3ー3
「や、やあ、
「そうね、二回目。ーー昼は優しい私だったけど、今は助ける気も一切ない尖ったいつも通りの私だから」
おお、敵意剥き出しですね。······やはり、昼の
はあ、とため息も吐いてしまう。
「立ってないで座ったら? あ、椅子じゃなくて床にね」
うわー、いきなり攻撃してきた。本当に容赦ない。さてこれは······。
「じゃあ、お言葉に甘えて床! に座らせてもらいますね」
一宮さんが一瞬、目を見開いてこちらを見てきた。作戦成功。少しだけ焦ったようだが俺の作戦はまだまだ準備段階だ。それじゃあ次へ移行、と······。
言葉通りに俺は床に座り、一宮さんに呼び掛けた。
「ねえ、一宮さん」
「············」
無視か。なら別プランでこちらに向かせればいい。その別プランが······。
「一宮さんって、何かおしゃれの意識でもしてるの? ーー可愛いから!」
「っ、······そ、そう?」
お、釣れた。もしかして一宮さんはこれに弱い?
釣れた、と確信している
「私はそんな、かわーー可愛いに決まってるでしょ⁉ 騙されるとでも思ってるの⁉ そんな心のないお世辞に?」
まんまと罠に引っ掛かった航流の方が釣られているのだ。
「ま、まさか。この俺が一宮さんにお世辞? そ、そんなわけーー」
「部長から全部聞いたけど?」
「っ! あの腹黒女! あ······これは、その······ね?」
「うん、騙された私も悪いは悪いけど、ーー君は絶対に許さない」
ひえー、と扉を見ると小窓からテヘペロ、と
「気の毒ね。まさか、彼女までに見放されるとはね······」
「へ? 彼女って?」
「あの子よ。君の彼女でしょ? 昼休み、浮気やら何やら面前でイチャイチャしてたじゃん」
「あ、ああ、奈美花ね。あいつは違うよ」
「え⁉ だって、イチャついてたよね?」
「いやいや、あれは······確かに一宮さんとかが見れば、イチャついてるカップルみたいに見えるかもしれないけど、俺らにとっちゃ少々度が過ぎるスキンシップなんだよね、あれ」
あれが⁉ とばかりに俺を凝視してくる一宮さん。その面影に先程言っていた尖った部分などもうなくなっている。
あはは、と苦笑いで凝視してくる一宮さんに返すと、
「······滅びろ、リア充······」
「怖い怖い」
やっぱり思うが一宮さんのキャラは全く分からない。今みたいな恐ろしい一宮さんだったり、昼の弱気な一宮さんだったり、昨日の妻城先輩に対して強気な一宮さん。他にも拗ねたところや騙されやすいところだったりとか、それでも一番のキャラと言ったら、
「······ツンデレ」
ボソッ、と呟いたが俺の思う一宮さんはそれだと断言する。二言はない。
耳には届いていないと思っていたが、意外にも俺の声を拾っていたようで一宮さんに聞かれてしまった。怒られる、と覚悟していたがまさか予想外の返しが······。
「ツンデレなの? 私って?」
「え······いやぁ、何と言えば······」
まさかの返しに言葉が出なくて言い淀ってしまった。
その返しは反則だろ! と叫びたくなったが繋ぎ繋ぎで言葉を作り、
「イチミヤサンハ、カワイイカラ、ツンデレデモ、イインジャナイ?」
自信(可愛いがお世辞と妻城先輩のせいで認識されている)がないために片言で誤魔化しながら喋ってしまった。
何で片言? とお決まりの言葉が返ってきたがそれには触れず、
「ーー詳しい俺と奈美花の関係を教えるよ」
ツンデレのことをなかったかのように話を反らしたが、一宮さんにはもう通用せず、
「何で、片言なの?」
と、顔を至近距離まで近づかれて脅される状態となった。
反射的に顔、と言って向こうが無意識に近づいていることを伝えると、顔を真っ赤にしながら速攻で自分の席まで戻り、深呼吸し始めた。
大袈裟だな、と静かに呟く。
「······君も、真っ赤だよ。ーー顔」
呟きが聞こえたようで、静かな反撃を食らってしまった。
俺も深呼吸し始めるといつの間に入ったのかは知らないが、ヒューヒューと俺ら二人を妻城先輩と奈美花が背後から煽る。言い返したいことがあるにはあるが、言い返すだけ無駄だろうと思い、静かに落ち着きを取り戻す。
奈美花が部室に入ってくると、再び部室内は険悪なムードになり始めた。その中心は主に一宮さんだが······。
今の状況を説明するとすれば、俺と妻城先輩は完全に部外者。一宮さんは奈美花に対して敵意剥き出し、一方奈美花の方は······、
「ねえ、わっくん。土曜日空いている? 付き合ってほしい場所があるんだけどさ······」
と、完全にいつも通りのご様子。敵意剥き出しの一宮さんに気づいているとは流石に思っているが、気づいていなければ流石に俺も助け船など出せない。
ある意味俺はどうすればいいか対応に困っていると、とうとう一宮さんに火が付いてしまった。その矛先は言うまでもなく、奈美花だが······。
「あなた、名前は?」
「う? あたし? あたしは
「ええ、私は一宮楓。よろしくはしないわ。雪原さん」
「何でよ、仲良くしようよ! 女子トーク! 女子トーク!」
基本誰にでも接する奈美花だったが、一宮さんの反発的な態度によって少々困惑が表情に出ている。困惑する奈美花が新鮮と思いながらも、奈美花を困らせるほど反発的な態度を取る一宮さんをわずかながら感心してしまった。
これは勉強になる、と感心しながら二人を眺めていると、ここではおかしい何かを書く音が聞こえてくる。何だ? と思い、キョロキョロしながら音の発生源を探し、大量の印刷物に何かをシャーペンで書いている妻城先輩を発見した。
「何やってんですか?」
「台本のチェックだよ。ラジオ部の活動のな」
「へー、見せてもらってもいいですか?」
「ああ、いいぞ。······なら、お前にも手伝ってもらうか」
「手伝いとは?」
それはだな、と前置きした後、妻城先輩は俺に台本をひとつ渡して誤字脱字チェックの手伝いを説明してきた。簡単ですね、と俺が口にすると妻城先輩は一瞬、女子トーク? で盛り上がっている二人を見てから、
「簡単は簡単だが、これを毎週のように私が一人でチェックしてるんだ。貴重な時間を割いてまでもだぞ?」
「そ、それはご苦労様です······」
「今週は楓ちゃん一人にやらせるか」
完全に妻城先輩のストレスを一宮さんにぶつけたかのような呟き。これは聞かなかったことにしよう。うん、俺の言葉で会話は一区切り、と。
言葉は流したが、妻城先輩の貴重な時間の内容を知りたくなった。でも俺には流石に聞く勇気などない。本当に情けない男だ······。自分で言うのもなんだがな······。
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