第29話 ハイエルフと行くガールズトークの旅

 とき少々遡さかのぼる。


 公国府・ヴェルヴェド城を一巡りし、散策を終えた後。

 夕食を摂る為、ぶらぶらと闘技場コロシアムを背にして歩いていた時のことだ。

 アーデライードだけは、颯爽と飲食街へ歩みを向けていた。

 足取り軽く金色の髪を揺らして、さも当然の様に先頭をく。

 一歩遅れたすぐ隣には追い駆けてきた女騎士・ソフィア。その傍にはレイシャがいた。

 ずっと後ろには、瑛斗と騎士たち。アードナーとドラッセルだったっけ?


 それは酒場へ到着する間――ほんの十分足らずの道のりだっただろうか。

 たったそれっぽっちの間に、何故こんなことを話す気分になったのか。

 理由は分からない。いまだもって全然分からない。

 その辺が「気まぐれハイエルフ」なんて呼ばれてしまう所以かしら?

 いや、違う。そうではない。

 そうではないんだけれど、違うわけでもない。

 多分ね、何故かとても近しい何かを感じたんだと思う。

 えっ? 近しい何かってなんだって?


 莫迦ね、そんなの口が裂けても教えてあげるもんですか!



「あー、レイシャちゃんは可愛いねー」


 アーデライードのすぐ後ろで、ソフィアがそう呟いた。

 客船を降りてからずっと、ハイエルフの長い耳で度々捉えていた言葉のひとつだ。

 この腹黒ちびだーえるの正体を知らないで、無知な女騎士だこと。

 大股で歩きながら厚顔不遜のハイエルフは、余裕綽々に鼻で笑う。

 そう、この言葉を聞くまでは。


「うーん、やっぱり欲しいなぁ。レイシャちゃんみたいな子供」

「ふっひん?!」


 なんか変な声出た。背筋伸びた。

 最近これをやらかすこと、多い。


「だっ、誰の子よ?!」

「えっ、なんですか?」


 突拍子もないソフィアの発言に、ハイエルフの長い耳が跳ね上がる。

 もわもわと夏の雲みたいな動揺が、あれよあれよと胸の内に広がった。

 表情から余裕が消え失せ、一瞬にして心穏やかではなくなってしまう。


 何かしら、人間ってこの若さでそんなことを考えちゃうものなの?

 自分なんてこの年頃は、旅をする好奇心と知識欲で目一杯だったけれど。

 それは、寿命が存在しないとも言われるハイエルフ故なのかしら。

 けれど実際に言葉で聞くと、やっぱり物凄い威力を持って迫ってくるもので。

 それは、まぁ……想像したことがないわけではないわけでもなくない。

 瑛斗によく似たハーフエルフの赤ちゃんを抱く自分の姿、とか?

 頭に浮かんでしまって即座に打ち消した過去がないこともないこともない。


「誰の子って? 子供が欲しいなぁって話の、ですか?」

「えうっ、そ、まっ……そうよ?」


 きょとんとした顔のソフィアから、改めて問い直された。

 冷静を装ってみたけれど、とても冷静ではいられない。

 そんな生真面目に問い直されても、正直困る。

 隠しきれない動揺が溢れ出そうで、そこはかとなく口を押えた。


「やだな、そんなの具体的にはいませんよ、ふふふっ」


 ソフィアはちょっと困った顔で、恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。

 こんな顔をさせてしまったのは、他ならぬアーデライードである。

 思わず本気で反射的に訊ねてしまった自分が、なんだか莫迦みたいだ。


「ぐっ……そうだわよね。わ、わかってましたし、てたし」


 何故か敬語が出た。すぐに訂正したけど、わざとらしかったかしら。


「実はですね……」


 そんなアーデライードの様子を意に介さず、ソフィアが切り出した。


「私には出産したばかりの姉がいて、よく赤ちゃんを抱っこさせて貰うんです」

「ふ、ふん? それで?」

「それがすっごく可愛くて。だから私も欲しいなって、つい思っちゃうんです」


 頭を掻きながらそう言って、ソフィアは少しはにかんだ。


「そういうものかしら?」

「そういうものです。抱っこしてみればわかりますよ」


 思えばアーデライードに赤ちゃんを抱くという経験は皆無である。

 そもそも自分のそんな姿など想像すらできな……できないんだってば!

 両手がむずむずして、ついわきわきと動かしてしまう。


「で?」

「?」


 いつもの調子で口にしたけど、普通は「で?」じゃ通じなかった。

 瑛斗だったらもうちょっと察したりするんだけれど。最近は。


「ああえっと、ううん……どうなのよ、その……好きな……」


 はからずもモジモジとしたせいか、ソフィアは少し察したようだ。


「えっと、だってその……私にはまだ、お相手なんていませんもの」


 その言葉と態度のおかげで、アーデライードはすぅっと素に戻ることができた。


「あら、後ろの二人とはどうなの?」

「えっ、アードナーとドラッセルですか? あれはただの腐れ縁です」


 ソフィアはにべもなくばっさりと否定する。

 騎士である彼女的に言えば、上段斬りで真っ二つというところだろうか。

 二人の内どちらかが好意を持っていた場合、きっとショックな言葉だろう。


「あなたたち、幼馴染なんですって?」


 これはヴェルヴェド城を見学中に、瑛斗から小耳に挟んだ情報だ。


「ええ、アードナーやエアハルトと。二人とも私より二つ年上なんですけど」


 ソフィアは柔らかそうな口唇くちびるに指を当て、


「うーん、でも二人とも近所のいいお兄ちゃんって感じでしたね」


 優しい瞳で、懐かしそうに宙を見やる。

 見やった向こう側に見えている風景は、彼女の幼い頃の思い出だろうか。


「近所のいいお兄ちゃん?」

「はい。私が妹で、お兄ちゃんが二人いる。そんな感じでした」


 そう説明すると、ソフィアは淡々と思い出話を語り始めた。


「アードナーは炎のように突っ走っちゃう人でしょう? それを冷静なエアハルトが尻拭いして……私はその二人の後を夢中で追いかけるっていう、そんな感じかな」


 どうやら幼馴染三人の関係は、今と大して変わらぬようである。


「例えば私には、騎士にならない、という選択肢もあったと思うんですよね」

「ふぅん?」

「実際、私の姉は普通に淑女をやっていまして」

「どういう意味かしら?」


 悪戯っ子っぽく「ふふっ」と笑うソフィアに、どことないあどけなさが浮かんだ。


「父が懇意にしている貴族の下へ、さっさと嫁いでしまいました」

「なるほどね」


 力には力の世界である封建制の根付いた異世界では、男女同権はまだ程遠い。

 特に貴族の間では、政略結婚を始めとした女性の扱いが色濃く残っている。

 気ままなハイエルフには、どこ吹く風の話ではあるが。


「でも、私の場合は騎士を目指している幼馴染が居たので、もうずっと私も騎士になるものだと……これは二人が、私を外へと導いてくれた。そんな気がしています」

「外に導いた、ね……」


 アーデライードは、何処か意味ありげに呟いたきり、暫く黙り込んだ。

 かと思えば、唐突に唸ってみたり。

 そんなハイエルフを、ソフィアは大人しく見守った。


「例えば……」

「はい」

「ねぇ、これは例えば、よ?」


 口をへの字に噤んでいたアーデライードが、念を押しつつ切り出した。


「あなたみたいに小さい頃、近所に年上のお兄さんがいたとするじゃない?」

「ええ」

「それがね、何故か凄くカッコよく見えて、憧れちゃったりするわけよ……あっ、例えばよ、例えば!」


 アーデライードの念の押し方は、念入り過ぎて返って怪しい。ソフィアはすぐに「実体験に基づいた話かな?」と察したが、方便だろうと気付かぬ振りをした。


「でもね、そういうのってさ……普通にあるものなのかしら?」

「わかるなぁ」

「えっ、わかる?!」


 うんうんと頷きながら、ソフィアは人差し指を立てた。


「だってね、小さい頃の年の差って凄く大きいんですもの。ちょっとの差でも、とても大人の人だなぁって思うんじゃないかな」

「そう! その通りなのよ!」


 同様に人差し指を立てたアーデライードが、バネの様にびょんと身体を跳ね上げた。

 ソフィアは「私の場合は二年という小さな差だけれど」と前置きをしつつ、


「それでも差は大きくて、二人は私の憧れだったりしたんですよ」


 ちょっと照れくさそうに、自分の経験を素直に話した。

 それを聞いたアーデライードは、胸のあたりがカーッと熱くなった。

 口を真一文字に結んだまま、武者震いの様にふるるっと身体が震えた。

 アーデライードがこんな話を知り合ったばかりの他人としようと思うだなんて、ほんの半年くらい前には考えられなかったことだった。

 だから物はついでだ。もう一つ、思い切ってしまうべきか。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう……


 迷った時はやってしまうのが、アーデライードだったはずじゃない!

 気持ちに喝を入れ、自分に言い聞かせる。


「これって、ソフィアはさ……その……」


 ああ、案の定、口籠もる。こんなのヘンだ。自分でもだらしない思う。

 それでもソフィアは何も聞かず、柔らかな微笑みを浮かべてじっと待っていた。

 アーデライードは意を決して「禁断の二文字」を口にすることに決めた。


「あの……これって、初恋、だったと思う?」


 今度はソフィアが「はうっ」と息を詰まらせて口籠る番となった。

 先程「わかるなぁ」と言ってしまった手前、ちょっと答えにくい

 それではまるで、自分も彼らに初恋をしていたみたいだから。

 思い切って打ち明けた目の前のハイエルフはといえば、すっかり動揺してオロオロと落ち着きなさげにしている。そんな小柄で華奢な彼女は、今にも崩れ落ちてしまいそうなほど儚げに見えた。

 いつもは大仰で不遜な態度ばかりの彼女だが、こうして目の前に立たれると同じ等身大の少女にしか見えない。それがソフィアにはどこか不思議に感じられた。

 でも彼女はきっと、自分のことを同世代の友人として相談を持ちかけてくれているんじゃないか。どうしてか分からないけれどそう感じた。だからこそ真摯に答えるべきだ。


「うん、あの、えっとね、もしかしたら、初恋……かも?」

「ふ、ふぅん、そう……ねぇ、そうなのかな、やっぱり?」


 二人とも、何故か語尾は疑問形。ソフィアまでハイエルフの仄かな緊張を掬い取ってしまったか。お互いに頬を染め合って、どこかたどたどしくなってしまった。


「きっと、たぶん……でもね?」


 ソフィアは言葉を慎重に選びながら答える。


「初恋って『これが初恋』とは、すぐに気付かないものなんだ、と思います」

「気付かない……?」

「なんていうか、後でそう気付くっていうか……失ってから気付くっていうか、忘れた頃に気付くっていうか……」


 ソフィアの言うことはいちいち尤もで、悉くハイエルフの小さな胸へと突き刺さる。

 思えば冒険に出たばかりの十六歳の頃、そんなことを感じていたかしら。百年近い年を重ねておきながら、感情よりも知識や技術ばかりが先行していなかっただろうか。

 ずっと溜め込んで、溜め込んでいたものが、するりと抜けてゆく気持ちがした。

 こういうとき、やっぱり人間って凄い、とアーデライードは改めて感じる。

 あの人との旅を終えてからの、数十年の孤独が、たかが数分で氷解した気分だ。

 もしやこれこそが、自分が人間から学び取ろうとした言語学の原点ではないか。


「ううん、ごめんなさい。やっぱりよく分からないです」


 とはいえソフィアだってまだ十七年程度しか生きていないのだ。結局のところ自分でもよく分かっていないのが実情だった。しかしそれは当然であろう。


「そんなことない。いいのよ」

「初恋を知らないで結婚しちゃうのは嫌だなぁ、とは常々考えてるんですが」


 照れ隠しなのか、ソフィアは明るく笑って言った。


「でも、結婚もいいなって、思ってはいるんですよ?」


 子供好きなはずのソフィアが、妙な所で念を押す。

 恋をして、結婚をして。それが当り前じゃないかしら、と思う。

 ちょっとラブロマンス脳ではあるけれど、そんな自由があってよい。

 人間の事情に関しては、まだまだ疎い所があるけれど。


「あ、でも『でーぶい』は嫌だなぁ」


 悪戯心で教えた異世界エイトのせかいの言葉を、ソフィアはしっかりと覚えていた。


「んふ、もし私だったら、逆に痛い目に遭わせてやるけど?」

「そうなったら、船の舳先へ飛ばされるだけじゃ済まなさそうですね」

「もちろんよ。だからね、もし必要だったら私を呼んでくれればいいわ!」

「頼もしいなぁ」


 同年代の少女のように、顔を見合わせたふたりはころころと笑い合う。

 ひとしきりそうすると、アーデライードが思いついたように話題を変えた。


「でもでも、一目惚れってあると思わない?」

「一目惚れって、私はよく分からないんですけど」

「そうかしら?」

「だって、まずは大抵が見た目ですよね?」

「ええ、そうね」

「顔の良さとか? スタイルの良さとか?」

「そういうのもあるとは思うけれど」


 アーデライードが「うーん」と呻る。


「直感的に……その、稲妻が走って、心臓が飛び上がって、顔が赤くなって……」

「ラブロマンス小説にありそうですね、それ」


 そう言われてしまうと、アーデライードは気恥ずかしさが先行した。

 だって、本当にそうなっちゃったんだもん。

 私だってそんなのウソだぁって思ってたもん。

 でも、そうなっちゃうんだもん。仕方ないじゃない。


「けれどそれよりも勝るものがあるんじゃないですか?」

「例えば?」

心根こころね、とか? 真心まごころ、とか?」

「そんなの見えやしないじゃない」


 今度は頬を膨らませつつ「むーっ」と唸る。

 普段見えないものをよく見ているクセに、ヘンな所で現実主義である。


「それじゃあ、一緒にいて心が安らぐとか?」

「あ、それは分かる」


 先程までの表情とは打って変わって、ぽんと手を打った。

 あ、わかるんだ……とソフィアは密かに思った。

 このハイエルフは気付いていないが、ほぼ自白しているのと同義である。


「もしかして、それがエイトさんと旅する理由?」


 まさかの不意討ちだった。下の方からきゅーっと上がってきた体温で、ハイエルフの長い耳の先まで見る見るうちに真っ赤に染め上げてしまった。


「!? !! ?? ?!」


 あわあわと口だけが動いているが、声はまるで出ていない。

 慌てふためくその姿は、顔色からして陸に上がった金魚の如しである。


 あ、これは痛恨の直撃クリティカルさせてしまったかも、とソフィアは思った。この世界に存在していれば「地雷を踏んだかも」と口にしていたところだろう。

 こういう会話は、年頃の女の子であれば日常茶飯事じゃないかな、とソフィアは思っていた。だがどうやらこの純情ハイエルフに、一般的な概念は当てはまらないらしい。


 一方、アーデライードとしては、何故この会話だけでこうまで言い当てられてしまったのか、皆目見当がつかない。只管ひたすらに目をぐるぐると回すのみである。

 その辺りの知識なく、ただただ長く生き過ぎてしまった。そう思うことが彼女にはあった。しかしこれほどまで顕著な形で、唐突に思い知らされることになるとは。

 何しろ随分と長い間、年上の男どもと共に殺伐とした旅をし続けていた彼女である。その後の人生は、あれよという間に六英雄としての仮面ペルソナを被り続けてのものだ。

 だから同世代の女の子とこういう話を、きゃっきゃしながら話したことなど皆無。そのせいかこの手の話は何もかも全て、新鮮で華やかで煌めいているように感じていた。

 その経験値の浅さこそが、此度の事件を招いた結果ともいえる。


 ソフィアとしても、こうなるとどう声を掛けてよいのか分からない。

 かといって、このままにして置くのも如何なものか、という状況である。


 現場からは、以上です。


 などと打ち切るわけにもいかないので、何とかすることを心に決めた。


「ね、落ち着いて聞いてくださいね」

「はっ、はいっ」

「これは女の子なら、誰もが通る道なんです」

「はいっ」

「ようこそ、いらっしゃいませ、それがこの道です!」


 ソフィアは普段口にしない様な思い切ったことを、えいやっと言ってみた。

 しかしそれは、寸分違わず確実に、アーデライードの正鵠を得ていた。


「だからとても、とても素敵なことだと思います!」


 一瞬にしてアーデライードの心の中に、はんなりとたおやかな花が咲いた。

 そして春の妖精と花の妖精と、あとなんだかよく分からないけど、その他諸々の妖精たちが一斉に飛び出した。おかげで実際に道沿いの窓辺にあったプランターの花々が、あっという間に咲き誇ってしまった。

 ただ一人気付いたレイシャは「あーでれ、またやった」と思いつつ眺めた。

 赤く染め上げた顔でこくこくと真面目に頷くアーデライードは、知る者が見てもとても『聖なる森グラスベルの大賢者』とは思えない姿である。

 そんなハイエルフが落ち着いた頃を見計らって、のんびりとした口調でソフィアが訊ねる。


「でも一目惚れからその先は、どうするんでしょう?」

「どどどど、どうしよう?」

「うーん……結局のところ、恋は駆け引きなんじゃないですか?」

「ふむ、駆け引き……ふむ、それなら得意分野だわ……」


 なんだかいつもの悪い顔をしている。けれど流石にソフィアは気付かない。

 この顔に気付く者は、目下のところ昔馴染みの六英雄らと、瑛斗のみである。

 いや、もう一人すぐ傍に居た。レイシャである。

 最近覚えたばかりの「チベットスナギツネ」みたいな目をしている。


「ふぅむ、恋は駆け引き、ね。いい言葉を聞いたわ!」


 聞いたからといって、上手くいくとは限らないし、上手いとは限らない――ということを、この時のアーデライードはまだ気付いていない。


「ちがう」


 ここまでずっと黙ってついてきたレイシャが、おもむろに口を開く。

 では何を知っているというのかしら、このだーえるのちびすけは。

 んふー、それじゃちょっと聞いてやろうじゃないの。


「なによ?」

「こいは、かちあみりょう」

「は? カチ網漁?」

「ふゆのふうぶつし」


 いや、待て待てレイシャよ。それは恋の話ではない。鯉の話である。

 瑛斗から聞き齧ったのかも知れないが、今レイシャが口にしているのは、福井県は若狭町、三方湖に伝わる伝統漁法であり、恋とは無関係の話である。

 レイシャは相変わらずの無表情だが、少し勝ち誇った顔をしているのは何故か。何故なのか。その余裕めいた気配がいちいち気に障る。

 しかし、此度のいくさには勝った、とアーデライードは思った。

 ここまでのソフィアとの会話で、ハイエルフの女子力はピカピカに磨かれたのだ。

 こういうのを「がーるずとーく」って言うのよね。

 その結果、確実に好敵手ライバルに差をつけた。そう思うとつい笑みが零れる。


「ふっはん!」

「?!」

「ま、レイシャはそれでいいんじゃない?」

「エ、エートが、そういった」

「あっそ」

「エートが、そういった!」


 あら、珍しい。レイシャがちょっと大きな声を出した。

 ここのところ、多少は感情が現れるようになってきたようだ。

 瑛斗に言わせれば喜ばしいことなんでしょうけれど。

 今日のところは気分がいいし、素直に喜んであげましょうかね。


「んふー」


 余裕の出来たアーデライードは、急にぴたりと止まり人差し指を立てる。


「恋は駆け引き……」

「えっ、あ、はい?」

「そういう時は如何なる時も、情報が最優先にモノを言うわ」


 当然、ソフィアには何のことかさっぱり分からない。この時までは。

 だが数秒後、背後からアードナーの大声が聞こえてきた。


「バッカ、オマエ、おっぱいボーンに勝るものはねぇよ。なぁ、エイト!」


 そんな声が聞こえた瞬間、二人のエルフは見逃さなかった。

 ソフィアの額に「びきっ」という音を立てて、青筋が浮かび上がる瞬間を。

 あとは今後の展開を、動揺することなくまったりと眺めた。


「あの、バカコンビ!」


 ソフィアがバカコンビとやらを怒鳴りつけるために踵を返す。


 ついでに言うなれば、奸智能力……もとい感知能力に優れたアーデライードは、その手前で口にしていたドラッセルの台詞すら聞き漏らしてはいなかった。

 レイシャにそんな能力はないから、アードナーの台詞しか聞こえていないハズ。

 今までの会話で恋の駆け引きとやらを、二人のエルフはすっかり学習している。


 ふむ。やはりスタイルの良さも決め手の一つらしい。

 一目惚れは、まずは大抵が見た目という情報も得ている。

 隣に居ただーえるのちびすけと思わず顔を見合わせてしまった。

 あらやだ。この子と私、同じ思考かしら?

 でもでもよ? 瑛斗はどちらのタイプがお好きなのでしょう?


 さて、後の二人がとった行動については、推して知るべしである。

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