矢吹ミツルの "スペシャリテ"!!

助六

不良シェフ編

エピローグというプロローグ


 美食の祭典――。


 本日手に入れた材料は極めて上物。


 まずは極上のモモ肉。


 きめ細やかな肉質ならではの柔らかさが、触れず味わうこともなく、視覚だけで味覚を刺激してくるかのよう。

 唾液が溢れ出てきて止まる気配がない。

 今でもこの状態。いざ調理しようものなら絶品の一品ひとしなになることは間違いない。


 さらには、貴重なさくらんぼ。


 きれいに丸みを帯びた曲線美。大きさを保ちつつも形はしっかり整っていることがまた素晴らしい。

 見た目だけではなく、質も上等に違いない。

 実がギュッと引き締まっており、これまた至極。二本の果梗かこうの先に実るふたつの果実には、甘さの中にほどよい酸味があり、その酸味がまた甘みを惹き立てることだろう。

 これを『甘酸っぱい』というたったひとつの形容詞でまとめるにはいささかもったいない。もったいなさすぎる。


 ――さて何を作ろうか。


 以上が本日のランチで取り扱うメイン食材。

 どうすれば食材の味を最大限に引き出せるのか。すでにストックされている材料を確認しながら真剣に考える。


 彼はそっと目を閉じた。


 ムネ肉、キノコ類複数、賞味期限切れの卵、わさび醤油のドレッシング、皮付き骨肉、ゆず、ソーセージ、他多数。 


 食材、薬味、調味料。


 和風にするのか、それとも洋風にするのか。洋風といえどもイタリアンなのか、それともフレンチなのか。ドイツ料理、ロシア料理もみすみす逃せない。さらに中華という選択肢まである。

 メインとなる食材を、どの食材とともに、どう調理するのか。

 様々な思考が巡る中、彼が出した答えはひとつ。


 ――ありのままに食材の味を堪能しよう。


 そう決めた彼――矢吹ミツルは例のごとく『頭の中』で料理を開始した。

 さあ、今日はどんな料理がミツルを堪能させ、満足させてくれるのか。


 童貞諸君。君たちは女性の隠された旨味を知っているか。

 喪女諸君。君たちは男性の隆々とした肉の旨味を知っているか。

 紳士淑女の諸君。日々、妄想に悶えているだけではなかろうか。


 矢吹ミツルはすべてを教えてくれるだろう。

 男の、そして、女の真の食し方を――。

 彼にかかれば、すべては手の上皿の上。


 さあ、料理を始めよう。

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