第3話 白い友人 その三
ブルーデルはデナリの頂きを望みながら、茶色の地はだにうっすらと雪が積もった草原を、バンをどこどことゆらしながら走っておりました。丘の起伏がモンゴルの高原と見間違えるようなとこもあります。少しどんよりとした雲の腹が魚のうろこのようにたなびいています。その間からお日様もよく照っていて、気持ちの良い暖かさでした。
そのうちに、目の前にマッキンリー川が見えてきました。ブルーデルは浅瀬の川岸へとハンドルを切って、川べりに広がる砂地へバンを走らせました。バンのタイヤは砂地に少し埋まりながらも、砂れきを乗りこえたりしながらぐんぐん走ります。
「白熊のお母さんは大丈夫かね? 車がゆれるけど、もう少しのしんぼうだからね」ロダン工場長が白熊の母親を思いやり、声をかけました。
バンは浅瀬の川へと進みます。タイヤはかん木に乗り上げたり、川床の岩に乗りこえたりゆっくり走っていきました。レミーとカミーユは窓から外を食い入るように見てました。車が上下して川床を走るのが面白いのです。遠くで水を飲みに来たカリブーが数頭いて、子供のカリブーがバンの音に驚いて飛び跳ねました。
ブルーデルの運転するバンがマッキンリー川を渡りきると、その先は土手のような川岸を登らなけらばなりません。ブルーデルはブルルンとエンジンを吹かして土手を登りきろうとしたのですが、バンのおなかが土手の山につかえてしまい身動きがとれず、途中で止まってしまいました。
「父さん、どうも困ったことになったよ。車がどうしても進まないようだ」ブルーデルは少しあきらめ気分で言います。
「わしが降りて、後ろから押そう。かけ声に合わせて運転しておくれ」ロダン工場長はバンを降りると、車の後ろに回って押す準備をしました。
「いいかな、ブルーデル。わしのかけ声で車を押すぞ。いち、にの、さん」
ブルーデルはロダン工場長の声に合わせて、アクセルを踏もうとしましたが、「あっ」とおもわず声をもらしました。目の前に自分の体の大きさほどの、真っ黒なオオカミが立ちはだかってにらみつけているのです。
「がるるるっ、おいっ。その車に乗っている白熊の子供をこっちによこせ」黒いオオカミがそうすごんで吠えました。
「ブルーデル、どうしたんだ。わしひとり押してたんじゃ、てこでもうごかんぞ」ロダン工場長がブルーデルの様子を見ようとしたころ、「がるるるっ」と後ろからうなり声が聞こえてきました。三匹の焦げ茶色のオオカミとその後ろにいる何十匹のオオカミたちが、ロダン工場長をにらみつけるようにして取り囲んでいました。
「ぐうう、お前たち、いつの間にきたんだ。ブルーデル、降りてこっちにきてくれ。オオカミたちと一戦交えなきゃならん」ロダン工場長はブルーデルに加勢を頼みました。
「お父さん、それより早く車に乗ってください。いい考えがあるんだ」ブルーデルが言ってきました。
「何を言ってるんだ。オオカミたちがむかってきてるのに。立ち向かわんと」
「お父さん、おれを信じて。いいから早く乗ってよ」
ブルーデルの語気におされて、ロダン工場長はしぶしぶしたがうことにしました。後ろのオオカミたちに背を向けずに、じりじりと車の前へ進みます。ドアを開ける時に、ロダン工場長はバンの前に立ちはだかっている一匹の黒い大きなオオカミを目にしました。ロダン工場長はオオカミなど自分の相手になどなるはずはなく、負けることは絶対ないと思っていましたが、この黒いオオカミを見て考えが変わりました。いくらか恐れの気持ちがわいてきたのです。
「ぐううっ、こいつがオオカミのリーダーか。こいつとその手下たちを相手にするのは、だいぶ骨をおりそうだぞ」ロダン工場長はゆっくりと車のドアを開けながら、黒いオオカミをにらみ付けました。すると黒いオオカミは鋭い眼つきで、
「そのおんぼろ車じゃ、どこも行けやしないぞ。白熊の子供をこっちによこすんだ」とまたすごんできました。ロダン工場長は何も答えずに、助手席に乗りドアをしめました。
バンの後席にいたレミーとカミーユはブルーデルの頭ごしに黒いオオカミに取りつかれたかのようで、かたずをのんで見ていました。「こっちにおいで」白熊の母親に呼ばれるて二匹は、われに返ったように白熊の母親に寄りそってかくれました。白熊の母親は二匹の子熊を力強く抱き寄せると、自分のふところへとかくしました。
「がるるるっ」三匹のオオカミと、その手下のオオカミたちがいっせいに車の横や後ろのドアに飛びついて、こじ開けようと前足でひっかき回してきました。数十匹のオオカミが車にむらがるので、バンはゆさゆさと揺らされました。
「お父さん、だいじょうぶだから。ドアはロックしてるから開けられはしないよ」ブルーデルは工場長に安心させるよう言います。
「おまえら、早く開けろ」黒いオオカミのヴィクトルはそう手下のオオカミたちに怒鳴りちらすと、さっと軽々とバンの天井へと飛び乗りました。
「おれがこうして上にいるかぎり、どこへも逃がさせんぞ」ヴィクトルはそう言って、バンの天井を陣取って立ち上がりました。数十匹のオオカミたちはヴィクトルの機嫌をそこなわないうちにと、さらにガリガリ車の壁を必死にひっかいたり噛みついたりして、ドアをこじ開けようと車をゆさぶります。
「よおし、いいぞ。メーターの針が一杯になった」ブルーデルが言ったかと思うと、ラファエル博士に教えてもらった黄色いボタンをさっと押したのです。すると「ビシッ」と何かはじけるようなするどい音がしました。
「ぎゃいん」オオカミたちは悲鳴を上げました。しびれるような激しい痛みがオオカミたちにつらぬきました。ヴィクトルも自分の両足が千切れたのかと思うほど痛みが体中に走りました。知らぬ間に前足と後ろ足をばんざいにして、宙に飛びあがっていたのです。その後、おおかみたちは何もわからなくなってしまいました。オオカミたちはみな気を失って、寝込むんだようにのびてしまいました。
「みんな大丈夫かい。もう安心だよ」ブルーデルは後ろの席の子供たちに声をかけました。
「お父さん、すごい。外にいるオオカミたちがみんな寝ちゃってるよ」レミーは窓の外のオオカミを、きょろきょろ見ながら言いました。
「おじさんがやったの」カミーユも安心したのか、もぞもぞと白熊の母親のお腹の下からはい出すと、レミーの横に立って外を見わたしました。
「ラファエル博士が考えた電気の力でしびれる装置だよ。でも、一日に一回しか使えないんだな」
「ぐうう、さてはあのトンラルの魔物の時の装置かな。この車にも用意してたのか。さすがはラファエル博士」ロダン工場長はいつになく博士をほめて、感心したようすです。
「オオカミが眠ってる間に出発しよう」ブルーデルが車のアクセルを踏むと、ぐぐっと前に進みました。オオカミたちに押されていたせいか、知らないうちに車は土手を乗り越えていたようです。マッキンリー川を背にして、車は背の低い草木の茂みをずんずん進んで、スプルースの木々もいくらか見える草原にでます。そのうちにワンダー湖へ続くパークロードの砂利道に車はでました。
「ここからはもうそんなにゆれないよ。ブルドーベイまで一直線だ」ブルーデルは道路にでると、バンを滑るように走らせました。バンは一路、はげ山を望む険しい山道を走ります。いくつかの谷にかかる橋をこえてバンは検問所のあるところまで来ました。ブルーデルは検問所のゲートで、看板で道をふさいでいる手前で車を止めました。
「おやっ、救急車がこんなところに来てるなんて? 何か事故でもあったのかな」検問所にいた人間がバンの近くにやってきました。
「なんでこんなところを救急車が来るんだい。けが人でもでたのかね」
ブルーデルは近寄ってきた人間の顔も見ず、うつむいたままうなずきました。
「おっ、後ろにけが人をのせてるんだな。いますぐゲートを開けるよ」検問所のおじさんはあわてながら、ゲートをよけました。
「さあ、通ってくれ」検問所のおじさんの声にブールーデルはうなずくと、急いでバンを走らせました。
「ぐうう、うまくいったぞ、よかったよかった。またラファエル博士の知恵に助けられたぞ」ロダン工場長は鼻歌まじりに歌いました。
「ほんとだね」ブルーデルもロダン工場長の歌声に笑って答えます。山道をしばらく走りつづけると、バンはついにヒーリーへと続くハイウェイにでました。ハイウェイは一車線ですが舗装路になってスムーズです。
「お父さん、ここまで来ればフェアバンクスまで楽にいけるよ」ブルーデルが言います。
「フェアバンクスには行ったことがない。お前は行ったことがあるのかな」
「もちろんないよ。人間の街には近づかないよ」
道の両側には背の低いスプルースの木々がうっそうと並んでいます。そのうちに、ログハウス風の家も表れ、人間の歩いている姿が見えてきました。
「僕、あんな家を見るのはじめてだ」レミーは見なれない家並みの風景に見入りました。カミーユもレミーとならんで、窓に鼻をこすりつけていました。そうするうちに建物もなくなり、しばらく枯葉色の木々の間に続くハイウェイを走ります。ひとしきり車が走り続けていくと、道の両側に建物が表れ、大きなボンネットバスがガススタンドで停まってるのも見られました。
「お父さん見て、あれがほんとのバスだよね」レミーが得意げにいいました。
「そうだね。どうやら街らしきとこにでたみたいだ」ブルーデルは建物が続く通りを見ながら答えます。ログハウス風の家々がつらなり、よく手入れされた庭も見られます。車の往来も多くなって、歩いてる人や自転車に乗ってこちらをしげしげと見ている人間もいました。
「がああっ、なんだなんだあの家は。行き止まりだぞ、ブルーデル」
「道を間違えたようだ、お父さん。とにかく曲がるよ」大きな屋根の続いた緑色の家が道路の真ん前に表れて通せんぼしています。それで道が丁字路になってるので右か左に曲がるしかありませんでした。ブルーデルはあわててハンドルを切りました。
「ブルーデル、川を渡ってる橋が見えるぞ。あれがハイウェイじゃないか」ロダン工場長は頭の上の方に見えている鉄橋のような橋を指さしました。
「ぐううっ、そうかもしれない。でもどうやって戻ればいいのかな」ブルーデルは倉庫のある広場の前に車を止めました。道の反対には鉄道が走っており、その向こうには広々とした川が流れているのも見えました。
「そろそろお昼もすぎたようだし、食事にしよう」ロダン工場長がそう切り出しました。
工場長は車をおりると、バンの後ろへ回りました。それからドアを開けるて、ラファエル博士が用意して積んでくれていたサケの詰缶をわきの箱から取り出して、缶詰のフタを開けます。
「さあ、レミー、カミーユ。お昼にしよう。食べなさい。カミーユはお母さんにも食べさせてあげるんだよ」そう言って、ロダン工場長はレミーとカミーユにサケの缶詰をわたします。
「はあい」子熊たちはサケの缶詰と水の入ったコップを受け取り、ベンチシートに並んで食べ始めました。「お母さんも食べて」カミーユが白熊の母親のもとにより、細切れになったサケを母親の口に入れました。白熊の母親はだまって口を動かし、子熊がくれたサケを食べ始めました。
「お母さん。どうして泣いてるの。お腹が痛むの」レミーが母親の目にうっすらと浮かぶ涙に気づきました。
「だって、初めておまえに食べさせてもらったんだからね」白熊の母親はカミーユが聞きとれるほどの声でそっと答えました。そしてカミーユの顔をいとおしそうになでました。
ロダン工場長とブルーデルは前の席で食事をとりながら話をしてたので、カミーユと白熊の母親のやり取りを知らずにおりました。レミーはなぜか一人ぼっちになった気がして、親子の会話に入れずにさみしい思いがしていました。ロダン工場長は自分たちの食事が終わると後ろを振りかえり、子熊たちの様子をうかがいました。
「レミー、食事はすんだかな。そろそろ出発するぞ」ロダン工場長に聞かれて、「いつでもいいよ」と口をもぐもぐさせてから元気でレミーは答えました。
すると、うしろから急にパトカーがやってきたのです。真っ白なパトカーは天井に青や赤のランプを光らせて、バンの後ろの方で止まったのです。一人のポリスが車から降りて、ブルーデルの方へと歩いてきました。
「どうしたんだね、救急車がこんなところで。街の人から救急車がうろうろしていると連絡がきたんだよ」熊ほど体の大きいポリスはブルーデルに近づいて来て話しかけました。ブルーデルは車の後席に顔を向け、白熊の母親が寝てるのに目をやりました。
「おやっ、病人かい。急いでいるとこなんだな」ポリスは後ろの席をのぞき込んでお驚いた風でした。するとロダン工場長がぐうっとうなりながら、持っていた地図をポリスに見せてフェアバンクスを指でさしました。
「なんだ、フェアバンクスに向かってる途中かい。じゃあ、俺が案内するから後ろについて来てくれ」ポリスはすぐさまパトカーに乗り込むと、さきほど見ていた鉄橋のような橋の下を通る道へ向かいました。ブルーデルもパトカーの後について走ります。橋の下をすぎると、道はぐるっと左に曲がり、となりに並んでいた線路も橋の下をくぐると大きなカーブを描きながら離れて行きました。上の方にあるハイウェイの道には車が走ってるのが見え、、その下にそって走っている道だとわかりました。パトカーに続いて行くと、どうやらやっとハイウェイにもどることができたのです。ハイウェイに出た後、先ほどの川をわたる鉄橋が見えてきました。
「タナナ川だ」ブルーデルが鉄橋の前に立っている案内板を見て言いました。
「これはよかったぞ、ブルーデル。人間はわしらをフェアバンクスまで道案内してくれるようだ」ロダン工場長もブルーデルも安心してパトカーの後について行きます。山林を通るハイウェイはどこまでもえんえんと続くようでした。そのうち道は広くなり、知らぬ間に車がとなりに並んでくるようになりました。そのうちにパトカーが天井の青や赤のランプを光らせて、「ウーウー」とサイレンを鳴らしだします。するとユニバーシティ通りの案内板のある交差点を通ろうとしてたたくさんの車が、交差点の手前でみなピタッと止まったのです。
「わああっ、どうなってんの」「なんかすごい」レミーもカミーユもバンの手前でピタッと止まった車を見て不思議がりました。パトカーはサイレンを鳴らしながらゆうゆうと赤信号の交差点を通り抜けます。救急車をまねたバンもパトカーの後に続いて交差点をを通り抜けました。
「いいぞ、いいぞ。よかった、よかった」ロダン工場長はぐうぐうと鼻をならす風に、歌を歌いました。パトカーはまた次のラスロップ通りの案内板の交差点でもサイレンを鳴らして左折しました。交差点の回りの車はピタッと止まり、ブルーデルもパトカーの後に続いてバンを走らせます。
「このままでいいのかな、お父さん」ブルーデルが心配そうに聞きました。
「ちょっと違うみたいだけどしかたない。どこか大きな街のようだが」ロダン工場長が地図と景色を何度も見くらべて言いました。道の両側には様々な大きな建物が並んでおり、建物の回りの広場にたくさんの車が停まっていて、すべての車にうっすらと雪も積もっていました。しばらく行くと、パトカーが右に曲がり小道へと入っていきます。ブルーデルも後を追い右に曲がりました。目の前に現れたのはとても大きい白い建物の病院でした。そこはフェアバンクスにあるメモリアル病院というところです。
「がああっ、とんでもないとこへ来たようだぞ。ここはなんなんだ」ロダン工場長があせって口にしました。
「お父さん、ここはほんとの病院だよ。前に、ほんものの救急車が止まってる」ブルーデルはどんどん先へいくパトカーについて行きました。パトカーが前の救急車に並んで止まると、ポリスは車から降りて病院の中へと入っていきました。ブルーデルもしかたなくパトカーの後ろで停まります。
「がああっ、困ったぞ、こんなことになるとは」ロダン工場長の鼻歌もすっかりしぼんで、元気のない小さな声になりました。すると病院からポリスといっしょに太っちょの女性看護士がやってきました。女性の看護士は白い半そでの制服に聴診器を首にかけ、なんだかわあわあ騒ぎ立てながらポリスにわめいていました。ところがポリスはくるりとパトカーの方に向かうと、ドアを開いて車に乗り込んでしまいました。そしてバンに乗っているヒグマたちに向かって親指を立ててにかっと笑みを見せてそのままもと来た道へと走り出していきました。
「あれれっ、お父さん。ポリスが行っちゃったよ。なんでかな」
「ぐううっ、よくわからん」ロダン工場長が首をかしげていると、女性の看護士がずかずかとバンの後ろへとやってまいりました。そしておもむろにバンのドアをいきなり開けたのです。そのドアの開く音に驚いてか、白熊の母親が寝ていた首をもたげて、後ろの方をのぞいて、ぎろっとにらみ付けたのでした。
「ぎゃあああああっ」太っちょの看護士さんは人間のものとは思えない叫び声をあげると、病院のロビーへと一目散に逃げ出しました。救急車の後ろに乗っていたのは、あのどう猛な白熊なのですから驚くのもしかたありません。レミーとカミーユは並んでにこっと笑顔を見せていましたが、すでに遅かったようです。
「ぐあっ、まずいぞ。早く逃げた方がよさそうだ」ロダン工場長は急いでバンを降りて、開けっぱなしの後ろのドアを閉めました。
「ブルーデル、速く車を出すんだ。大変なことになるぞ」ロダン工場長はそう言って助手席に座ると、ブルーデルを急かせました。
「わかったっ」ブルーデルも答えるやいなや、ぶるるるんと車のエンジンをうならせ、猛スピードで走りだします。後ろでは先ほどの看護士さんに呼び出されたのか、いくにんもの人間たちがどやどやとロビーから表れてきました。
「どっちに行けばいいの、お父さん」ブルーデルは来た道が分からず、やみくもに走ってるのです。
「ぐあっ、あれだ。前で走っているトレーラーについて行けばいいんだ」ロダン工場長はふと目の前を走る、丸くて長いタンクを二つも引いてる大きなトレーラを見つけて言いました。
「ええっ、なんで」
「なんでもいい。たぶんハイウェイに出るはずだ」ロダン工場長の言う通りにブルーデルはトレーラの後ろについて行きました。タンクを引いているトレーラは大きな交差点にでると右へ曲がります。ブルーデルもトレーラの影のように後を走りますので、交差点を簡単に通れました。
「お父さん、意外に運転が楽だけど、いいのかな」
「ぐううっ、わからん。ハイウェイにはでたようだが」道路の景色がさきほどパトカーについて走っていたハイウェイに似てるので、ロダン工場長が地図を見てもここがどこだか分からずじまいです。しばらくトレーラの後をついていくと、また大きな交差点の信号が赤でしたので、トレーラはゆっくり止まりました。信号が変わるとトレーラは左に曲がっていきます。ブルーデルもバンをトレーラの後ろにぴったりつけるようにして交差点を曲がります。そのままトレーラについて行くと、まわりの車がほとんどいなくなってしまいました。
「ブルーデル、どうやらこの道はブルドーベイへのハイウェイかもしれんよ」
「そうかな、そうだといいんだけどね。とにかく病院の人間たちからうまく逃げることができたよ」
「ぐおっ、ブールデル。あそこにスティーブハイウェイと書かれているぞ」ロダン工場長はトレーラがまた次の交差点を通り抜けた案内板を見つました。
「ほんとだ。お父さん、この道はブルドーベイに行くんだよ」ブルーデルが少し安心したようにでした。ハイウェイは道幅が狭くなり、トレーラとバンしか走っておりませんでした。空は明るいのですがお日様は真っ白な雲がかくしてるのか、林の影に隠れているのか見当たりません。
「父さん、あそこで車を停められそうだ。疲れたから一休みするよ」ブルーデルはそう言うと小道のようなパーキングに入り、車を止めました。
「ぐうう、わしもつかれた。今日はここで泊まることにしよう」ロダン工場長は車を降りると、大きく背伸びをしました。ブルーデルもバンを降りるて四つんばいになると、前足を大きく伸ばしました。運よく回りには1台の車もなく、遠くに白くて四角い建物がありましたが人間は見えませんでした。ロダン工場長はバンの後ろに回ってドアを開けました。
「今日はここで一晩過ごして、明日にはまた出発だ。夕食にでもするか」
「おじいちゃん、外に出ていい」レミーはそう言うと、転がるように飛び出しました。
「カミーユもおいでよ」レミーがカミーユに呼びかけました。パーキングの回りは一面雪景色でした。レミーは丸一日車の中にいたのがあきたのか、雪の上にでんぐり返しをして遊びだしました。カミーユは車の中からレミーをちらっと見るだけで、白熊の母親にぴったりよりそって離れようとしません。「カミーユ、遊ばないの」とレミーが話しかけてもカミーユは首をふるだけでした。レミーはカミーユのようすを見ると、少しうらやましく思いました。レミーは母親がレミーの赤ん坊の時に亡くなっているので、お母さんのぬくもりを知らないからです。
「ぐうう、レミー、夕食にしよう」ロダン工場長はサケの缶詰のフタを開けると、レミーとカミーユにわたしました。ロダン工場長とブルーデルはパーキングのはじの草わらに座ると、林の木に背をもたれさせて食事を始めました。レミーも二頭の間にもぐりこむように割って座わると、缶詰のサケをもぐもぐと食べはじめます。ロダンとブルーデルはレミーが急に二頭の間に入ってきたものですから、目を丸くして顔を見合わせました。カミーユはサケを落とさないよう手をそえて、白熊の母親の口元に運んで食べさせるのに一生懸命です。
「食事が終わったら、もう寝るんだよ」ロダン工場長がレミーに言います。
「えっ、やだっ。少し遊びたい」もうとっくに夕方がすぎてる時間ですが、外はまだ明るいのでまだまだ遊べそうです。
「ここは人間の土地だ、やつらに見つかり騒ぎが起こると大変なことになる。がまんしておくれ」ロダン工場長はレミーをなだめるように言うと、レミーを抱き上げ車に乗せました。ロダン工場長とブルーデルは運転席の方に座ると、そのうちにぐうぐうと寝入ってしまいました。
レミーはまだしらじらく明るい空を見つめてなかなか寝むられずにいました。しばらくしてレミーはそわそわしながらゆっくり白熊の母親の足もとへ行きました。レミーは白熊の母親の足元に静かに頭をもたせかけると、ほのかな母親のぬくもりに抱かれたようにすやすやと寝息を立て眠りました。
翌朝はお日様が明るく陽を照らす良い天気になり、朝の寒い空気がなごんでパーキング一面の白い雪を輝かせます。そのうち雪はしとしとと融けだし、地面の上を別れをおしむように流れていきます。
「ぐううっ、よく寝た。お日様がまぶしい。おはようブルーデル」ロダン工場長は大きく背伸びをして言いました。
「おはよう、父さん。よく寝てたよ」
「そうか、ブルーデル。さて、腹ごしらえをしてまた出発だな」ロダン工場長はさっそく車を降りて食事の用意をしました。熊たちは朝の食事をすませると、ブルーデルはすぐに車をはしらせて、ブルドーベイへと出発しました。ハイウェイの行く手には、一本の木もないホットケーキのようなはげ山が姿を見せました。道の両わきには低いスプルースの木々がさみしく並び、フェアバンクスのような建物もまったく見なくなりました。その日はアラスカのさいはてへ向かうのに、ハイウェイをひたすら走り続けました。途中にユーコン川と案内板のある、木で造られたような長い橋も渡りました。そのうち道路も、固い泥の道に見えるほど汚れていました。
山のすそにそって走る道を登ると、白い雪に包まれて切り立った山々が現われて、風がヒューとうなり山肌の雪を巻き上げていきました。レミーとカミーユは車の窓に顔をくっつけて山の腹でたなびく雪煙を眺めていました。その日は昼食も早々に終わらせて、ブルーデルはただひたすらに車を走らせました。
山の頂から「うおおおん、うおおおおん」とかん高い遠吠えが聞こえてきました。
「オオカミだよ」カミーユが騒ぎ立てました。
「工場長、オオカミがきたんだ」カミーユは心配をつのらせロダン工場長に言いました。
「があっ、あそこだ」ブルーデルが指さす方から、何頭かのオオカミが山の中腹から駆け下りてきました。そう見てる間にあとからあとから、たくさんのオオカミの群れが姿を表わして、山を下ってきました。オオカミたちは前に襲ってきたときよりさらに多い数で、道路へとむかってきます。
「どうしたらいいんだ。道をふさがれてしまうぞ」道路は山と山の間の谷あいを通ってるものですから、どこも逃げ道がありません。オオカミたちが道に群がってくると、とりわけ体の大きな三頭のオオカミが前に出てきました。三頭の焦げ茶色のオオカミは牙をむきだし、がるるるるとうなり声を上げ青い目でにらみ付けてきました。ブルーデルはあまりにもたくさんのオオカミたちに行く手をはばまれたので、仕方なく車を停めました。
「あいつら、いつも黒いオオカミといっしょにいたやつらだよ」カミーユが運転席の後ろに隠れて言いました。
「ぐうっ、あの黒いボスの姿がみえないな。前に襲ってきたときの倍のオオカミはいそうだ。これじゃ博士の秘密兵器がどこまで持つかわからないな」ブルーデルは困惑したようすでした。
「おいっ、白熊の子供をこっちによこすんだ。そうすりゃ何もせず通してやるさ」一頭のこげ茶色のオオカミがそう語りかけてきました。
「もし断るんなら、この大木をおみまいするぞ」別の焦げ茶色のオオカミがそう言い放つと、後ろ手のオオカミたちに合図をしました。すると何十頭ものオオカミが、一本の大きなスプルースの丸太ん棒をかついで出てきたのです。
「車ごと潰してやるぜ。お前たち、ようしゃしないからな」最後の焦げ茶色のおおかみがすごんで怒鳴ってきました。先のとんがった丸太ん棒を前につきだし身構えているのです。
「考えたな、オオカミども」ロダン工場長は何かうまく逃げる秘策はないかと頭をひねっていました。
「返事がないな。どうやら、痛い目に合いたいようだ。それっ、お前たち、一気にやっちまえ」最初のオオカミがそう吠えたてると、手下のオオカミたちが、「がるるるるっ」とうなり、腰を落とし身をすぼめてかまえました。
「それっ」二番目の焦げ茶色のオオカミの合図とともに、丸太をかついだオオカミたちがバンめがけて走りだします。
「ぐわっ、こっちにくるな」ブルーデルがあせって叫びます。オオカミらにかつがれた丸太が、どっしんと車に体当たりしてきたのです。車のバンパーがへこんでしまい、ずずっと後ろに下がりました。
「やばい、車がこわれそうだ」ブルーデルのつかんでいたハンドルがぶるるんとふるえたので、思わず口走りました。さらに二列目のオオカミたちが新しい丸太を抱えて用意していました。
「つぎっ、ぶちかませ」三番目の焦げ茶色のオオカミが怒鳴りました。二列目のオオカミらが丸太を抱えて車に突進してきます。どっしんと音を立て、丸太の体当たりで車は横倒しになってしまいました。
「ぐおっ、くそう。このままでは、らちがあかない。外に出て戦うぞ」ロダン工場長が息巻きました。
「だめだよお父さん。白熊の母親から離れたら、もう守れなくなる。奴らの思うつぼだ」ブルーデルがさとすように言います。またもや三列目のオオカミどもが丸太を抱えて並んできました。
「それっ、お前ら、最後のとどめをさすぞ。やっちまえ」最初のオオカミが大声を上げ合図しました。三列目のオオカミらがかけ声に合わせて、突進しようとしてきた時です。
ふいに山すそをおおっていた煙が、どんどん押しよせてきました。白く濃い霧がつぎつぎとバンにまとわりついてきて、おおいかくしてしまいました。バンめがけて突進したオオカミたちが、車がどこにあるのか分からなくなり、はたと止まってきょろきょろ探し始めました。
「なんだなんだこの霧は、なんにも見えやしないぞ」三番目のオオカミがあまりの濃い霧にとまどって、何度も目をしばたかせました。
「野をはうものたちよ」霧の奥から地鳴りに似た声がしてきたのです。
「おまえたちの行いをつぶさに見た。わたしはこの台地に宿る精霊。レオン王の祈りを聞いたのだ。さあ、白熊の母親の願いをかなえてあげよう」声が静まると、しだいに車をおおっていた白い霧がなにやらもくもく集まって、一つの灰色の大きなかたまりになってきました。その灰色の大きなかたまりが形をはっきりさせてくると、今度は長い鼻が表れて高々と持ち上げられたのです。
「ぷおおおおう」甲高い鳴き声とともにその大きな鼻が、丸太をかかえていたオオカミたちをどしんとなぎ倒しました。
「ぎゃいん」丸太をかかえていたオオカミたちに、とんでもない力でぶちあたって遠くに弾き飛ばされてしまったのです。
「なんだい、あれは」ブルーデルは初めて見る巨大な生き物に目を奪われました。
「あれはマンモスなのかもしれん。わしも話しか聞いたことはないが、たぶんそうだ」ロダン工場長がつぶやきました。
「あれ、マンモスなの」体中に毛をふさふさとさせた灰色の巨体を、レミーとカミーユはかたずを飲んで見つめました。
「ぷおおお」マンモスが雄叫びをあげるとドスンドスンと丸太ん棒のような太い足で、まずは焦げ茶色の三頭のオオカミらに突進しました。そして焦げ茶色のオオカミたちを長い鼻でどしんどしんとたたき飛ばしたのです。焦げ茶色のオオカミらは「きゃん」と哀れな声をあげ、次々と飛ばされてしまいました。そのあと、ほかのオオカミたちはもみな、マンモスは次々とにはじき飛ばされると、気を失ってそこらじゅうにのされてしまったのです。マンモスがすべてのオオカミをなぎ倒した後、ふわっと濃い霧にまた姿を変えてしまいました。そして車におおうようにまとわりついて、車をゆさゆさと揺らしはじめたのです。なんとなく車がふわりと浮いたように感じたかと思うと、車の中の熊たちは体がぐるんと回されて、もとどおりに椅子に座っておりました。するとそのうち霧は薄くなり、あたりが次第に見えてきました。
「ぐおおっ、海だ。ブルドーベイだ」ロダン工場長は目の前に広がる海に驚き、叫び声をあげました。
「いや、ブルドーベイではないよ。バローと云うところだ」声のする方を見ると、見上げるほどの大きなヘラジカが立っておりました。すくっと立ったりりしい姿は、普通のヘラジカと違うのが一目見て分かります。頭の上の広がる立派な角はひかひか輝いておりました。
バンは知らないうちに砂浜の上に停まっておりました。お日様は沈んで夕方をすぎたのですが、ほんのり海は明るく見えていました。深い紺色の海から静かに波が打ちよせられて、ざぶんざぶんと波音を立てていました。
「だれですか、あなたは」ブルーデルは車から降りると、大きなヘラジカに問いかけました。
「私の名はレオンだ。ジルダから事情を聞いてここへ来たのだよ」
「があっ、あなたがレオン王ですか。ジルダにはほんとに世話になっているんです。なぜここへ来たんです」
「ジルダの話から、白熊の親子をオオカミたちから守るには、あなたたちだけでは大変だろうと思ったのだ。それで冬を支配する精霊にとりなしの祈りをしたのだ。私は彼とはもう数千年の付き合いになるのだが、彼に祈ったのは初めてのことだ」
「おおう、レオン王ですか。初めてお目にかかる。わしはロダン。あなたの深いはからいに感謝します。助かりました」ロダン工場長は車から降りて、レオン王にお礼を言いました。
「ロダン。あなたにも敬意するよ。いつも森のために最善をつくしているからだ。ところで、白熊の母親の容態が悪くなってるようだ。時間がない。早く望みをかなえてあげた方がいい」
「ぐあっ、それはまずい。すぐに車から出してあげよう」ロダン工場長とブルーデルはさっそくバンの後ろドアを開けると、白熊が乗っているベッドを引き出し、ベッドの足を立てました。
「さあ、お前さん。立って歩けるかな。ここはブルドーベイではないがね」ロダン工場長は白熊の母親に語りかけました。
「大丈夫だよ。なんとか歩けるよ。それにあたしはここの生まれなんだ」白熊の母親はそう答えると、ベッドからゆっくり起き上がり砂浜に立ちました。
「お母さん、歩ける」カミーユが心配して白熊の母親の足もとにきました。
「ああ、戻ってこれたね、いつもの場所に。お前もよく見ておくんだよ。しばらく見れなくなるかもしれないからね」白熊の母親はカミーユにそう言うと、頭を左右に振り海の臭いをかいでから、砂浜をそっと歩き出しました。カミーユもなにかいつもの母親と違うのを感じて、離れずに後を追いました。浜辺に打ちよせる波のはしっこまでくると、白熊の母親は頭を下げて波のにおいをかぎました。
「なつかしい海のにおいだ。また帰ってきたんだ」白熊の母親は前足に打ち寄せる波に顔を近づけると、目を閉じ鼻をくんくんさせました。カミーユも母親の足もとで、小さい頭を波に近づけて、砂地に消える波をかぎました。
「カミーユ、お前はここで待ってておくれ」白熊の母親はカミーユの頭をやさしくなでると、後ろ足で立ち上がり、ゆっくり打ち寄せる波の中へと入っていきました。
「お母さん、どこまで行くの」カミーユは体の悪い母親を心配して聞きました。
「大丈夫だよ。すぐにもどるからね」白熊の母親はそう言い残すと、体を海に沈めて、四つ足で歩くように泳ぎ始めました。白熊の母親は急に立ち止まると、顔をしかめて「ぐおっ」とひと声吠えたのです。傷の痛みをこらえたのか、じっとがまんしているのでした。
「お前さん。無理するんじゃない。戻ってきなさい」ロダン工場長が白熊の母親に呼びかけます。ロダン工場長とブルーデルは波打ちぎわに走り寄ったのですが、初めての海におろおろするだけで、なにもできずにおりました。レミーは車から降りると、カミーユのそばへ走り寄りました。そしてカミーユにくっつくと海の中に立っている白熊の母親を心配して見つめました。ヘラジカのレオン王も静かに見守っておりました。
「これで歩ける氷があればほんとにいいんだけど」白熊の母親はそう口にすると、さっと滑るように海にもぐりました。しばらくすると、海の波間から顔を持ち上げます。暗がりの中で、白熊の母親の頭が遠くの暗い波間にぽつんと白い点のように浮かんで見えました。白熊の母親はカミーユに向かって話しかけます。
「カミーユ。ここでお母さんとおわかれだよ。これからはロダン工場長さんの言うことをちゃんと聞くんだよ。お母さんは自分のところに帰るからね、こっちにきちゃいけないよ」白熊の母親はカミーユにさとすよう話ました。
「お前さん。こっちへ戻ってきなさい。子供はどうするんだね」ロダン工場長は白熊の母親に呼びかけます。
白熊の母親は目を閉じると、うつむいてから深く考えこむようにして答えました。
「ロダン、今まで本当に世話になったね。でも、あたしはもう長くないことを知ってるんだよ。昔は今頃、氷の山がいくつもあって、アザラシもたくさんいたんだ。でも、今はどうだい。この海にはなにもなくなった。ここではもう食べ物が取れなくなった。
そして、あなた方の住むところであたしは生きてはいけない。だから生まれた地に帰ることにしたよ。もう行かなきゃ」白熊の母親が話し終わったとたんに、とても大きな波にざぶんと飲みこまれました。波が静まると、白熊の母親の姿が消えてしまったので、カミーユはあわてて母親をさがします。
「お母さん、どこいったの」カミーユは何度も母親を呼ぶと、海に入って追いかけようとしました。
「カミーユ、あぶないよ」レミーは両手でカミーユの腕をつかんで離しません。
海をいくら見続けても、白熊の母親はいっこうに姿を表わしませんでした。
「お母さん」カミーユは目に涙を浮かべて、暗く広がる波間を見つめました。
「こんなことになるとは」ブルーデルがそっとつぶやきました。
ロダン工場長も、ブルーデルも、ヘラジカのレオン王も、レミーも、そしてカミーユも、みな砂浜に立ちすくんだまま、じっと動かずに静かな時がすぎていきました。
「カミーユよ。お前の母親は遠いところへ旅立って、もう追えはしない。お前は母親の分も生きていくのだよ」ヘラジカのレオン王はカミーユにさとすよう語りかけました。
「今日はここで泊まるがいい。明日の朝、目覚めた時には、冬の精霊がデナリに戻してくれるだろう。オオカミたちにまた会うこともない。安心して寝るがいい。私はそろそろ戻るときがきた」レオン王は熊たちに話し終えると、暗がりの砂浜に体が透けるように薄くなっていきました。そしてかすみが消えるようにいなくなりました。
「さあ、カミーユ。食事をとって休むことにしよう。これからは、わしらといっしょだ」ロダン工場長はカミーユの肩に手をそえて言いました。カミーユは静かにうなづくと工場長の手に引かれて車に戻りました。ロダン工場長とブルーデルとレミーとカミーユは、いつも通りの缶詰で食事をとりました。みなお腹が空いてたのか、まぐまぐと平らげてしまいました。バローの砂浜に時おり強く打ちよせる波の音が、ざざざざああと長引いて車の近くまでくるのが聞こえます。食事後、レミーとカミーユはバンの後ろの席にいっしょに並んで、窓から海をながめていました。北極の海の上には、きらきとかがやく半月が出ていました。
「きれいだね」レミーが月を見て、うっとりしながら言いました。カミーユがうんと答えます。月の光が真っ黒な海の波間をひかひかと輝かきながら、バローの夜は静かに更けていきました。
熊の工場長 吾輩は猫 @papyrus16
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