第5話 老人と小さな子たち

◯注意事項

・今回は同じPLのキャラをお借りしてのある種の実験作です。そういえば、普段は共演しないはずの彼ら彼女らが出会ったとき、どういう会話が起きるのか?

・なお、自キャラを混ぜて事故率を下げに行ってます。うまく回ればいいのだけど。

・思い切り内輪ネタ。さて、あなたはそういうのがお好きですか?


◯登場人物

NPC

今回はなし


PC

・イル・イス・イウ

・ゾバルゲノフ・キルシュバオム

・ヨーニャ



〈どこかの町中〉[tb:朝]


冒険者稼業というものは、朝早くから依頼を受けられるということも多い。それは冒険者に回される人々の依頼が多い、という証拠でもあるが……。

「ほーら、こっちよにゃんにゃーん。怖くないわよー」

どこからか仕入れてきたらしい、ミルクを入れた皿を地面に置き、視線の先に居る猫に向かって青髪の少女――ヨーニャが笑顔で手招きをする。

迷子になったうちの猫を探してほしい……依頼内容は、良くある駆け出し向けの困りごとだ。偶然依頼人が頼みに来たところに居合わせた彼女は、特徴などを聞いてすぐに町に繰り出したのである。

いつもの気を張っているような声とは異なる、猫なで声。いつもの凛とした表情を崩した、満面の笑み。それらは周囲に誰も居ないことを確認してから、彼女が見せたもう一つの顔。


「……あ、もしかしてウチがいると飲みにくいのにゃんにゃん? ならちょっと離れるわね?」

寄ってくる気配のない猫の様子に、少し困ったような色を表情に乗せてヨーニャは少し離れる。それを猫は不思議そうに眺め、しゃなりしゃなりとミルク皿へと近寄っていく。

少し離れた位置で彼女が眺めている中で、喉が渇いていたのか猫はチロチロとミルクを舐め呑み始める。しばらくそうして舐め呑んでから、皿が空になったのと同時にヨーニャへと猫は歩み寄る。

なぁご、と鳴き声一つ。しゃがんでいる彼女の肩に飛び乗ると、目を細めて猫は体を伸ばす。驚かせないようにヨーニャは立ち上がり、皿を回収して店へとゆっくり歩を進めるのだった。



〈冒険者の店・店内〉[tb:朝→昼]


猫を飼い主に送り届け、依頼の完了報告を済ませた彼女は、いつもの様子で卵スープを飲む。暖かいスープが身体の中からじんわりと身体を温める。

小さく息をつくヨーニャのところに、1人の老人が歩み寄る。

「おぉ、美味そうなものを飲んでおるのぉ」

「あ、ゾバルさん。おはよう……というよりこんにちは、かしらね?」

「うむ、こんにちはヨーニャ。なんだか機嫌が良さそうじゃが、いいことでもあったのかい?」

ふぉっふぉ、と豊かな髭を揺らして老人――ゾバルゲノフは楽しげに笑う。御年150歳となるドワーフの老人からすれば、ヨーニャのような少女は孫か曾孫のようにさえ見えるのだ。

とっさに頬を両手で押さえて、顔に出てた? と彼女は目で尋ねる。それに対し、やんわりと首を横にふる。

「顔、というよりも雰囲気じゃのぅ。なんとなくじゃが、柔らかな雰囲気をしとったから、機嫌が良さそうじゃと思ったんじゃ」

「雰囲気ねぇ……。そんなに分かりやすいのかしらウチ?」

「お主は素直な子のようじゃからのぉ。こういったものを感じ取るのは、年の功というやつじゃよ」

そうなの、と言ってクスっとヨーニャは笑う。老齢の者が持つふしぎな感性というのは、なかなかに侮れない鋭さを持つのだなと彼女は内心舌を巻く。

何かあったのか、とまではゾバルゲノフは尋ねない。楽しげにヨーニャを見て、ふぉっふぉと笑うだけである。

「あのね、実は――」

「にゃんにゃんこと、猫探しをしてきて機嫌がいいんだよなー(*’▽’*)」

「――っ!?」


びくぅ、と彼女の身体が硬直する。その背後には、いつの間にか小さな少年――イルが佇んでいた。

「ほぉ、猫探しとな」

「そうだぜー(*’▽’*) やー、ヨーニャの口からにゃんにゃんなんて言葉が出るなんてなぁ。オイラびっくりしちゃったよ(*’▽’*)」

「な、な、な……」

ぎぎぎ、という音が聞こえそうな様子でヨーニャが振り向くと、ニマニマ笑っている彼の姿が目に入る。

「せ、センセイ。一体、どこから、見てたの?」

「え? ヨーニャが此処で依頼を引き受ける辺りから。面白そうだったからこっそり後をつけてたんだぜ? (*’▽’*)」

「お主は相変わらずじゃのぉ、イル。少々趣味が悪いと言わざるをえんぞ?」

それ最初からじゃないのー!? と声にならない悲鳴を上げる彼女を脇に、咎めるようにゾバルがイルに対して呆れた声をかける。

へへん、とどこか得意気にしながら、イルはヨーニャの隣の席にぴょんと座る。

「周辺警戒が若干甘かったなヨーニャ! 猫に釣られて気が散ってたかー? (*’▽’*)」

「追い打ちを掛けてやるでない。……まぁ、事情は分かったがのぉ」

「なんだよー。猫にデレッデレになってるところに七年殺しかますのは自重したんだぜ? (*’▽’*)」

「やめてよね!?」

抗議の声が上がるなか、彼はゾバルゲノフの分までの食事と飲み物の注文を、手早くウェイターに伝える。

「む? まだ儂はメニューを見てなかったんじゃが……」

「どーせいつも通りの注文になるんだから、先に注文しておいたぜー(*’▽’*)」

「悩む時間も楽しいんじゃがなぁ……」


若干不満気な声を上げつつ、しょうがないのぉ、とゾバルゲノフは溜息をつく。あくまで善意でやっている、ということは既に見抜いていた。だが、若干迷惑に感じるところが無いわけではない。

とはいえ、止める間もなく、止められるほど反応がついていけるわけでもない。不満に思えども、この若人に対して苦言を漏らしてもどこ吹く風になり得る。有り体に言えば、若干だが空気を読まずに動く嫌いが彼にはあるのだと、冒険者仲間となってからの日々で気が付いていた。

そしてそれは、小さな子どもが回りを見ないで行動するような、子どもらしい行動でもある。直せと言って直るものでもない。年齢を重ねてゆっくりと身につけていくようなものである。

「……あー。ねぇ、ゾバルさん」

「ん、なんじゃヨーニャ?」

内心の不満に蓋をしようとしたところで、ヨーニャが声をかけてくる。何の用事かとそちらの方に目を向ける。

「その、ね? 追加注文しようかなって思うんだけど、どれにするか迷っちゃって。相談に乗ってくれないかしら?」

ダメかしら? と首を傾げてくる彼女を見て、その意図を察する。

「ふぉっふぉ……良かろ、どれ、メニューを見せてくれるかの?」

……追加注文というのは口実。メニューを見て悩む時間を取れなかったのを気にして、その機会を作ってくれただけ。

「お、なになにー? ヨーニャまだ食べられんの? (*’▽’*)」

こっそりフォローされているのを知ってか知らずか、首を突っ込んでくるイルの頭をポンポンと優しく撫で、さて何を頼むのを勧めるかのぉ、と頭を悩ませる。

なんだか楽しく思えてきて、自然と口元には笑みが浮かんでいた。

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