14 空中戦 その3
二本の閃光が、吸魔の額や胸を直撃するのか。赤い光を追っていた勝利は、吸魔を圧倒するダブルワークの先制タイミングに息を飲んだ。
が、黒い炎の前に、突如青い炎が出現する。勝利が声を上げる間もなく、ビームはその青い炎に食い尽くされた。
特別力強い火勢でもないのに、獣の眼前に発生した炎はビーム攻撃を吸収しけろりとしている。ダブルワークの攻撃をする前と後で、何一つ変化していない。
それは、連続する攻撃すら全て飲み干して見せる、という敵の余裕と勝利には映った。
「あの青い炎には、そんな事ができるのか…」
昨夜遭遇した時にも、黒い獣からは所々に青い炎が発生してはちらついていた。何かに似ている気がして、思い出す。
硫黄炎のように澄んだ青が、夜の路地に浮かんでは消える。それは、冬に出現した幽霊の寒々しさに通じるものがある、と。涼感からは程遠い、更に研ぎ澄まされた死と凍結のイメージだ。
一見儚い炎によって、ダブルワークの先制攻撃を阻まれた事になる。
ライムはどうしているのかと、勝利は、前方の映像と隣にいる男の端正な横顔を早いテンポで幾度も見比べた。
伊達眼鏡をかけたライムに、これといった変化がない。一切の不満を覚えていないのだ。
協力者に見せる為に敢えて先制の機会を捨てたのか、と勝利はすぐに理解した。彼等の言う刺接点とやらを狙う為には、あの青い炎をどうにかしなければならない、という事なのだろう。
赤い閃光が空気を裂いて、またも二本直進する。今回も敵の巨体の額を狙ったが、青い炎に吸収されて消えた。
だが、吸魔は吸魔なりに、勝利達の乗る白い機体を脅威とは捉えたところがある。敵意を剥き出しにしつつも、露骨な威嚇を一瞬だけだが押し殺した。
敵が怯んだのか。当然、それを見逃さずに追跡者達は打って出る。
「接近戦に持ち込む!!」
勝利の耳に、攻め方を変えるとダブルワークの声が届いた。
「任せたぞ」と、ライムが前方を凝視する。「存分にやってくれ」
「おう!!」
昨夜勝利を襲った吸魔の映像が、急速に拡大投影される。白い機体が前進し、敵との距離を詰めているからだ。
黒い塊として映っていたものが、今や前方向の二割、三割と黒い部分を増やしてゆく。
「くっ…!!」
昨夜の記憶が蘇ってきた。勝利の胃が、腹部からの逃亡を図り悲鳴を上げながら捻れる。
その不快感を消し飛ばしたのは、機体側の急速な変化だった。
前方に突き出された左右の肘に、新緑色の両刃刀が出現する。両刃でありながら細身の真っ直ぐな刀身が、肘から手首の方向にその長さを増してゆくのだ。
延びも延びたり、切っ先までの長さが肘から指先までの倍以上になった時、軽い音が立って肘から離れた。
しかし、常に肘から一定の距離と角度を保ち続けている。その点が、肩から外れた涙型のパーツとは異なるところだ。見えない金具が刀身と肘を繋ぎ固定しているようでもある。
何故そのような必要が、と思う前に、拳を握る白い両手の映像で納得するものを得た。
射撃用の武器が既に左右に一つづつ展開しており、その上、腕の動きについてくる刀身が、同じく左右合計で一対。これだけ手の内を明かしながらも、機体は未だ両手を開けているのだ。
「へぇ~…」
不謹慎だが、勝利はつい面白くなった。ならば、ダブルワークの余裕にも合点がゆく。
単に場慣れしているだけではない。
間違いなく、彼等追跡者は深層に奥の手を隠している。それを使う程の衝突ではないとわかっているから、両手を空けているのだ。
コートの上から胃の辺りを撫でつつ、勝利は頬の肉が次第に緩んでいく自分に気づいてふっと息を吐いた。そうしなければ、ライム達の頼もしさ故に失笑してしまうと思ったからだ。
いける。
彼等は強い。きっと。
吸魔もそれを察したのだろう。右前足の先に五本の爪を煌めかせ、ダブルワークとの衝突に備える。纏っていたあの青い炎の一つが、鋭く長い爪として瞬時に長く延びた格好だ。
ダブルワークの左刀身が、敵の爪を外側に払う。
直後、別の青い炎が盾となるのも構わず、右足で炎獣の顔面を正面から蹴りつけた。盾も本体も、実体のない炎だというのに。
早い口調で、ダブルワークが喚く。
「誰がそのまま受けるかァ!?」
-- 「15 空中戦 その4」に続く --
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