第11話 攫われた者と攫った者
◯注意事項
・再びの舞台裏的なお話。今度は「対決、ダンタリアン」の時に攫われたヨーニャと、攫った当人であるダンタリアンの会話。
・セッション側では触れないところではあるけれど、ちょっぴり大切なメタ情報。
・何時も通り内輪ネタなので、興味が惹かれない人は戻るボタンをクリックすると良いのです。
◯登場人物
NPC
・ダンタリアン[ハイマン(?)・女]
PC
・ヨーニャ[バジリスクウィークリング・女]
〈バフィクの居城・隠し入り口〉[tb:昼]
ガラリ、と山肌に偽装された扉が開く。ふわふわと本のページを周囲に浮かばせながら、ダンタリアンはその中へと身を潜らせる。
ぎし、とワイヤーに縛り上げられたヨーニャが宙に浮かばせられながら扉をくぐると、ひとりでに扉は閉まる。
「……さて、転移を何度か繰り返したけど、気分はどうかしら、ヨーニャ?」
「正直、最悪ですダンタリアン様……。私、この後処刑ですよね?」
青褪めた顔で問いに答えた彼女に、ダンタリアンは笑顔で首を横に振る。
「いいえ、貴方はイルを呼び寄せるための餌であり、同時にこちらが本腰を入れたことを示すメッセージだもの。処刑はしないわ。……少なくとも今はね」
「っ……!? ウチが、センセイを呼び寄せる、餌?」
「そう、餌。アレだけ必死に助けようとしてたくらいなんだから、イルも仲間と一緒に貴方を助けに来るでしょう? 今のバフィクはその状況をこそ望んでる」
ニタリ、と口端を釣り上げて彼女はそう語り、一歩一歩居城の奥へと歩みを進める。かつてイルが逃亡する際に使った出入り口。
ミノタウロスの背丈では入れぬ小さな通り道を、ヨーニャを連れて進んでいく。
「ま、あの子がもしも話を聞こうとしなかった場合の保険も兼ねてるのよ。貴方には、真実を知ってもらう」
「真実……? どういうことですか?」
「それはバフィクから聞けば分かるわ。バフィクがイルに話せない状態にされたとしても、貴方からそれを伝えてもらう」
訳が分からない、と唯一動く首を振るヨーニャに、顔だけ振り向いてダンタリアンは言葉を続ける。
「あの時、イルを誘拐せずに貴方を狙ったのは、イルが逃げないようにするためなのよ。助けたいと思える相手が捕まってる状態なら、流石に逃げ出せないでしょ?」
「……なんで、そこまでしてセンセイに拘るんですか?」
「ふふ、それは後のお楽しみにしておきなさい。じきに分かるわ。じきに、ね……」
そう言うと、彼女は再び口を噤んで鼻歌交じりにヨーニャを連行する。
今は処刑されない、ということを知り、前を行く魔法の師に気づかれないようにそっと安堵の息を吐く。そして同時に、自分のせいで斥候の師であるイルが危険な敵地に飛び込まなければならないことに歯噛みする。
此処を放り出されてから、ようやく得た安息の地。行き場がないなら一緒に来ないかと誘ってくれた優しい仲間達。
そこから攫われ、独りでまた此処に連れてこられたことへの不安と恐怖を感じ、自分がどれだけ仲間たちに救われていたのかに気がつく。
「(……絶対、隙を見て逃げ出さないと。真実ってのを聞いたら、センセイ達が来る前に逃げ出して、どうにかして合流すれば……)」
「……ちなみに、逃げ出せると思わないほうが良いわよ? 貴方の斥候の腕を見くびるわけじゃないから、きっちり対応はさせてもらうわ」
つい、と顎を持ち上げられて、琥珀色の紋様に埋め尽くされた眼が覗きこんでくる。思わず息を呑んで、出掛かった悲鳴を押し殺す。
口元は笑みを描いているが、その眼は全く笑みを描いていない。背筋が凍るかと思うほどの恐怖が全身を貫く。
「ま、逃げ出そうだなんてしなければ、丁重に持て成してあげるわ。釣り餌は元気で居てもらわないと餌の意味が無いもの」
「わ、分かりました」
失敗した、と内心で後悔する。心でも読んでいるのか、というほど、この人は相手の考えを読み取ることが時々あることを失念していた。
迂闊な思考は自分の首を絞めるだけ。そう肝に銘じなおしていると、目の前を歩く背中がクスクスと笑い声を上げているのが聞こえた。
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