第一章

元・魔王様が初めて自己紹介

  「はい。よく聞いて。新しく入ったマオくんだ。みんな仲良くするように。」

 とある世界のとある町にある小さな弁当屋さんの女店主、セイラは従業員二人を集めて彼女の隣にいる男を紹介した。

 長身で白髪の男。優しい顔立ちの好青年と言ったところだろう。

 「どうも、マオです。空腹で死にそうになっているところをセイラさんに助けられました。これからよろしくお願いします。・・・あ、前は魔王とかやってました。」

 「・・・。」

その場にいた三人がぽっかりと口を開けた。そして、同時に息を吸い込み同じ言葉を発する。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

「あれ、皆さんどうしました?そんなに大きな声出して。」

 マオはみんなの様子に戸惑っているようだ。

 一番最初に口を開いたのは、従業員のユアだった。短めの髪に、釣り目。そして、フラットな胸と長い脚を持つ子である。

「おい、魔王やってたってどういうことだよ!じゃあ、お前あれか、元魔王ってことか。」

 「はい。そういうことになります。・・・。失礼ですが、あなたは女性ですか?」

 「そうだよ。見ればわかるだろ。」

 結論から先に言おう、分かるはずもない。ユアの服装は半袖をまくり上げてタンクトップのような白いシャツ、とても短いズボン。加えてフラットな胸。どこからどう見てもカッコいい男の子である。

 「見て分かんないから聞いてるんだろ。もっと女の子っぽい恰好しろよ。」

 「うっせーよ、アキラ。この恰好が一番動きやすいんだよ。」

 ユアにツッコミを入れるもう一人の作業員。名をアキラと言う。ユアと同じく釣り目で長身。白いシャツと長いジーパンと普通を身にまとっている。だが、アキラのベルトはとても輝いている。

 「で、もう一度聞くが魔王をやってたってのは本当なのか?」

 「はい。本当です。えっとアキラさんでしたっけ。」

 アキラはマオからの疑問を無視してセイラに話しかける。

 「姉さんは知ってたのか?」

 「いいや。今、初めて聞いたよ。変なところで倒れてるからおかしな奴だなって思ったんだけどまさか魔王様だったとはな。」

 壁に寄りかかり、頭を悩ませている女、彼女こそがセイラ。ユアと同じような恰好をしているが、唯一違うのは髪が腰まで伸びている。どこかの盗賊団の長のような印象を受ける。

 「事情とか聞かなかったのかよ。」

 「聞いたけど、この世界の記憶はないっていうからただの記憶喪失者だと。」

 「あ、ほんとに人間界に来てから記憶は無いんですよ。なにせ、入ってすぐに空腹で倒れちゃいましたし。」

 「そりゃ、魔王様に人間界の記憶はねーよな。」

 やれやれと頭を抱えるアキラ。

 「テメー、人間界に何しにきやがった。魔王は死んだんじゃなかったのかよ。」

 立てかけてあった箒を剣の様に構え、威嚇しているユア。

 「えぇ、魔王は死にましたよ。だから、私は元魔王なんですから。」

「どういうことか説明して頂戴。マオ。」

 セイラは落ち着いていた。近くにあったイスを自分の方に寄せると、背もたれを腹にくっつけるかたちでまたがった。

「どこから説明すればいいですかね?」

「全部よ。私は別に元魔王を雇うのは構わないんだけど、従業員の人となりくらいは知っておかないといけないの。」

ポケットから煙草とマッチを取り出すと、火をつけて口に持ってくる。ほわぁっと白い煙を吐き出すと、アキラに向かって扉を指さす。アキラはその意味を理解したのか壁の方に向かっていくと、入り口にぶら下がっている板を裏返す。そしてアキラもまた近くにあった席に座った。板を店の外から見てみると“本日定休日”と書かれていた。

「さて、話してちょうだい。」

「分かりました。長くなるけどかまいませんか。」

「構わないわよ。」

「それじゃあ、お話しします。」

マオは一息すう静かに話し始めました。

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魔王が働く弁当屋 モネルナ @Moneruna_Artist

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