第9話 策謀の中で抗う者

◯注意事項

・今回の話はいわゆるセッション外での裏側を描くものです。

・別名、伏線補強回。セッション中に明かせそうにない情報とかの供養回ともいうけど。

・あんまりそういうのに興味ないよ、という人は迷わず戻るボタンをクリック推奨。


◯登場人物

NPC

・ビターヌ・ローンリア[人間・男]

・アリン[ハイマン・女]

・人里の盾隊員[大体人間・男]


PC

・今回は出演なし




〈ディバインコート・集会所〉[tb:夕]


日が傾き、空が赤に染まっていく。夜が来る前兆に、砦の窓から外を見ていたビターヌは険しい顔をする。

夜。それはアンデットの活動が活発化する時間帯。アンデットの巣窟であるソルトラ平原に面したこの砦も、その対応に人員を割かねばならない。

だが、今のこの砦は普段よりも兵の数が少なかった。辺境諸王国群より、各地で起きるバルバロスの活動に対処する人員要請があり、それに応じて部隊を分けて派遣しているためである。

「……魔動機達に夜間の巡回警備を任せるしかないか」

ため息を吐きつつ、仮眠のために横たわっていた椅子から、自分の剣と槍を取る。声を張り、部下に休憩指示と魔動機の起動準備指示を出す。

「お疲れ様です、隊長! もう仮眠から上がったので?」

「あぁ。全体指示を出せるのは私だけだからな……」

「……あまり無理はしないでくださいよ? 指示を出し終えたら、また休んでください」

「そうもいかんさ……。お前たちにも、冒険者殿達にも無理をさせているんだ、休んでいられん」

部下から心配されるが、苦笑を浮かべつつ休息を断る。

困った声を背に受けながら、ビターヌは魔動機の待機所へと足を向ける。



〈ディバインコート・魔動機待機所〉[tb:夕]


冒険者に依頼して集めてきてもらった魔動機を待機させている一角へと足を運んだビターヌの目に、白髪の少女の姿が入る。

「アリン殿、頼みがあるのだが……」

「……あ、ビターヌさん。……もう、起きたのですか?」

振り返った緑目が、心配そうに彼を見つめる。

心配いらない、と微笑んで見せるが、彼女の表情は変わらない。

「……まだ、仮眠を取り始めてから、一時間ほどしか経っていません。……此処数日、ずっとそうだったのですから、今日は私と魔動機達に任せてお休みください」

「いや、大丈夫だよ。私は軍人であって、これも仕事だからな。だが、君は積極的に協力してくれているが冒険者だ。起動と指示を出したら休みなさい」

「……ビターヌさんが、休まれるなら。……それなら、私も、休みます」

ぷぅ、と膨れっ面になるアリンに対し、ビターヌは困った表情になる。

「心配してくれるのは嬉しいのだがね……。ここで魔動機をマトモに扱えるのは君だけなんだぞ?」

「……ビターヌさんも、一番えらい人って意味では、換えが利きません。……それに、貴方が倒れたら、ジル様が帰ってきた時に悲しみます……」

ぐっ、と言葉に詰まった彼に、彼女は縋るような目を向ける。


少しの間の沈黙。

じっと視線を外さないアリンに、ビターヌはため息を吐く。

「はぁ……。分かった、どうせ休まないと言ったら魔動機への指示を出してくれないのだろう?」

「……ええ。……その時は、私も巡回警備班に勝手に加わらせてもらうつもりでした」

「大人しそうな顔して意外とアグレッシブだな君……。なら、二時間は巡回警備をして、その間異常がなければもう少し休む。それなら良いだろう?」

額に手をやって仕方がない、と首をふる彼に、ぱぁっと表情を綻ばせて彼女は首を縦に振る。

「……えぇ! ……できれば、巡回警備に付きあわせて貰っても、良いですか? ……ジル様もやっていたことに、興味が有るのです」

「断っても着いてくる気満々でよく言うな君……。あー、ジル兄さんの話が聞きたいなら、少しくらいは巡回中に話してやれるから、それでいいな?」

呆れ顔で肩を落とすビターヌがそう言うと、尻尾があれば全力で振っていそうな顔でアリンは頷いて返した。



〈ディバインコート・冒険者用宿舎〉[tb:夜]


「……♪」

何事も無く巡回を終え、約束通り休憩に向かったビターヌを見送ったアリンは、自分に割り振られた寝床に笑顔で横になる。

小さくうふふ、と言いつつコロコロ左右に転がる姿はどう見ても変態のそれだったが……その動きがふと止まる。

「ダウ・セヴティ・ニ・トカ。アネール・サイタラ・モートゥス――ヨーレンオルト」

小さく詠唱を呟き、手で紋を描いていた彼女の目がゆっくりと落ちる。

傍から見れば眠っているかのようにも見えるほどに、動きがなくなる。

その口元は、どこか心配気にすぼめられていた。

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