第9話 【伝統の恋】  エピソード8

54. 愁の家 ののみの部屋(日替わり) 夜 9月 高2

   訪問してきたののみの姉、ねねん(22)と話すののみ。

ねねん「びっくりだょ、ののみの行動力には、親公認の家出して、

   同棲って!」

ののみ「同棲・・じゃないけど・・・」

ねねん「同棲だよ、立派な!」

   部屋を見渡して愁の石を見つける。

ねねん「相変わらず、変な石、持ってきてるんだ!ねぇ、愁君」

   愁の石を撫でる。

ねねん「私、好きな人に会ったんだ!だけど好きって言われな

   かった・・・別れるときキスしたの、お互い好きって

   わかったけど」

   天井を見上げるみみん。

ねねん「言ったら・・、生活換えなきゃいけなくなる。それが恐く

   て、泣きながら別れてきたんだ!」

   鼻をすするののみ、両目の下を指で撫でる、涙のポーズ。

ねねん「ののみは凄いね!好きって素直に言ってさ!その位パワー

   出さなきゃ恋なんて、できないもんね」

   スマホを握りしめるねねん。

ののみの声「好きって・・・言ってないかも・・・」

ねねん「連絡ならいくらでもつくけど、やっぱ会わなきゃね!」

   手を取り合う二人。

ねねん「すれ違えない恋なんだって気づいたよ、私これから行って 

   告白する!」

   ののみ姉の決意表明に、涙が止まらないののみ。

   ティッシュペーパーを引き抜き、鼻をかむののみ。


55. 同 廊下 

   ののみと「彼女五箇条」を見るみみん。

ねねん「五箇条じゃ足りないよ」

ののみ「もっと・・・?」


56. 同愁の部屋(夜) 9月 高2

   何かと理由をつけて、愁の部屋に出入りするののみ。

ののみ「愁君、お菓子たべよう」

    XXX

ののみ「この英語訳せる、ねぇ教えて」

    XXX

ののみ「参考書貸して」

    XXX

愁  「出たり入ったりされると落ち着かないんだよ、もうここに

   居ろ!(座布団を叩く)」

ののみ「居てやるよ(座布団に座る)」

愁  「いいか、大人しくしてろよ!動くなょ!石になれ!」

   石のようにうごかず、愁の顔を見つめるののみ。

   同じように(あきれ顔で)ののみの顔を見つめる愁。

愁  「あっまばたきした!、俺の勝ち(笑)」

ののみ「(深呼吸をする!)・・・まばたきと呼吸はするょ」

    XXX

   ラジオ放送 聞こえるのは、英語のバラード。

   ラジオをテーブルに置く愁。

   聞き入る二人。

    XXX

   ののみの耳たぶを引っ張る愁。

ののみ「(はぁ)」

愁  「今の歌詞、訳してみて、簡単だろ」

ののみ「・・・いあぃ、私は・・(歌い気味)私が会いたい

   人・・・」


57. 高校グラウンド 後日 サッカー場 9月 高2

   眩しい日差しの中、練習するサッカー選手たち。

   ベンチの側。

   筒居コーチの視線に気づくののみ、ジャージ(背中にののみ

   のマーク入り)姿。

ののみ「鬼コーチ、またセクハラ!、今日こそ言いつけてやる」

    XXX

   愁にタオルを渡しながら、耳打ちするののみ。

   筒居のところにダッシュで行く愁。

愁  「コーチ」

筒居 「なぁ、なんだ」

愁  「コーチも呪文をかけられました?」

筒居 「どっかに魔女でも?」

   ののみを見る愁。

   玲奈の陰に隠れているののみ。

筒居 「メインな方?、サブの方?」

愁  「サブの方です」

筒居 「彼女を見ていたと言うより、彼女のお姉さんを思い出して

   た」

愁  「ののみのお姉さん?」

   筒居、愁の腕を引き、グラウンドの隅まで行く筒居。

筒居 「実は・・・」

    XXX

   フラッシュ 回想 公園 前日の夜

   筒居に詰め寄るねねん。

ねねん「キスしたよね、あれは何だったの?」

筒居 「弾みって言うか、ノスタルジーって言うか」

ねねん「わかるように言ってよ、卒業する時もそうだった、都会に

   行く私を止めなかったでしょ」

    XXX

筒居 「というわけで、ののみの姉さんに迫られてね・・・」

愁  「コーチと、ののみのお姉さん、付き合ってたんですか?」

筒居 「おれがエースで、ねねんがNo1だから・・・」

愁  「それで、ののみの事、結構気にしてたんですね」

筒居 「似ていないようで、似てるのかもしれないな・・・」

    XXX

ののみ「鬼コーチと愁君どこ?」

   と、グラウンドを見渡す。

筒居 「鬼ではない」

   ののみ、ギクッとして振り返る。

   後ろに腕組みをした筒居が立っている。

ののみ「げぇ・・・」

筒居 「オニでなく、おにいさん・・・と呼んでくれ」

ののみ「げぇげぇ・・・」


58. 愁の家 台所 9月 高2

   愁の祖母、るり子(77)が料理を作っている

ののみ「るり子さん、手伝うよ」

   おやきを作っている

るり子「ありがとね、これ(あんこ)入れたら、こうやって

   (丸めて)、こっちに」

ののみ「うまく丸めらんないなぁ、あんこのおやきって、おはぎ

   じゃ?」

るり子「おはぎじゃない、おやき」

   蒸し器で蒸したおやきを皿に盛るるり子。


59. 同 仏間 

   仏壇におやきを供える、るり子とののみ。

   線香をあげ、手を合わせる。

   飾られたご先祖の肖像 老人ばかり。

ののみ「愁君のお母さんは・・・居ないですよね」

るり子「ここ(むねを叩く)に居るって言って、飾らない!」

   愁が来て、手を合わせる。

ののみ「愁君・・・」

愁  「・・・」


60. 同 居間

   おやきを食べる愁。

   ののみ一緒に黙っておやきを食べる。

愁  「おれさ、あんこのおやき得意じゃないんだ、でも、昔から、

   ばあさん作ってくれるから・・・」

ののみ「お茶入れるね、ここは渋いお茶だよね」

   ののみお茶を入れてくる、お茶を飲む愁とののみ。

愁  「ほんと、劇渋だ」

ののみ「渋いって言うより、痛い」

   急須のふたを開けるるり子。

るり子「なんだい、こんなにお茶ッ葉入れて・・」

ののみ「夫婦湯呑み茶碗買わなきゃね」


61. 愁の家 裏の小屋 同日 9月 高2

ののみ「どこかな、バケツ、バケツ・・・」

   家の横、物置を探すののみ。

   おりがある、中から動物の唸る声。

   ののみ、薄暗いおりの中を目を凝らしてみる。

ののみ「ワンちゃん!」

   おりに近づくののみ。

   「猛犬注意!」の札。

ののみ「だぁれかな」

   おりの戸を開けて中に入るののみ。

ののみ「きゃっ」

   駆けつけ、おりの中に入ろうとする愁。

ののみ「やめて、舐めないで・・・」

   大型犬に抱き付かれ、顔を舐められているののみ。

愁  「大丈夫・・・そうだね」

   と、おりを覗く愁。


62. 同 居間 直ぐ後。

愁父 「ポチが、なついたって!」

   食卓で、おやきを食べる愁父、愁とののみと話している

ののみ「猛犬なのに、ポチって・・・」

愁父 「ポチは、母さんにしかなつかなくって・・・母さんが

   死んでからは、暴れて言うこと聞かなくなってね」

愁  「お母さんとののみ、似てるとか?」

愁父 「顔は似てないよ、母さんは貴婦人系だし・・・雰囲気が

   似てるか?」

ののみの声「貴婦人系?、じゃ私は何系?」

ののみ「写真は無いんですか?」

愁  「あるけど、見せないよ」

ののみ「なんで?・・・」

愁  「美人だから、お前がショックを受けるだろうし・・・」

   お茶をすする愁父。

愁父「うっ、渋(ののみを見る」」

ののみ「すいません、入れ直しますね」

   流し台に行くののみ。

   愁父、愁の耳元に小声で。

愁父  「雰囲気もかなり違うぞ、ののみちゃん、かなりの肉食系

   で、ポチもビビったんじゃないのか?」

愁  「犬にまで、呪いかけるとは・・・恐ろしい」

   急須を持ってくるののみ。

ののみ「は~い、入れかえましたよ」

   と、愁父と愁の湯飲みに、お茶を注ぐ。

ののみの声 「誰でも、夢中にさせちゃうぞ(ウインク)」

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