第五章:異世界で始める新生活の旅
第50話 風の吹く丘に(番外篇)
風が吹いていた。
その風は海原に白波を立て、白波はやがて時化を呼んだ。
風はやがて風雨となり、暴風となり、嵐となって荒れ狂う。
大海原に揺蕩う小舟は、波間に漂う木の葉の如し。
ただただ、荒波に翻弄されるのみである。
全世界を陥れた暴風の名は『魔王』。
大陸はおろか異世界全土を揺るがす、大戦争の始まりであった。
戦乱と混沌の時代――歴史はこれを『魔王戦争』と称す。
その『魔王戦争』を終焉へと導いた、三人の英傑がいる。
今の世を語るに外せぬ三人の名こそ、後世に語り継がれる伝説に相応しい。
これは、世に語り継がれることのない英雄たちの説話である。
◆
寂寥の丘の上に建つ、古びた遺跡。
ここはエーデルシュタイン領、嘗ての王都・エーデル。
丘に建つ遺跡は、ずっと昔に遺棄された城塞である。
その古城建つ、夕暮れ迫る暁の丘。
黄昏色の城壁を背に遠く浮かぶは、三人の男が集い立つ影。
第一の影こそは、勇者・ゴトー。
誰しもがその名を知る、この世に双並び無き驍勇である。
じっと動くことなく、荒野広がる地平線へ目をやっている。
目が隠れる程の長い前髪に、放ったままの無精鬚。
背格好は然程大きくないが、ガッチリとした体躯に浅黒い肌。
無愛想な彼の咥えタバコから、燻る紫煙がゆらゆらと揺れる。
かの勇者の背中へ、親しみと懐かしさを込め、掛ける声二つ。
「ゴトー! 久しぶりだ、逢いたかったぞ!」
「待たせたな、ゴトー」
「おう、元気だったか、二人とも」
声を掛けた二人の男たちは、精悍にして勇敢なる王。
先頭の男は、エディンダム家の英雄王・オスカー。
それに続くは、エーデルシュタイン家の賢弟王・エドガー。
二人とも百九十
「わざわざ呼び出すとは。珍しく改まってなんだ、ゴトー」
そう笑顔で問う男の名は、オスカー。その名をオスカー・ヴィクトル・エディンダム。彼は『英雄王』と呼ばれ、後に初の
大陸中央はエディンダム王国次期国王と、名高きはその勇名。誰もが羨む瀟洒な金髪を持った伊達男。戦場にて事あって、ゴトーとは義兄弟の契りを結んだ仲だ。
「授かった政策は上手くいっている。ゴトーのお蔭だよ」
「俺は何もしとらんぞ」
ぶっきら棒に言い放つゴトーに、オスカーは苦笑して瀟洒な金髪を掻き上げる。
ゴトーの言い分も尤もで、彼はただ現実世界の歴史書を、彼らへ提供しただけに過ぎない。政治の世界に関してゴトーは門外漢である。
「そう云うな、ゴトー」
苦笑いして口を噤んでしまったオスカーの、言を継ぐはエドガーであった。
彼は名を、エドガー・ヴォル・エーデルシュタインという。大陸を南北に結ぶ大河は北西の、エーデル地方を統べる王の血統である。
英雄を比して『賢弟王』と呼ばれる彼は、オスカーより一回り身長高く、艶やかな黒髪をオールバックに固めていた。時折その前髪の束が額へ落ちては撫でつけるが、それは彼の癖となっているようだ。
後に彼もまた
勇者・ゴトーと二人の英雄王。
この義兄弟の三人をして、人々は『三傑』と讃えた。
「今の世には予想通り『封建制度』が適していたようだ」
「そうか。ウチの歴史が役立ってそりゃ良かった。だが……」
「うるせぇ」
ゴトーの「俺は何もしとらん」という口癖を、エドガーはすぐさま封殺する。
「だが、じゃねぇよ……お前のお蔭だ、ゴトー」
エドガーはそう言い切って、精悍な顔を歪ませてニヤリと笑った。
ゴトーはぶっきらぼうに紙巻きタバコをふかしつつ、
「俺は何にもしてねぇぞ……」
と、納得がいかぬ
これがいつものやり取りだ――だが不愛想なゴトーにしては珍しく、髪で隠れた隙間からジロリと睨むと一言付け加えた。
「それにな、こっちの世界はまだまだだ」
「ああ……世界が魔王戦争の爪痕から脱していないが現状さ」
気を持ち直したオスカーは、ゴトーの言葉に続くと端正な顔を少し曇らせる。
その表情を見たゴトーは、密やかにエドガーへ目をやった。目線を交わしたエドガーは、「分かっているさ」と目を細めて答えると、決意を滲ませ重そうに口を開く。
「そこでな、オスカー」
「うん?」
「俺とゴトーで話し合って決めたんだが……」
「なんだ? 二人して俺に隠し事か、水くさい」
二人の気配を察したか。オスカーは少し神妙な顔になる。
だが二人とは気心の知れた仲だ。どのような内容であろうと早々驚くまい――そう考えていたオスカーでも、それは予想だにせぬ提案であった。
「今の世はな、オスカー。未成熟な赤子の様なもんだ」
「ああ、その為に我等は、善き導き手とならねばいけない」
「そうだ、今の世に必要なのは、強大な力」
「強大な力?」
「大陸の盟主となり、先頭に立つ『強き王の国』が必要だ」
「……つまり、どういうことだ?」
エドガーの額に、はらりと前髪が落ちた。
だがそれを掻き上げる事無く、『賢弟王』は冷厳に言い放つ。
「エディンダム王国とエーデルシュタイン王国の併合」
「おいおい、まさか……」
「その『まさか』だ。富国強兵の統一国家樹立を目指す」
エドガーの隣、石段に腰かけるゴトーの表情は、紫煙に曇って見えぬ。ただエドガーに同調する様にゆっくりと口を開いた。
「……だ、そうだ」
「そしてこの世界に、王は二人要らぬ」
きっぱりと云い捨てたエドガーの声に、オスカーは覚悟を感じ取った。
ゴトーは今にも落ちそうに灰の伸びた咥え煙草を吹き捨てると、胸ポケットから新たに一本取り出して火をつける。マッチの先は音を立てて燃え、辺りに硫黄の香りを撒き散らす。炎を宿した先端は燐で爆ぜ、瞬間寂しげなゴトーの横顔を浮かび上がらせた。
エドガーは額に落ちた前髪を漸く掻き上げると、オスカーに告げた。
「そして、おまえが統一王国の王と成るんだ、オスカー」
「何を莫迦な!」
オスカーは瀟洒な金髪を持つ美男子である。彼の威風堂々たる立ち姿は、英雄たる英雄の所以を標す。その彼が打ち震え、乱れる怒声で叫んだ。
「これまで通りエディンダムを余が、エーデルをお前が統べればいい!」
「今この時代、濫りに国を割る必要が在るか。いや、在ってはならん!」
オスカーの怒鳴り声と同様、エドガーの返す声は、より強くより激しい。
人心疲弊したこの時期に、内乱の種を生む愚行は避けねばならぬ。
「落ち着かんか、二人とも」
二人の叫びを黙り込んで聞いていたゴトーは、ここで漸く口を開いた。
「俺たちにゃ、まだやらにゃならんことがあるだろ」
「やらねばならぬこと?」
「大陸統一と共に『或る地』をなんとかせにゃならん」
ゴトーの口より発せられた『或る地』という言葉――それを聞いて、豪胆と呼ばれるオスカーですら目を見開き、ざわりと全身の毛を逆立てた。
「まさか……その『或る地』とは……」
「暗黒大陸・オーディスベルト」
大陸のへそである大陸中央に位置し、人外魔境と呼ばれた地である。
足を踏み入れた者は誰一人帰る事無く、よって未だ嘗て地図は残らぬ。故に黒塗りのままであるその大地を、人々は「
運命の森、大海嘯、竜の谷、人狼の狩場、
様々な人外魔境と禁断の秘法眠る、地図なき人類未踏の地。
そして――この地こそ、魔王が世界で最も欲した大陸とされる。
この地を陥落さるれば人類の存亡を大きく左右したと云われ、人類最後の希望を託して築城された要害こそが、不落の要塞都市と呼ばれた『ヴェルヴェド』である。
「そこで、だ……俺は旅立とうと思う」
エドガーはゴトーと同じ石段に腰掛けると、自然と垂れ下がる前髪を撫でつけながら、オスカーに言った。
「旅立つ……まさか、あの地にか?」
「ああ、彼の地は未だ平らかに非ず。だからこそ俺が赴いて平定する」
「無茶な!」
「その無茶を通す為に『或る地』を公国と定め、俺を公位に据えろ」
そう切り出して長い脚を組み直すと、これからの
暗黒大陸を論功行賞にて割譲するオーディスベルト地方と定め、公国と称してエディンダム王国の庇護下にあると示す。その名を以て未知の「魔王の欲した地」を、東方国家群、南方諸国、北方帝国より牽制することになろう。
「
「だからといって、お前がそれら全てを背負う必要が何処にあるか」
「民は理性ではなく、感情で動く……ゴトーの歴史が教えてくれたことだ。面倒な大陸から邪魔な貴族共から何から何もかもを、全部ひっくるめて俺が持ってってやるよ」
エドガーは「部下どもには苦労を掛けちまうがな」と頭を掻いて苦笑する。だが彼の部下は百戦錬磨の猛者揃いだ。敬愛する王の為に、死地へでも自ら進んで赴くであろう。
「そうしてお前は余の幕下に入ると」
「そうだ」
「エドガーは、余にそう命じよというのか」
「そうだよ」
「我等に上下などない。余の下につけなどと口が裂けても命じられるものか!」
「形式上だけだ、オスカー。形だけそうすれば……」
「形だけでも、余の気持ちは収まらぬ!」
「お前は相変わらず堅いなぁ」
エドガーは大仰に溜息を突く。
それが却ってオスカーの癪に障ったか。
「こんなものに、堅いも柔らかいもあるか!」
そう怒鳴るとオスカーは、エドガーらに背を向けて丘を降り始めた。
エドガーはすぐさま立ち上がって後を追うと、早々にオスカーの肩を掴む。
「おいおい何処へ行く、オスカー!」
「ならば余が野に下る! そうして彼の大陸へ赴く!」
「いやいや、待て待て待て……」
「待たぬ! 王国はお前が統べるべきだ、エドガー!」
感情の波が堰を切ったオスカーは、最早堪え切れぬ。思わずエドガーの胸をドンと叩いた。エドガーの分厚い胸板は、その程度でびくともしない事など承知の上だ。
次期エディンダム王座に正統なる血統であるオスカーを推す声は圧倒的に多い。それは重々承知している。一方のエドガーには、実力はあれど血統に問題があった。だが尊敬するエドガーこそ、王の器である――オスカーはずっとそう考えている。
そしてその考えは……今も昔も変わることはなかった。
「まぁ待て」
その一連の出来事を、じっと黙って見ていたゴトーが取り成す。
「俺の持ってきた政治通りにやる必要なんざなかろうが。こっちの世界に合わせろ。エドガーは王のまま、だが国としては公国を名乗る。これでどうだ?」
大まか過ぎるその提案に、オスカーは唸り、エドガーは苦笑した。
あくまで対外的に一定のメンツが立てばよい。何もかも現実世界を真似ずとも、異世界の現状に則して、国民が納得できる形こそ良策である。
ゴトーの提案は浅知恵だが、やりようでは頷ける部分もある。首を捻ったままのオスカーに対し、エドガーは溜息交じりに了承する。
「余に反論の余地はないのか」
「ない。もう決めたことだ」
「くっ……」
オスカーは唇を噛み締めながら、胸の痞えを吐き捨てた。
確かに……エドガーほどオーディスベルトを知り尽くし、世界へ勇名を轟かせた男はいない。取って代わりたくとも、誰にも代えがたい適任である。
「だが『或る地』へ移るには、問題が山積だ」
かつて『毒蛇の巣』とも呼ばれた王国内部に巣食う貴族共どもの一掃。勝利に貢献したオーディスベルト地方の豪族や部族らを含めた論功行賞。前人未到の地であった暗黒大陸の未発達な産業の構築。その他数々の問題が、エドガーの手腕に掛る。
そこでゴトーが、のんびりとした声で告げた。
「だから、産業はホレ、俺は農家だ。まぁ……何とかする」
「……おい、ちょっと待て。どういう意味だ、ゴトー」
「俺も、オーディスベルトへ行く」
エディンダム王国は南東の漁港・リッシェル。かつてよりその畔に、ゴトーは居を構えていた。その理由の一つが、王国からオーディスベルトを経由して城塞・ヴェルヴェドへ繋ぐ、補給路の重要拠点であることが挙げられる。水路は元より、山間の街道を抜ければ最短でヴェルヴェドと王国を繋ぐことができる。
「なぁに、リッシェルの魚は旨いんでな」
事も無げにそう云い残すと、ゴトーはオスカーの肩を叩いた。
「話はそれだけだ。そんじゃ、後は頼む」
いつもと変わらぬ様子のゴドーに、エドガーは苦笑せざるを得ない。なんと自分勝手でマイペースな男か。とっとと丘を降り始めたゴトーの後を追い、その後に続いた。
言う事だけ言い残して立ち去ろうとするゴトーの背中に、オスカーが叫んだ。
「お前たちは余に……エドガーどころかゴトーまでも失えというのかッ!」
オスカーのそれは、置いてきぼりを喰らった子供の言い分のようだった。その両目から滂沱と流れる涙を、オスカーはもう隠そうともしない。
ゴトーとエドガーは、その叫びに応じて立ち止まり、振り返る。エドガーは柔和な笑顔を差し向けたが、ゴトーは相変わらずの仏頂面である。
だが、男泣きのオスカーへ声を掛けたのは、意外にもゴトーであった。
「失うなど、莫迦を言うな。俺たちは義兄弟だろう」
「ああ……魔物溢れる狂気の戦場で、義兄弟を誓い合った仲だ……」
「そんでもって、死ぬ時は共に――などと誓い合ったがな、オスカー」
ゴトーが咥えていたタバコを投げ捨てると、その軌道を細い煙が追いかける。
「ありゃあ、嘘だ。どだい無理な話だ」
そうきっぱりと言いのけた。これはまた、無茶苦茶である。
ゴトーという男は、たまにこういうことを言い出すので困る。三国志が大好きなゴトーの事だ。きっと『桃園の誓い』宜しく、杯を交わす時にそう宣まったのだろう。
当然、真面目なオスカーは呆気に取られた。ゴトーの隣のエドガーは最早、笑いを堪えるのに必死であった。そこでゴトーは、ようやっとオスカーへ笑いかけた。
「だがな、俺たちは死ぬまで義兄弟だ」
そう言って、ゴトーは空を指差した。
「ホレ、空を見ろ」
暁の橙色と夜の紺色が交わる間際。宵の明星が姿を現す時間である。時の季節風に雲はすっかりと洗い流されて、満天の星空が輝き出そうとしていた。
「何処にいようが、空と大地はどこまでも繋がっとる。気になりゃ同じ空を見上げりゃええ。その下じゃ、俺たちもきっと見上げとる……そうだろう?」
その言葉を聞けど、オスカーはきょとんとするばかりである。
やがてエドガーの耐え切れぬ苦笑を眺めて、そこでやっとハッとした。こうなれば最早、ゴトーらを止める手段などない。彼らの性格を含めて、漸くそれに気が付いたのだ。
「空と大地はどこまでも繋がっている、か……ハハハッ!」
その胸の内を吐き出すように、オスカーは声を立てて大笑いした。片手で顔を覆いつつ指の隙間から空を垣間見る。その瞳には、輝く光が戻っていた。
「そうだな、違いない!」
そうオスカーが肯定すると、ゴトーとエドガーは再び背を向ける。
ゴトーとエドガーは互いの肩に手を掛けて、真一文字に結んでいた口元は――ふたりともいつの間にか口角を上げ、にっかりと
◆
三人のいる英雄たちが立つ丘を遠く眺め、その麓で腕組みをした男が怒鳴る。
「ワシャ、認めんぞ!」
背は低くとも身体の厚みは普通の人間の倍以上はあるだろう。
がっしりとした頑丈そうな体格に、たっぷりと蓄えた髭面はこの種族の特徴。
槌も備える背中の巨大戦斧は、数多くの修羅場を潜り抜けた歴戦を物語る。
彼はドワーフ族の『闘将・ドルガン』こと、ドン・ドルガンである
「納得いかん! あの三人が義兄弟など!」
ワイン瓶を片手に持って、赤ら顔でブツブツと呟く。
どうやらドルガンは、未練がましく愚痴っているようである。
「ゴトーのことは、ワシらがイッチバン理解しとるんじゃわい!」
「ふふん、莫迦め。そんなことゴトー様だって言わずもがな、百も承知だ」
ドルガンに対し、ぶっきらぼうなその口調。宥めているのか、挑発しているのか。
血濡れの
よって彼女は聖職者である。切り揃えた前髪立ての艶やかな黒髪。凛と輝く麗しき美少女振り。彼女こそ六英雄が一人『鉄壁の聖闘士』ことエルルカ・ヴァルガである。
「そうじゃ、我ら『六英雄』こそが、血よりも濃い絆じゃい!」
「ま、その中で誰よりも何よりもゴトー様を知るは、この私だがな!」
「なんじゃと、コラー!」
「やるか、オラァ!?」
口汚くやり合ういつもと変わらぬ二人を、木立から眺める二つの影。
その内のひとりである長身な男から、軽口と高笑いが響く。
「はっはん! 相変わらず仲が良いねぇ、あの二人は!」
鼻を鳴らして木陰に佇む背の高い優男。地味な革鎧に革手袋。腰には
彼は出生不明の義賊で『神速の大盗賊』ことブリュッケン。六英雄の一人である。
「ふふ……
見目麗しき美貌を持つ女性が、柔らかな微笑でブリュッケンに話しかけた。
二十歳に満たぬ少女にも見えるが、二度の転生を経てその歳は二百歳を優に超える。
藍色の幾何学模様の入った白基調の
禁呪を操り異界を渡り歩く六英雄が一人『冥界の魔女』ことエリノアである。
「いやぁ、オレっちはいいよ」
「あら、天下の大盗賊が謙虚なものね」
「そりゃ謙虚になるさ。しがねぇ万年貧乏のコソ泥が、今や英雄様だぜ?」
磨いたような
「オレっちにゃ過ぎた話さ……勇者のお仲間で英雄様? もう、腹ぁいっぱいだ!」
「私もよ……こんな幸せな気分になれるだなんて、思ってもみなかった」
エリノア自身でも予想だにせぬ出来事であった。人の身として悠久とも感じる数百年の刻を跨ぐ魔女の口から、まさかそんな言葉が出るなどとは。
「旅も、もう終わりか……」
「そうね」
風に揺れる木々。遥けき遠くを――エリノアは優しい瞳で眺めた。
「でも、貴女はどう考えるのかしら……アーデライード」
木陰に立つ二人の横を、少女が
その姿、まさに絶世の美少女という呼び名がまさに相応しい。
「どう考えるかなんて、聞くまでもないことだわ!」
若木の様な伸びやかな手足を自由自在に動かして。紅き口唇より、美しき華が咲き誇るかの声で。見目麗しきその少女の名は、アーデライード。
六英雄が一人『
「ふふっ、相変わらずの地獄耳ね……」
「長い耳は伊達じゃないし!」
断崖へ向け、飛び降りんばかりに駆けに駆け着けて彼女は叫んだ。
「みんな莫迦だわ! 大莫迦者だわ!」
そう叫ぶと、崖の突端にひとり立つ。
「だってね――旅の終わりは、新しい旅の始まりなのよ!」
この刻までは、そう信じていた。
ゴトーとの旅は終わらない。永遠に続くものなのだと。
海風にたなびく蜂蜜色の金髪を左手で押さえる。
少し寂しそうな表情でオレンジ色の光を浴びながら。
陽の沈みゆく地平線の彼方へ向けた目を細めて。
「風が、止んだわ……」
沈む夕陽を眺めながら、ハイエルフの美少女は少し寂しそうに言った。
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