第5話 ブランコ。

 犬の散歩で、小学校のグラウンドに行くことがあります。そのグラウンドには、端のほうに遊具が設置してあり、ブランコもあります。ブランコは人気で、昼間や放課後には、よく小学生が遊んでいます。

 そんな、ブランコのある小学校のグラウンドに、犬の散歩で行ったときのことです。季節は冬。時間は夕方ですが、冬なので夜のように暗いです。北陸ですが、雪は積もっていませんでした。

 私は、小学校の体育館の近くの、人の出入りができるとこから、小学校に入りました。私の右側が体育館で、私が立っている道があり、その左側にプールがあり、そのプールの横にグラウンドが広がっています。

 グラウンドの遊具は、私の居る場所の反対側、つまり向こう側です。そして、遊具が設置してある場所の近くに、外に出ることのできる出入り口があります。

 私は、その出入り口に行くため、グラウンドに入りました。向こう側までは、かなり距離があります。体育館の近くには、街灯がありますが、グラウンドにはありません。

 グラウンドには、実は照明があり、ナイターで野球もできるのですが、電気代がかかるからでしょう。いつもは、照明は消してあります。冬場の夕方なので、もう夜と言ってもいいでしょう。

 私は、犬といっしょにグラウンドに入りました。体育館の近くに街灯があるとはいえ、光はグラウンドまでは、ほとんど届かず真っ暗闇です。遊具の辺りは、さらに闇に包まれて、私の場所からは見えません。

 その遊具の方へと、私は進みます。するとやがて、ブランコを漕ぐ、ギーコギーコという音が聞こえ始めました。しかし、風など吹いていません。風も無いのに、ブランコが勝手に動くはずがありません。

 さらに進むと、女の子たちのはしゃぐ声が、かすかに聞こえてきました。やはり、ブランコが勝手に動くはずなどなく、女の子たちがブランコを漕いでいるのです。声からすると、まだ幼い女の子たちのようです。

 ただ、季節は冬です。北陸の冬なので、そうとう寒いです。その上、日が落ちているので、さらに寒くて、凍えるようです。

 いくら子供が元気だからとはいえ、こんな寒さの中で、なにもブランコなどしなくても、と思いました。それに、真っ暗闇なのです。親は、日が暮れたら、早く家に帰れとは言わないのでしょうか?

 私は、どんどんグラウンドを進みます。でもまだ、ブランコは見えてきません。ブランコの音は、相変わらずギーコギーコと鳴り、女の子たちのはしゃぐ声は、ますます大きくなりました。

 私は、ブランコの方へと歩いているので、ブランコの音と女の子たちの声が大きくなるのは、当たり前です。真っ暗闇なので、まだブランコは見えません。

 女の子たちは楽しそうにはしゃぎながら、ブランコをギーコギーコと漕いでいます。私は、やっとブランコの近くまで来ました。

 すると、女の子たちのはしゃぐ声も、ブランコのギーコギーコという音も、かき消えました。私が近づいて来たのに気づき、おとなしくなったのでしょうか?

 いいえ、違います。ブランコの向こうの、かなり離れた所にある街灯の光が、かすかに届いて、真っ暗闇とはいえ、ブランコがうっすら見えました。

 そこには、女の子たちなどいませんでした。ついさっきまで、女の子たちの声が聞こえていたのに、一瞬で消えたのです。

 女の子たちが、ブランコを離れて外に出たなら、さすがに、すぐ近くまで来ていた私ですから、気配でわかります。足音もするでしょう。

 それに、出入り口はブランコから離れた場所なので、グラウンドから出るにしても、まだそこら辺を歩いているはずです。それなのに、人の気配はしません。

 ただ、ブランコだけが、静かにたっているだけです。私が聞いた、女の子たちの声は、なんだったのでしょう? 本当に、女の子たちは、ブランコで遊んでいたのでしょうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る