第8話 対決、ダンタリアン
◯注意事項
・今回はセッションの内容をSS化してます。リプレイとはまた違った構図。
・素直にリプレイにしてしまえと言ってしまえば楽な話でもある。
◯登場人物
NPC
・ケイゼン[夢魔・男]
・ダンタリアン[ハイマン(?)・女]
PC
・イル・イス・イウ [グラスランナー・男]
・クレリア[ドレイク・女]
・イングリット[ルーンフォーク・女]
・ヨーニャ[バジリスクウィークリング・女]
〈夢現の幻亭・店内〉[tb:昼]
昼も過ぎた頃。イル、クレリア、イングリットの3人は食事を取るために夢現の幻亭を訪れていた。外に広がる景色は変わらずの不可思議なもの。
先日の事件で左腕を失ったクレリアは、まだ感覚が慣れていないのか歩いては転び、起きて再び歩いては転び、と繰り返している。
「ちょっとちょっと、大丈夫なの? 腕無いとそんなにバランス狂うわけ?」
「ふにゅ(´・ω・) ありがとう、なのです(*'-')ノ」
幾度と転ぶクレリアを起こしながらそう言ったイングリットに、クレリアはしょんぼりとしながらも礼を口にする。その横を店の店員であるミーヌが駆け抜け、店にいる冒険者達から注文を集めていく。
集まった注文に従って厨房から次々と料理が出され、それをケイゼンも混じって次々と注文者の元へと並べていくのが見えた。
少し前に店の外に出て行った弟子であるヨーニャが、外で魔法の射出速度の違いを確かめているのを窓から見ながら、イルはまたバランスを崩したクレリアを支えに回る。
「ん、注文かなー?」
「ああ、お腹に入るものなら何でもいいわ。安いの持ってきて」
「くれりあも、お肉いがい、食べたいのです(*'-')ノ」
「はいはい、なら……ムショー、軽食作ってあげてー!」
イングリットからの注文を厨房に向けて叫ぶと、あいよぉ! という威勢のいい声が帰ってくる。それに頷くと、ケイゼンはクレリアの方を見やる。
「そっちはそっちで、腕がなくなって大変そうだね……」
「もげましたヽ( -`)」
「腕振ってバランス取るからねー……大丈夫かいクレリア?(*'▽'*;)」
「まほーは、使えるのですヽ( -`)」
心配気に声をかけてくる仲間たちに、クレリアは残った腕を上げて大丈夫だと答える。
「歩いてるだけでスッ転ぶぐらいなんだから、依頼なんて受けずに宿に居たほうがいいんじゃないの?」
「お宿に、ずっといるのは、嫌なのです(´・ω・)」
「魔法ねえ……まあ、動かなきゃ慣れないってのは解るけどさ」
イングリットの言葉に、クレリアは首を横に振って拒否する。置いて行かないで欲しい、という意思がそこにはあった。
それを見ながら、ケイゼンはううん、と唸る。
「……この店のあるこの亜空間に居る間だけなら、腕はどうにか出来ると思うけど」
「ここで、便利だと、お外に出た時に、大変なのです(*'-')」
「それもそうか。まぁ、腕が治ることを祈っておくよ……」
「そうだ、確か知り合いに魔動機の義手してる依頼人いなかった? アイツ予備持ってないのかしら」
「不思議な、街、話に聞いたのです。イングの、新しいバイク、見つけたところ?(*'-')」
「そうそう、あの義手便利よ。確か銃も付いてたし」
「銃Σ('ロ';)」
はたと思い出した相手に義手を貰えないのか、とイングリットが提案し、クレリアがどこの依頼人だったのかを答えているのを脇に、イルはケイゼンに声をかける。
「ちょっと持ち運べるように、幾つか料理を包んでくんない?(*'▽'*)」
「はいよー。ま、ムショーのことだし、多分握り飯でも出してくれるよ」
「ヨーニャに差し入れ? ちゃんと師匠してるのねー、ちょっと意外だわ」
それを見て意外そうに目を丸くしながらも、包んでもらった軽食を手にイングリットもイルの後ろをついていく。
2人に話しかけながら、クレリアもその後ろをついていき、3人は店の外へと出て行った。
彼らへ手を降って見送ると、ケイゼンは首を傾げる。
「……あぁ、目的は彼らなのね。目的の子たち“には”本格的な危害は加えないって言ってたけど。何するんだろあの人?」
そっと天井を見上げながら、彼はそう呟くのだった。
〈夢現の幻亭・擬似大地〉[tb:昼]
大地が見えず、夕暮れ色に染まった空のような光景が果てしなく広がる空間……亜空間。その中に浮かぶようにして存在する夢現の幻亭から、イル、イングリット、クレリアが出てくる。
こっそりとイルがヨーニャの背後に忍び寄って声をかける。
「よっ、頑張ってるねヨーニャ(*'▽'*)」
「あ、センセイ。それに、イングリットさんにクレリアさんも」
「お、やってるやってる。修行なんてよくやるわ」
「ヨーニャヽ( -`)」
マナでできた槍を投げたところでヨーニャが振り向く。その肩は短めの頻度で上下し、息も少し荒くなっている。
イングリットの言葉に、苦笑しながら彼女は短剣を鞘にしまう。
「まだまだ新入りだしね、ウチ。上手く合わせられるようにしなきゃいけないでしょ? だからこうやって修行してるのよ」
「新入りったって入ってきたのが遅いだけで、実力は変わらないと見てるけどね」
肩をすくめてそう答えたヨーニャに、イングリットはなんでそこまでするの? という顔でそう返す。
それをジーっと見ているクレリアの横で、イルが持ってきた軽食をヨーニャに見せる。
「腹減ってるだろ?(*'▽'*)」
「えぇ、ちょっとお腹減ってきたかなぁ、って思ってたけど……」
「飯食うのもすっぽかして頑張るのも良くないぜ(*'▽'*) 冒険者の稼業は短期決戦ばかりとは限らないからね(*'▽'*)」
「あぁ、もうお昼なの? 気づかなかった」
あら、と口元を抑える彼女に、イルとイングリットはやれやれと首をふる。その横で、急にクレリアが赤い剣の結晶をがじがじ齧り始める。
「……ところでクレリアさんは何やってるの?」
「ふにゅ?」
怪訝そうな顔になったヨーニャに対し、クレリアは首を傾げてみせる。
「そんなの食べたって生えないでしょ?」
「うんうん(*'-') 姉さまの、匂いがするのですヽ( -`)」
「お姉さんの?」
「そ、そう……」
いや、それで齧るのはおかしいだろう……と内心で突っ込みながら引き気味に顔を引きつらせるイングリットに、キョトンとした顔でクレリアに尋ね返すヨーニャ。
うんうん、と頷いてから、彼女は赤い剣の結晶をすすっと懐に仕舞う。
こほん、と気を取り直すように咳払いをして、イングリットが再び話し始める。
「まあ確かに、頑張り過ぎで、ここぞと言う時に集中力切れちゃおしまいだしね」
「長丁場のコンクラーベ……じゃない、根競べだってあるんだぜ(*'▽'*)」
「頑張りすぎは、駄目なのです。焦らなくても、いいのです(*'-')」
「そうね、ごめんなさい。ちょっと修行に集中しすぎちゃった」
三者三様の心配に、ヨーニャは眉尻を落として頭を下げて3人に謝る。分かってくれれば構わないと言うように、3人からくすっと苦笑が漏れる。
「ううん、まだバフィク様に従ってた時の癖が抜けてないわねぇ……」
困ったように頬をぽりぽり掻きつつ、彼女は自分の行動を反省する。
「てかさ、イルが師匠って。一体どういう修行してたの? 普段のイルから想像できないんだけど……」
「お尻の、修行、なのです?(*'-')?」>ヨーニャ
怪訝そうに尋ねるイングリットの横で、キョトンとしながらクレリアがそう言い、イングリットが噴き出す。
「クレリア、それ意味違ってくるから……」
「ふにゅ?(´・ω・)」
「ま、そんなになっても落ち込んでないみたいだし、クレリアはそれでいいのかもね」
本気で分からないとばかりに首を傾げるクレリアを見て、イルとヨーニャが顔を見合わせて苦笑しあう。
「……だって、ヨーニャはおっちょこちょいだから……(*'▽'*;)」
誰かが見てあげてないとどこでドジを踏むか分からないくらいだからねぇ、とのイルの言葉に、ガクッとヨーニャが姿勢を崩す。
「えっとね……」
「教えてた内容だけど、主に、おいらのスカウトの技術とかを教えてたんだよ……他はヨーニャの我流だろうけれど(*'▽'*)」
いつの間にか結構腕を上げたよなぁ、とイルは笑い、ヨーニャは照れた笑顔を浮かべる。
そんな会話をしていると、急にヨーニャのお腹に上の方から伸びてきたワイヤーが絡まる。突然のことに全員が一瞬唖然とした顔になる。
「ヨーニャ、ひも付き(*'-')??」
のんきな感想をクレリアが呟く間に、そのままぐいっとその体が持ち上がる。咄嗟に上を見上げると、そこにはいつか見た人影。
イングリットの脳裏に、ワイヤーアンカーという単語が浮かぶ。ヨーニャに絡まっているのは魔動機術のワイヤーアンカーのワイヤーそのものだった。
「くはっ!? な、なにこれ!?」
「た、大変だー!?Σ(*'▽'*;)」
驚いた様子で暴れるヨーニャと、慌てるイル。
「ダンリΣ('ロ';)」
「え、ダンリッ? いや、あいつ……」
上を見上げたクレリアとイングリットは、仲間の一人であるダンリの名を口走るが……すぐに違うということに気付く。
上に浮かぶその人影の服は、シンプルなドレスの構造。
「やっほー、ヨーニャ? ここなら安全だとでも思ってたのー?」
「え? その声……ダンタリアン様!? なんで此処に!?」
そしてヨーニャが口走った名は、ダンリの母の名。いつかイングリットが遭遇した、正体不明の魔法使い、ダンタリアン。
楽しげな笑顔と裏腹に、手に持つ本より伸ばされたワイヤーアンカーはちぎることを許さない程に剛健。
驚愕で身体の動かない面々の中で、唯一イルだけが、釣り上げられるヨーニャへと飛びつき、その魔法を破ろうとマナの形成を破るためにマナ不干渉の力を収束させる。それに数瞬遅れてクレリアも、自身の扱える魔法、テレキネシスでワイヤーアンカーに干渉を掛ける。
……だが、どちらもダンタリアンから注ぎ込まれる魔力によって弾かれ、効果を発揮しない。
「何アイツ、ダンリだけじゃなくてヨーニャまで狙ってた訳!?」
「イング、ダンリみたいな人、知っているのです?(*'-')?」
「いや、私も良くわかんないんだけど。どうもダンリの母親みたいなのよ」
「ダンリのママは、悪い人なのです?」
面識を持つイングリットが銃を抜くかワイヤーアンカーを撃ち返すかと逡巡しながらも、クレリアと言葉を交わす。
「ヨーニャー!? Σ(*'▽'*)」
「たぶんね! とりあえずヨーニャを放しなさいよ!」
「ヨーニャを、返すのですヽ(`Д´メ)」
イルの叫びに、彼女は魔動機術の腕比べを諦め、銃を抜いてダンタリアンへと向ける。これ以上の暴挙には銃撃を持って対処する、という意思を銃口にのせる。
口々にヨーニャを離せと言うが、ダンタリアンは酷薄な笑みを浮かべるのみ。銃口が向けられているのにもかかわらず、その余裕は崩れない。
「嫌よ、後輩が取り返そうとしてたのを手伝ってるだけなんだから、放すわけないじゃない?」
ぐい、とワイヤーアンカーが引かれ、ヨーニャが小さく苦悶の声を漏らす。
重力の存在しない空間を泳ぐようにして、クレリアとイングリットもワイヤーアンカーに取り付く。
クレリアは縋り付いて抗いながら、ダンタリアンに見えないようにヨーニャの服に真語魔法、マーキングを施す。……見下ろすダンタリアンの口元が、微かに釣り上がるのには気づかず。
「離すのです、悪い、ママダンリヽ(`Д´メ)」
「そうよ、何なのよアンタいきなりっ!」
「ママ、って……そう、あの子私のことを母親だって認めてくれてるんだ……?」
ワイヤーアンカーを解こうと2人が力を込めながらそう叫ぶと、ダンタリアンが意外そうな表情になり、ワイヤーに掛かる力が一瞬弱まった。
その隙を逃さず、捕まっているヨーニャと、解こうとする3人が力を合わせてワイヤーアンカーを力づくで解き、ヨーニャを解放する。
「……あら? 解かれちゃった」
「ヽ(`Д´メ)」
「ヨーニャ大丈夫!?」
「ヨーニャ、無事なのです?」
どうだ、と残っている片腕を振り上げるクレリア。
腹部を圧迫されていたために咳き込むヨーニャに、クレリアとイングリットは心配げに声をかける。
解かれたことに肩を竦めるダンタリアンだが、その表情には再びの余裕の色。
「なら仕方ないわね、こちらも数を出しましょうか。書架の鍵を開けてあげる……ドア・オブ・ブックランド」
彼女がそう呟くと、その周囲に無数の本が出現する!
「本? なにこれ」
「な、なんとかってきゃぁあ!?」
無数の本より、再び殺到するワイヤーアンカーの群れに襲われ、ヨーニャの四肢がワイヤーに絡め取られ、再度拘束される。
「なっ……!」
「Σ('ロ';)」
驚く2人と、咄嗟にヨーニャから離れ、ダンタリアンの死角となる位置へと移動したイル。そのまま、彼は大回りをするように空間を泳ぐ。
「(おいらの愛弟子を苛めようとするヤツは、タダじゃあおかねぇよ)(*'▽'*)」
怒りを胸に抱き、音もなく愛用の銀のメイスを引き抜く。
「ま、こっちは手が空くんだけど、ね?」
その耳に、ダンタリアンの声が聴こえ、一度動きを止める。ふと見ると、一冊の本がこちらを見るかのようにその身を向けていた。
見られている、と直感が警鐘を鳴らす。
残された2人のうち、クレリアはダンタリアンの周囲に出現した本を見て、あれは、と呟く。
「クレリア、アレ解るの!?」
「使い魔、みたいな、もので、悪いママダンリの、一部、なのです(*'-')」
「一部……どうみたって本だけど……それなら攻撃したら痛いのかしら」
ふふ、と嗤いながら、ダンタリアンはイングリットに向けて首を横にふる。攻撃されても、痛くはないと教えるかのように。
ちっ、と舌打ちをしつつイングリットは銃口をダンタリアンの左胸へと向ける。
見られている、という感覚に嫌な予感を感じつつも、イルは勢い良く空間を泳ぎ、手に持つメイスを、ダンタリアンへと叩きつける!
「ヨーニャを離せーッ」
「やーよ」
ヴン、とメイスを叩きつけられたダンタリアンの身体が弾け、少しズレた位置にその姿が再び映る。
真語魔法、ブリンクの分身。やられた、と思う間もなく、瞬時にメイスを翻し、二撃目をダンタリアンに叩き込む!
肉を打つ、確かな手応え。彼女の顔が一瞬歪む。
「警告はしたからね!」
そこにイングリットの弾丸が左胸……心臓のある位置を正確に射抜く! 射抜かれた弾痕から血を吹き出し……だが、“動く”。
「ヴェス・オルダ・ル・バン。シャイア・スルセア・ヒーティス――ヴォルハスタ!」
そこに叡智の腕輪が砕けるほどの魔力をつぎ込んだ、クレリアのエネルギージャベリンが突き刺さる! 一瞬解けかけたマナの槍が、鋭く再結集してダンタリアンの身体を貫き、消える。
誰の目から見ても致命傷。身体に大穴が空き、心臓を射抜かれ、血まみれになったその体。
だが……
「アイタタタ……危うく死ぬところだったじゃない!?」
それでも、ダンタリアンの目から光は消えず、その声に弱々しさも無い。
クレリアが威嚇するかのように唸るが、ダンタリアンは楽しげに笑うのみ。
「ヨーニャを離せば追わねぇよ(*'▽'*)」
「しぶとい……反撃来たらマズいわ」
くす、とダンタリアンは嗤い、胸元に手を当てて琥珀色の光を放つ。
それに加え、ダンリと同じような紋様を身体に発生させたかと思うと、その目が琥珀色へと染まっていく。背中にはコウモリのような羽根が生え、頭部には悪鬼のような角が伸びる。
「ザス・エレヴェント・ロ・オン。グラド・イーア・リナシタ・ラーファト――アルスメアグラニカ♪」
すると、みるみるうちに身体の傷が塞がり、かすかに傷跡が残るのみにまで回復していった。
クレリアは気付く。高位の操霊魔法のアースヒール2が使われたのだと。だが、それにしては傷の治りが尋常ではない速度。
そこから導き出される答えは一つ。トロールやアンデットなどが持つ、再生能力。
ワイヤーを伸ばす本達はヨーニャの身体をダンタリアンの方へと引っ張りこむ。先程よりも単独の力は弱くとも、数に押され、解くことが叶わないことにヨーニャは歯噛みする。
「(攻撃してこない……? どういうつもり?)」
「(さっさと諦めてくれると楽なんだけどねー?)」
「(諦めないのですヽ(`Д´メ))」
視線だけでやり取りを交わし、怪訝そうにイングリットはダンタリアンを見る。その目に殺意や敵意が無いことに、そこで気がつく。
イルはダンタリアンが先ほどと違って分身を出していないことに気づき、チャンスだ、とニヤリと笑う。
「アンタもドジっ子みたいだね? ……同じドジっ子のよしみでヨーニャを離してくんないかな? (*'▽'*)」
「別に、アンタの攻撃は確かに痛いけど……」
今度は分身に阻まれることもなく、喋っている最中のダンタリアンの傷口を確かに叩く。
「でも、私を倒すには遠いじゃないの?」
なんか痛いと思ったらそれ銀の武器? という顔で彼女はそう答える。事実、ダンタリアンはあまり応えた様子もなく、イルの攻撃を受けた勢いを利用し、その背後へと回りこんでいた。
「手加減してるなら今のうちに……ッ」
心臓を穿っても平然としているのをみて、イングリットはクイックローダーで銃に銀の弾丸を装填する。クルクルと回る対象の中心点を狙い、鋭き貫通弾は飛翔する。
ドスッ、と肉をえぐり取り、銀の弾丸は彼方へと消え去る。だが、体勢を立て直した目標を見て、急所を貫けなかったと彼女は歯噛みする。
……抉れたのは、頬の一部。それもすぐに再生で塞がっていく。
本体を狙っても通じない。そう判断してクレリアは魔法の詠唱を変更する。
起点はダンタリアン。そう定めて、真語魔法ファイアボールを詠唱する。ヨーニャを助けるのであれば、ワイヤーの根本を断ち切ればいいと割り切る。
「ヴェス・ジスト・ル・バン。フォレム・ハイヒルト・バズカ――フォーデルカ!」
爆炎がダンタリアンとその周囲の本を焼き、本がぱちぱちと音を上げて燃え尽きていく。
だが、最も炎に包まれていたはずのダンタリアンは、涼しげな顔で爆炎の中から出てくる。
「本が! ヨーニャ!?」
「本を焼いて防ぐとはねー。やるじゃないの」
「追わないからとっとと(・∀・)カエレ!!」
「帰るのですヽ(`Д´メ)」
「やーよ?」
「しつこいわね!(ケイゼンは気づいてないの?)」
ヨーニャが解放されたのを見て取り、関心したように楽しげに笑うダンタリアンに、イルとクレリアは叫び、イングリットは悪態をつく。
だが、バサリ、と羽根を羽ばたかせ、ダンタリアンは解放されたヨーニャの元に詰め寄り、小さな鍵を取り出す。
「書架の鍵を開けてあげる……ドア・オブ・ブックランド!」
「Σ(*'▽'*)」
「Σ('ロ';)」
空間が歪み、本が大量に飛び出していく。
先ほど焼け落ちたはずの本達が、視界を遮る量で展開していくのを見てイル達は呆然とする。その量、先の二倍。
「なによアレ! ふざけんじゃないわよ」
「ヽ(`Д´メ)ガルルルル」
ファイアボールでは焼き払えない数に、イングリットは目を剥き、クレリアは歯を剥く。
「この野郎、ヨーニャを置いてけぇぇぇぇぇっ! (*'▽'*)」
「さっきも言ったでしょ? やーよ」
だが、囲まれているのは明白。戦況は確実に、冒険者達の方に有利。
イルがくるりとクイックターンを決めて、疾風の如き速度で空間を泳ぎ、ダンタリアンの頭をメイスで打ち据える。
ぐらりとゆらぎ、血は吹き出すが、ダンタリアンの顔には笑み。
至近距離にまで近寄ってきた敵に、イングリットは素早く照準を付け直し、貫通弾を頭部目掛けて放つ。
ヘッドショット。眉間に穴が空きながらも、ヨーニャへと手を伸ばす。
「(はぁっ!? なんでまだ動けるのよ!?)」
死なない。手応えはある。出血もしている。傷も負っている。……だが、死なない。
アンデットであろうが、ここまで傷を負えば死ぬだろうという被弾であっても、傷が塞がり、まだ倒れない相手に、恐怖心が微かに首をもたげる。
「ザス・オルダ・ル・バン。バクラ・トキシラ・フォーシェイフ――アルシドラウト!!」
増えた本を除去すべく、クレリアが選んだ魔法は、操霊魔法、アシッドクラウド。酸の空気に包まれ、ダンタリアンの周囲の本が溶け始める。
だが、とうのダンタリアンは傷を塞ぎ、平然とした顔で紋を描いていた。
「(効いてないのです!? Σ(‘ロ’;))」
「まぁ、健闘お疲れ様、ってところかしらね」
魔道書からも、紋様が吐き出され、ダンタリアンとヨーニャと本の群れが魔法陣に包まれていく。
「……サブスペース・ジャンプ」
魔法陣から、イルが弾き出される。
「……えっ? (*'▽'*)」
やんわりと弾き出された体勢で、イルが呆然とした声を漏らす。
「ここまで来た時点で私の目的は達せられるのよ?」
「あわわわわ……」
情けない声を上げるヨーニャだが、その身体はびくともしていない。
「ダンリの、ばかーなのです・゜・(ノД`)・゜・。」
「ヨーニャ何ぼさっとしてるの! 逃げなさい!」
「この魔法陣のせいなのか、動けないのよ……!?」
力を込めても、魔法陣から逃れることができない。そのことに気づき、ヨーニャの表情が青褪めていく。転移先で抵抗したところで、皆がここまでやっても倒せなかった相手から逃げられるはずがない。そんな諦めが、表情に出ていた。
「この子を返して欲しければ、バフィクの居城まで来ることね! そこで待ってるわよ……バフィクがね!」
「よ〜にゃぁぁぁぁぁ!? Σ(*'▽'*)」
「ヨーニャ、助けに、行くのです・゜・(ノД`)・゜・。」
だが、イルとクレリアの言葉に、ヨーニャの表情に希望の色が微かに戻る。
「っく、センセイ! 居城の鍵のキーワード、最初がラーンに変わっ――」
「よ〜にゃぁぁぁ!! 必ず助けに行くから諦めるなよー!?」
慌ててそう言っている最中に転移が始まり、そこで言葉が途切れる。後に残されたのは、3人の冒険者達だけ。
消えていったヨーニャを見て、イングリットがダンッ、と地団駄を踏む。
「くそ! 一体なんなのよ」
「イング、ヨーニャが・゜・(ノД`)・゜・。」
「判ってる。……イル、アンタバフィクって野郎の居場所知ってるんじゃないの?」
「イル、知っているのです?(/−`)」
険しい表情と、泣き顔が一度にイルに向けられる。彼は少し迷いながらも首を縦に振る。
「……ただし、おいらが知ってるままだったらの話だけどね(*'▽'*) だから、どっかに拠点を移されたりしていたら、おいらもお手上げさ……(*'▽'*;)」
「ふにゅ……」
「何なのよアイツ、それにアンタも……。過去に何があった訳?」
詰問口調で詰め寄るイングリットに、いつになく真面目な顔でイルは尋ねる。
「イングは、おいらが言う事信じられるかい? (*'▽'*;) 信じられるなら話すよ? 冗談みたいな話だけどね? (*'▽'*)」
「なにがあったの……?」
「信じる、のです」
「クレリア、ありがと(*'▽'*)」
信じる、という仲間の言葉に彼は頷いて返す。
ふ、と目を閉じ、どこから話したものかとイルは思案する。
「お願いよ、訳の分からないまま巻き込まれるのはゴメンだわ。クレリアも知りたいでしょ?」
「うんうん(/−`)」
「ヨーニャがおいらの教え子だって話は何度かしたよね?」
「ええ、結構いい先生してたみたいね」
どこで先生をしてたのかはそういえば聞いてなかったわね、とイングリットは独りごちる。
それを見てイルは苦笑しながら話を続ける。
「おいらは昔、蛮族に捕まって……そこで物好きな首魁に気に入られて道化師まがいの事をやってたのさ……」
じっと、2人はイルの話に耳を傾ける。
「そんなある日、おいらは一人の女の子を教育するように命令されたのさ」
「命令……?」
「スカウトの、教育、なのです?」
2人の疑問に、あぁ、と頷く。
「……その女の子がヨーニャ。おいらのスカウトの技術を教え込んだんだ、真面目な子でね、おいらの他愛もない冗談も本気で信じる子だったよ」
そういえば、バフィクの部下が産んだ子で、殺されそうになったのをあいつが慌てて奪い取ったんだったっけ、と彼は呟く。
「で、月日は過ぎてね……」
「ええ」
「ある日……おいらやり過ぎちゃってさ。その蛮族の首魁にトンでもない赤っ恥をかかせてトンズラしちゃったのさ……」
「その赤っ恥かいた奴ってのがバフィクね」
「Σ('ロ';)」
その時にヨーニャも居たけど逃げきれなかったんだろうなぁ、とイルは内心で考え、苦虫を噛み潰した顔になる。
「……え、まさかそれが原因でアンタを恨んでるっての? 部下使って、ヨーニャまで攫って……?」
信じられない、と呟くイングリットに、たぶんね、とイルは答える。
「タイミングが最悪でなけりゃあ、せいぜい拳骨で済んでた程度には気に入られてたんだけどね? (*'▽'*;)」
「嘘でしょ……なんて器の小さい……」
「バフィクは、器が小さいって、姉さまも、言っていたのです」
「向こうにとって面子は死活問題だったからね……。部下に対して武力政治敷いてたから、面子丸潰れだと不味かったんだよ」
ポツリとつぶやいたクレリアに、イルは困った顔で付け加える。
思わず天を仰ぎ、イングリットは額に手を当てる。
「あ、アホ臭くなってきたわ……。でも、そうも言ってられないか……」
はぁ、とため息が漏らし、キッとした顔で仲間たちの方を彼女は見やる。
「ヨーニャを、助けに行かないと」
「バフィクは、うぃーくりんぐに、執着しているのです(´・ω・) だから、きっと、それでヨーニャも、連れ戻されたのです……」
クレリアの言葉に、イルは怪訝な顔をする。
「ヨーニャだけだよ、バフィクが連れてたウィークリングは」
その言葉に、クレリアも首を傾げる。
「姉さまが、言っていたのです(*'-') うぃーくりんぐを、狩り集めている、変な奴だって」
「良くわかんないけど、ヨーニャはお気に入りだったって事かしら」
2人の情報が食い違う中、イングリットは眉を顰めながら2人の言い分を頭のなかでまとめようと思考を巡らせる。
だが、どうしても矛盾は消えない。
「……とりあえず、ケイゼンの所にもどりましょ」
「うにゅ(´・ω・)」
気落ちしたまま、3人は夢現の幻亭の中へと戻る。
〈夢現の幻亭・店内〉[tb:昼]
室内に戻ると、どこか静かになった店内でケイゼンが食器を磨いていた。
「ちょっとケイゼン、ここの管理人でしょ? 侵入者に気づかなかったの!?」
「ヽ(`Д´メ)ガルルルル」
「え? 侵入者?」
その様子に、外の激戦に気づいていなかったのか、とイングリットは噛みつく。
「ダンタリアンっていうダンリと同じ顔したやつよ! ヨーニャがそいつに連れてかれたのよ!」
「うんうんヽ(`Д´メ)」
「気づかなかったのか、って、そりゃ気付いてたけどさ」
ケイゼンは何でもないように答える。思わず2人の声が荒くなり、ダンッとケイゼンの居るカウンターに拳を叩きつける。
「気づいてたの!? 何してたのよ」
「ヽ(`Д´メ)ガルガルガル」
「なんで救援を寄越さなかったんだよ!?」
返事次第ではただじゃ置かない、という剣幕に、どうどうと彼は手ぶりを見せる。
「基本的に、外で起きてることにはノータッチだよ私? 特に同郷同士の諍いに首は突っ込まないし」
「なっ」
ふざけないで、と言いかけたイングリットに、ケイゼンの眠たげな目が向けられる。
「それに……」
すぅっとその目が更に細められる。
「……君たち以外の冒険者に救援に行け、って言ってたら、確実に殺されてたよ、救援者が」
底冷えのする声。淡々と事実だけを伝えているのだと、聞く者に感じさせる、冷たい声音。
そんな声が出せたのか、と周囲の冒険者から怯えた声が漏れ出る。
「ふにゅぅ(/−`)」
「君たち相手だから攻撃はしてこなかっただけだよ、あの人。君たち相手じゃなかったら、ページを増やして絨毯爆撃でふっ飛ばされるだけだね」
「そんなの、分かんねーだろ? (*’▽’*;)」
「分かるさ。……死人を増やすわけにはいかなかった、ってのじゃ答えにならない?」
目を閉じ、肩を落とし、ケイゼンはそう言い放つ。
何時の時からラクシアと関わりを持っているのかが一切不明の夢の悪魔の言葉は、どこか虚ろに辺りを包み込む。
「(チッ、何者なのよこいつ……夢魔ってそういうものなの?)」
「……むにゅぅ」
「……夢魔がそういうものなんじゃなくて、夢魔は戦闘ができるタイプじゃないんだよ」
細目を開けたケイゼンの言葉に、イングリットは目を見開く。
言葉として出していなかったはずの考えを、確かに言い当てられた。
「心を読まれた、って顔してるねー。そういうのだったら大得意なのさ。迂闊な考えは普通に読み取るよ?」
そう口にする彼に、彼女はうぐっと言葉を詰まらせる。
「ケイゼンの言い分は、分かったのです・・・(/−`) そう言う、ことなら、仕方が、ないのです……」
しくしくと泣きながら、クレリアがうなだれたところに、ただまぁ、と声がする。
なんだ、と怪訝そうな顔をするイルの目の前で、ケイゼンは頬に手を当てて困った顔をしていた。
「誘拐されたのがうちの所属冒険者となると、困ったもんだね」
「困ったで済ませんなって……」
「……助けに行って、あの魔法使いに攻撃されないであろう対象は君たちのパーティだけなんだけど」
チラリ、と彼は3人を見やる。何か含みのある言い方をしつつ、まぁでも、と続ける。
「私に対して怒るのも無理は無いだろう。殴ったりしてくれても構わない」
「確かにそれは無理ね、あのダンタリアンってやつの強さ相当よ? 空間まで転移して……正直お手上げだわ」
どうしろってのよ、と態度で示すイングリットに、ケイゼンは頭を下げる。
「だけど、一つ依頼をしていいかな?」
「なに?」
「夢現の幻亭、所属冒険者ヨーニャの救出依頼をしたいんだ」
真剣な顔でそう言った彼に、3人の表情が引き締まる。
スッと、カウンターに手を突く。ケイゼンが白紙の依頼書を取り出す。
「やるぜ」
「……やるのですヽ(`Д´メ)ガルル」
「言われるまでもないわよ……ただ、手段はあるの?」
「さっきの会話は聞こえてたけど、バフィクってやつの居城に来いって話だろう? そこに乗り込んで、救出してもらう形になる」
さらさら、と依頼書を書きながらケイゼンは説明を続ける。
「……多分だけど、バフィクのほうが用事があるのであって、ヨーニャはそのための餌として連れて行かれたんだろう。殺されはしないはずだ」
「ぷんぷんなのですヽ(`Д´メ) ヨーニャを、連れ戻すのです」
「そうね、聞く所によるとお気に入りみたいだし……」
「餌、って……オイラを呼ぶための、か」
ギリィ、とイルが歯ぎしりし、クレリアとイングリットがそれを心配気に見つめる。
落ち着きなよ、と各自の前に水を置きつつ、ケイゼンは申し訳無さそうに話を更に続ける。
「問題は居城の位置だけど……それは調べるしか無いかな。こっちにはそこまでの情報はないんだ」
「あ、そっちでは掴めてないんだ? (*’▽’*)」
現状で可能性のある地に行けるのは自分だけという事に気づき、イルの心にとある囁きが響く。
――オイラが一人で向かえば、他の者を巻き込まずに済むのではないだろうか?――
無謀ではあるが、ヨーニャが餌というならば、釣り上げたい相手というのは自分だろうと見当をつけた彼は、どうするかと思案する。
イルが水を飲んで一息吐いているなか、クレリアは難しい顔をしてコップに入った水を見つめていた。
「……今、バフィクの下に、うぃーくりんぐが、一人も居なくて、ヨーニャだけ。助けるなら、早く、したほうが良いのです」
思い出すのは、姉ミレイユが伝えてきたバフィクの情報。記憶が正しければ、バフィクは多くのウィークリングを集めていたと聞いたはず。
だが、直ぐ側にいたはずのイルはそのことを全く知らない。姉が嘘をついた、とはクレリアには思えなかった。
「大勢いた、はずの、うぃーくりんぐが、どうなったかは、分からないのです。でも、居なくなったのです」
「それ気になってたんだけど、バフィク(バジリスク)ってのはウィークリングを集めていたんでしょ? それがなんでまたヨーニャしか居ないのよ」
そこに口を挟んだのはイングリットである。彼女は、イルの言葉ではなくクレリアの言葉の方を真実として彼女に尋ねる。
少し悩んでから、首を振ってクレリアは言葉を紡ぐ。
「きっと、何か、目的があって、集めていたのです(*'-')」
「目的、か」
「魔剣を持たないくれりあも、うぃーくりんぐも、バルバロスにとっては、いらない子。……目的も、ないまま、集める理由が、ないのです(´・ω・)」
「それかヨーニャだけは特別か……。何かあるのかしらねあの子」
ううん、と2人は顔を突き合わせて眉間にしわを寄せる。
それを聞いていたイルは首を傾げる。
「……そういえば、ヨーニャをバフィクが引き取った時、オイラに向かってしまったって顔してたんだよなぁ。何か関係有るのか?」
ポツリと呟いた言葉は誰の耳にも届かず、宙に消える。
その間にも、クレリアとイングリットの会話は続く。
「殺されないかも、知れない。でも、そのまま、無事だとは、思えないのです(/−`)」
「(例えば腕を切断するとかか……)」
クレリアの腕をチラリと見ながら、イングリットは顔をしかめる。
「……ふにゅ?」
「(蛮族ってのは……いや、今日日人間も同じか)」
不思議そうに首を傾げるクレリアの頭を撫でつつ、彼女は深くため息を吐く。
嫌な予想ばかりが頭を過ぎっては消える。
「ひとまず、君たちは居城の位置が分かるまでは休んでいてくれて構わないよ。
こっちの情報網に引っかかれば良いんだけど……」
「ええ、こっちでもできるだけ探ってみるわ。……さっきは悪かったわね」
「いや、こっちこそ何もできなくてごめんなさい、だよ」
気落ちした様子でため息を吐くケイゼンに、クレリアが声をかける。
「ケイゼン、落ち込まない、のです(*'-')」
「こういう時は、非戦闘員な身なのが悔しいねぇ」
そこまで話してから、はたと彼女はイルの方を見やる。
「ケイゼン、イルが、場所を、知っているのですヽ( -`)」
「え、そういえばさっき言いかけてた……そうなの?」
「あ、うん。……そうだね、今から言うよ(*’▽’*)」
クレリアの言葉にハッとして、イルはダグニア地方トラキア山脈、ダグニア連山の辺りに居城があったことを記憶の中から引き出し、その場にいる全員に伝える。
ダグニア地方と繋がっている転移陣のある、ディバインコートから向かえば、大体8日ほどで到着する距離。
クレリアのつけたマーキングも、地図で言えばそこに反応が移動していくのを、彼女は感じ取っていた。
それを聞き、ケイゼンは目を丸くして食い入るようにイルの方に顔を寄せる。
「……なんだって!? い、いや、でも好都合だ。正式な依頼として頼みたい」
「ばふぃくと、一緒に、いたことが、あるって、言っていたのですヽ( -`)」
「8年も前の話だけどね……」
それでも重要な情報だよ、と彼は言い、少し悩んでから依頼書に追記をしていく。
追記が終わると、バッと依頼書を3人に見えるように広げてみせる。
「一人頭8000ガメル、あと、前報酬で必要な消耗品を合計で10個か、弾丸とかの矢弾を48発分セットか、魔晶石は10点のものを2個……どれか選んで欲しい」
「イル、イング、受けるのです? くれりあは、もしも、誰も、行かなくても、往くのです(*'-')」
「安心して、クレリア一人で行かせる訳ないでしょ? 問題は敵が強いってことだけど……こっそり進入してこっそり出る、か」
「……あぁ。むしろ、手を貸してくれないかな、二人共?」
イルは頭を下げると、もちろん、との二人の声がその背中に掛かる。
それに帽子を目深に被ることで応じ、イルはケイゼンに向き直る。
「なぁ、その消耗品ってのは何があるんだ?」
「ん、ポーションとかの薬品類や、能力増強の指輪や腕輪類かな」
「消魔の守護石や、月光の魔符は入るかい?」
「そうだね、それも消耗品枠で渡そう。守護石は魔晶石とレートが同じだけど、良いかな? 魔符は通常の消耗品レート。これでどうだい?」
「OK、それで頼むよ」
真剣なイルの視線を受け、ケイゼンも眠たげな表情を引き締めて各種レートを次々に説明していく。
普段はおちゃらけていたり、ぼんやりしている2人の真面目な姿。それだけ、今回の依頼は重要視されていた。
一方その頃、クレリアがイングリットの裾を引いてしゃがむように促す。
何かしら、と彼女がしゃがみ込むと、よしよしとクレリアはその頭を撫でてから、再び服の裾を握りしめる。
「やっぱり、イングは、優しい子、なのですヽ( -`)」
「や、やさしい子って……。あそっか、クレリアの方が大分年上なのよね……」
イングリットの服の裾を掴んだまま笑顔を向ける彼女に、忘れかけていた実年齢を思い出してイングリットは苦笑を漏らす。
おおい、とケイゼンから声がかけられ、2人はそちらを見やる。
「ある程度レートを詰めたけど、消魔の守護石は魔晶石と同じレートで。魔符は通常レートで渡すよ。事前準備として何を渡せばいいかな?」
「え、いいの!? いやー、ケイゼン! アンタいいやつね!」
「んー、なら、消魔の、守護石の大きい、の一つと、月光の、魔符、5枚が欲しい、のです」
分かった、とクレリアの注文に頷き、前報酬の準備をしながら、ケイゼンはため息を吐く。
それは手のひら返しをしたイングリットへの呆れではなく、申し訳無さの色が乗ったため息。
「あんな魔法乱舞できる相手が居るであろう場所だからね……むしろこれだけしか出せなくてごめんなさいかも?」
「いざとなりゃ、オイラがある程度は無効化してやるさ(*’▽’*)」
「……わかってると思うけど、必ず全員、生きて帰るんだからね? それ以外は認めないよ」
ポンポンとイルの頭を撫で、ケイゼンは各自が欲しいと言った消耗品等を次々に用意していく。
……準備が進む中、カウンターの上で、消魔の守護石がキラリと輝きを返した。
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