体験実話・私の怪談。

大宮一閃

第4話 招く木。

 京都での話は前回までで、今回からは、実家のある北陸地方の小都市での話にします。

 犬の散歩で夕方に、よく墓地の横の坂道を歩きます。ふと見上げると、墓地の方に木が3本立っています。

 墓地は、山の斜面にあるので、他にも木はたくさんあるのですが、3本の木に目が行きました。3本、並んで立っています。まるで兄弟のような、同じような高さ、同じような大きさの枝の木です。

 そのうちの、真ん中の木の枝が、まるで「おいでおいで」をするように、しなっています。風など吹いていません。しかし、高い木ですから、きっと上空には風が吹いていて、それで枝が、しなっているのでしょう。

 でも、おかしいのです。上空に風が吹いているのなら、なぜ真ん中の木の枝だけが、しなるのでしょう?

 3本の木は、まるで兄弟のように、同じような高さ、同じような大きさの枝です。風で枝が、しなるなら、両側の木の枝も、しなるのではないでしょうか?

 なぜか、真ん中の木の枝だけが、あたかも私を招くように、「おいでおいで」をするように、しなっています。

 犬も、私といっしょになって、散歩も忘れて、墓地のほうを見たまま、立ち止まってます。

 季節は秋。つるべ落としと言われるように、すぐに日が暮れます。その招く木に見とれて立ち止まっているうちに、あっという間に辺りは夕闇に包まれました。街灯も、離れた所に1つあるだけ。

 日暮れにより、木は見えなくなりましたが、もし、あの木が私を招いていたとしたら、夜の墓地の横に、いつまでも居るのは不安です。

 私は、あまり頼りにならない犬を引きずって、早足で墓地から遠ざかりました。なぜ真ん中の木だけが、「おいでおいで」をしていたのでしょう?

 

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