Friend time

毎朝、遊具の上で目を細めながら、朝日を見ていた。後から聞いた話によると、まぶたの隙間から見えるひかりの柱を見ていた。彼はそんなことが好きだった。

わたしはそんな彼を、校舎の3階の窓際席から眺めるのが好きだった。

今日はそんな彼に近づいてみようと思う。


「毎晩、悪夢を見るんだ。それも普通の悪夢じゃなくて、いつも誰かが死ぬ。僕らもいずれ死ぬのかな」


急になんてこと言い出すんだこの人は。


「寿命が来たらね」

「いやだ。死にたくない」

「でも、ずっと先のことじゃない?」

「未来のこともわからないのに?」


わたしはそこで考え込んでしまった。

未来のことを考えたらキリがない。でもそれは、夢であるパテシエになっていたり、お嫁にいったり、楽しい未来だ。

彼にはどのような未来が映っているのだろう?


「問題です」


彼がまた変なことを言い始めた。


「世界中の人に平等に与えられているものは?」


なんだろう…と、わたしは考えてみる。


「命かな」

「それも正解」

「他には?」

「…僕は時間だと思う」


たしかに…と、わたしは納得してみる。

お日様に手を伸ばしながら彼が言う。


「この手が太陽に届けばいいのに」

「火傷しちゃうよ」

「え?」

「だから、火傷しちゃうって。届かないくらいがちょうどいいよ」

「変わった人だなぁ」


それはこっちのセリフである。


この日を境に、そんな風に彼と話すことが多くなった。

ある時、街の上の小さな山から彼と竹とんぼを飛ばすことになった。

彼は鳥のかたちをしたのを飛ばしたが、最後に強風に吹かれて物干し竿に引っかかってしまった。

わたしは胸のあたりがうずうずしながら彼に言った。


「…まだここにいようよ」

「大丈夫だよ。友達だから」


すべての人に平等な時間をはんぶんこして、私達は友達でいることを約束した。


「とってきてあげるから、わたしの竹とんぼ持ってて」



わたしが山に戻ったときに彼の姿は何処にも見当たらなかった。

教室に帰ると、ドアを開けた瞬間白い粉のようなものが目の前を舞った。黒板消しだ。笑い声も聞こえる。

あぁ、そっか。

今までのことは夢だったのか。

ありもしない想像をして、日常から目を逸らしていたんだ。

席について1時間目の用意をする。

引き出しを開けると、くねくねと体を歪ませている芋虫が2,3匹いた。わたしは思わず声を上げそうになった。

ひとまず落ち着こうと水筒を取り出し、カラカラになった喉をお茶で潤そうとした。


「うぇぇっ…」


泥だ。泥が入ってた。

周りではくすくすと笑う女の子たちと見て見ぬ振りをして通すクラスメイト。先生はまだ来ない。先生も知っているはずなのに、助けてくれない。


「きゃあ!」


限界だった。

わたしは水筒の中身をその意地悪そうな女の子の憎たらしい顔にかけてやった。

何すんのよ、と言わんばかりで睨みつける女の子。一斉に周りからも非難の声が上がる。

その光景をわたしは呆然と立ち尽くすしかなかった。と、足早に教室のドアが開く音がした。

担任の先生だった。


「みんなどうした、席に座れー」


女の子たちは、大丈夫?とリーダー格であろうその子を慰めながらそれぞれの席へ散っていった。わたしも慌てて席に着いた。


「今日はみんなに新しいお友達を紹介します」


先生に、入って、と言われて教壇に立った生徒がひとり。

彼だった。

わたしと彼はお互いの竹とんぼを見せ合い、しばらくの間笑った。周囲が怪訝に顔をしかめてきても、気にしなかった。

私達の声は教室の外の廊下にも反響し、となりのクラスにまで聞こえていたと思う。



おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る