!

 あーあー、もう聞こえなーい!

 こうなったらもう、頭から枕を被って耐えるしか方法は、ない。

 再び暖炉前のカーペットへ寝転がると、自室から持ち出していた枕を被る。


「あれ、何してるの?」


 その様子を見た瑛斗が、きょとんとした声で訊ねてきた。

 こういう時ばかり気付くなんて、ちっともありがたくない。


「見て分からない? もうほっといてよ!」

「分かるけどさ、アデリィ」

「なによ?」

「枕は被るものじゃないよ」

「知ってるわよ! そういう意味で言ったわけじゃないわよ!」

「枕は頭の下に敷くものさ」

「この状況を見て言うことがそれ!?」

「うーん、じゃあ……何してるの、アデリィ?」

「そんなこと、わざわざ聞き返さないでよっ!」

「ええっと、どうしたっていうのさ?」


 困惑する瑛斗に、レイシャがこっそりと耳打ちした。


「エート、あでれ、もだえてる」

「うん? 悶えてる……?」


 ハイエルフの長い耳が捉えたレイシャの言葉は、まさかの直球だった。

 直球どころか、ストライクど真ん中の剛速球だった。

 真っ赤になったアーデライードは、もう言葉を失うしかない。


「なんでさ?」

「あでれ、えほん、だっこすき?」

「あはは、まさかぁ!」


 後ろから抱っこされて絵本を読んで貰いたい――レイシャの台詞は瑛斗の中で、アーデライードと絵本、そして抱っこと悶える関係性が、まるで結びつかなかったらしい。

 そういう願望が、なくはなくもなくてなくないけど、レイシャのいうそれとこれとは意味が全然違う。違う意味でアーデライードは悶えて……否、苦悩していたのに。


「ああっ、瑛斗の莫迦っ! もうっ、信じらんない!!」


 長い耳の先まで真っ赤にしたアーデライードは、堂々と八つ当たりした。

 悔し紛れにそう言い残すと、部屋を出て自室に籠る他に行く場所がなかった。



 不貞腐れたハイエルフが、自室で暫しの不貞寝を決め込んで小一時間。

 自室の扉を丁寧に叩くノックの音が、キッチリ三回響いた。アーデライードの感知能力を以ってせずともよく分かる。この几帳面さは瑛斗に違いない。

 入室を促すと果たして、少しだけ戸惑いがちの苦笑を浮かべた瑛斗であった。


「で?」

「ああ、夕飯の支度をしようと思ってね」


 久しぶりに「で?」だけで聞いたけど、瑛斗にはちゃんと伝わった。

 この辺り、小慣れてきた仲間同士の感覚の様でちょっと嬉しい。そもそも臍を曲げている理由は、直接的には瑛斗の所為じゃない。だから彼に当たった自分の方が悪い。

 悪いのは、いちいちちょっかいを引っ掛けてくる、ちびすけのだーえるである。


「で、それだけじゃないでしょ?」

「うん、アデリィに頼みがあるんだ」


 アーデライードだって、瑛斗のことくらい多少は分かっているつもりだ。

 瑛斗が改まっていうことがありそうな雰囲気くらい、察することはできる。


「なによ?」

「言語学者の君にしか、頼めないことだと思う」


 瑛斗はそう言って、一冊の本を取り出した。


「これの制作者になってくれないか?」


 瑛斗が差し出したのは、共通語コモンで書かれた不思議な本であった。共通語の他に、様々な形に点で打たれた模様が掛かれている。


「これは、なに?」

「これは、点字の本だよ」


 点字とは――視覚に障害を持つ者が、指先の触覚により文字を読み書きする為に使う、視覚障害者用文字である。

 現在のアルファベットと数字を表記する横二点・縦三点の六点式の方法は、一八二五年にフランスの訓盲院の生徒ルイ・ブライユが、十六歳の時に発明したものだ。元々は軍用で、夜間でも使用できる十二点式の暗号「夜間読字」を改良したものであるという。

 この六点式点字の発明という功績により、視覚障害者自身では殆ど不可能とされていた、文章の記述・読解が可能となったのである。


「あら、これってば複雑そうな日本語まであるのね」

「そうだね。だから異世界では共通語コモンとして使うこともできる」


 日本語の六点式点字は、静岡県浜松市の訓盲院教師、石川倉次により考案された。

 一八九〇年、明治二十三年十一月一日に点字選定会で正式採用され、この日は「日本点字制定の日」と記念されている。


「で?」

「うん……そうだよ」


 瑛斗が素直に頷いた。どうやらアーデライードが問うた内容はどういう意味か、すぐさま理解できたようだ。


「これってば、あのお姫様のためってことね」

「そう。これで彼女の政務も、し易くなるはずだからね」


 あのお姫様――とは、エーデルシュタイン公国、盲目の姫君であるイリスの事だ。

 盲目であるが故に今まで政治に関わる一切の関係書類を手渡されず、政務より遠ざけられてきた彼女だ。だが点字が発明されれば、書類の内容を読解し、文章を自らの手で書き綴る事ができる。


「でも本当は、どうするか悩んだんだ」

「どうして?」

「現在の異世界には存在しない技術だからさ……もしかしたらこれは、数百年後に異世界人の手によって、発明されるべき技術かも知れない」


 現在の異世界文明と比べて高過ぎる技術革新テクノロジーは、異世界のバランスそのものを崩しかねない。瑛斗はこの世界にもたらす影響を危惧しているのだ。


「その点をアデリィは、どう思う?」

「ふぅん……ドルガンに頼めば道具一式も作れそうね……」


 最早アーデライードの興味は、瑛斗の危惧などどこ吹く風であった。

 すっかり言語学者としての探究心に、火が付いているようだ。


「えっと……君の中ではもう決定事項かい?」

「安心なさいな。異世界こっちはそんなに軟弱じゃないわ」


 アーデライード曰く、異世界の言語発展はこの数十年で目覚ましいそうだ。

 元々よく言って多種多様――雑多で多岐に渡っていた多民族の言語は、魔王戦争を経た影響で大陸間の交流が盛んになり、統一言語ともいえる各方面の大陸語が全世界に広まりつつあった。例えば、北方大陸語などの東西南北の大陸語がそれだ。

 そんな中、全世界を席捲したのが勇者・ゴトーが操りし異世界の言語。日本語とも呼ばれる共通語コモンである。皮肉なことに、全世界を巻き込んだ大戦争のお蔭で、言語に関する発展と研究は大きく前進したのであった。


「そもそも、世界の共通語コモンを日本語にしておいて、今更よ」

「そう言われちゃ、返す言葉がないや」

「世界ってね、懐が深くて何でも受け入れる柔軟性を持っている……そう思うわ」


 恐縮して頭を掻いた瑛斗に、大賢者と呼ばれしハイエルフは優しく諭した。

 少年に要らぬ心配をさせない配慮くらい、心得ているつもりである。


「さて、共通語コモンはいいとして、北方大陸語の点字開発はちょっと考えてみる」

「ありがとう、アデリィ」

「えっ? お、お礼なんていいわよ。異世界人じぶんらの為なんだから」

「それでも……ありがとう」

「あ……だからアンタはさっさと、美味しい夕飯でも作ると良いのだわ!」

「ありがとう、アデリィ」


 瑛斗を追い出して素っ気なく手を振ると、後ろ手で自室のドアを閉めた。

 だって……うっかり興奮して紅潮した顔なんて、恥ずかしくって見せられないもの。アーデライードの心には、研究者魂だけじゃない燃え上がる炎の塊が宿っていた。


「そりゃあね、他の女の子のためっていうのは、気に食わないけど……」


 でもそれは、誰よりも友人想いな瑛斗の長所だから仕方がない。

 今の瑛斗は何よりも全力で、全身全霊を賭して異世界の冒険を考えている。全身で感じて、考えて、全霊を籠めて、尽くして、真剣に異世界に取り組もうと必死なのだ。

 ずっと旅をしてきた自分だから、よく分かることだってある。あの人によく似て、実直で一本気で真っ直ぐで。そんなあの人の孫だってことを、誰よりも分かっているつもりだ。

 でも今は、それだけじゃなくて――普段の生活の中で、共に過ごした旅の中で、一つ一つ歩む積み重ねの中で――新たな気持ちも芽生え始めてる。


「がんばる……私ったら、超がんばっちゃうんだからっ!」


 何よりも、この世界で瑛斗に頼られることは、凄く嬉しいことだった。

 アーデライードは何度もガッツポーズをしながらベッドへ飛び込むと、お気に入りの抱き枕アデリーに思いっきり抱き付いた。

 色んなことがあるけれど、瑛斗と過ごす新生活は今、何よりも楽しい。

 何故か今日に限っては、いつも無表情でベッドサイドに佇んでいるアデリーペンギンが、ちょっぴり微笑んでいるように、アーデライードには見えた。

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