第34話
「ちっ。しぶてえなあいつ」
「どうしますか、親分」
"鋼鉄のあぎと"号のコクピット内。
機長であるキャプテン・シャークは考える。
ギルドがGボムを投入してきたのは驚くに値しない。あれだけコケにされれば上もブチ切れるだろう。Gボムが"黄金の薔薇"へ向かったのは想定の範囲内だが、レースでより手ごわいのは経験豊富なハヤアシの方だ。
だが、ハヤアシは軍人ではない。そこに隙がある。
「おい、少し機体は任せる」
「了解、親分」
キャプテン・シャークは、コンピュータ内から幾つかのプログラムを呼び出し、通信機器を活性化させた。
◇
―――おかしい。
漆黒の宇宙空間。次の超光速航行で、ゴールの星系―――イルドに到着する状況で、ハヤアシは考えた。
このままなら俺が"鋼鉄のあぎと"を追い越せる。図体はこちらが上だから、観測帆もあちらより大きい。それは慣性系同調航法でより優位な地点を取れるという事だ。にもかかわらず、何も妨害がないはずがない。
不安になって、コンピュータを見る。チェックプログラム起動。
見れば、中枢制御システムへひそやかに侵入の魔の手が入り込んでいるではないか!
―――システム内部に構築されたダミーへと。
"桜花"の手作りだった。あの金属生命体は、"魚泥棒"号の整備を一手に引き受けていたのだ。
敵は気づいていない。恐らく。ならばしばらくひっかかったふりをしておいてやろう。
敵はこちらを戦闘の素人だと思い込んでいる。実際その通りだ。だがこの船を整備していた者はそうではない。俺は一人で戦ってるんじゃない。ばあやは盾になった。ポ=テト氏は囮になった。
ひと泡吹かせてやる。
◇
互いに抜きつ抜かれつで航行する二隻の船。
それがほぼ同時に、この星系から消えた。
その直後、遥か後方、"黄金の薔薇"号を追尾していたGボムが爆発した。
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