第33話
恒星間戦争。
先の大戦は、銀河系、いや、宇宙で初めての大規模な武力衝突だったと言われている。それも、絶滅戦争。ありとあらゆる新戦術が出現し、ありとあらゆる超兵器が誕生した。
それらはしかし、最初から最後まで一貫していた点がある。
敵拠点の撃滅。
大型天体に構築された拠点。敵のこれをいかに撃砕するかが、そして自らの拠点をいかにして防衛するかが、双方の勢力においての至上命題となったのである。
あらゆる兵器・あらゆる戦術・あらゆる戦略は拠点を巡って発展した。敵拠点を撃滅するために小天体投下攻撃が発達し、その防御のために物質透過能力を備えた工兵としての機械生命体が出現、遠距離から敵小天体を破砕するための特異点砲が出現し、射程の伸長に伴って特異点砲自体が敵拠点攻撃へと投入された。特異点砲を潰すために突撃型指揮個体が出現し、それを迎撃するためリーチの長い銃剣を装備した襲撃型機械生命体が誕生。すべては連なっているのだ。
だから、Gボムもその進化の途上にあるのか?と問われれば違う。それは畸形である。
Gボム。すなわち
その構造は、極限まで単純化された亜光速艦である。
敵を追尾する機能と、そして詭弁ドライヴ。量子機械。これらのみを最低限搭載された宇宙船なのだ。
この兵器は、敵を追尾し、十分な観測データから進路を予測できた時点で超光速航行。敵の至近距離に出現し、その全質量をエネルギーに変換して自爆する、というだけの代物だ。だが実用にはならなかった。敵を追尾し破壊するという兵器のニッチは突撃型が占めていたのである。亜光速航行能力と量子機械制御能力を備えた機械を自爆させるなどコスト度外視も甚だしいという致命的問題もあった。
現存するのはごく少数、実験的に建造されたもののみ。それらも大半は博物館行きである。
だから、おそらくこれは、最後の実戦投入。
◇
Gボムは熱では爆発しない。
だから、テトは好き勝手に敵を熱することができた。とはいえこちらには武装はない。障害物排除用小口径レーザー砲のみ。
亜光速兵器の常で、敵はパッシブセンサーでこちらを追尾しているから、熱を大量に放出している小口径レーザーはいい標的に見えただろう。
「いいぞ。ついてこい」
ハヤアシ氏は戦士ではない。彼にこいつは荷が重すぎるし、それにこれは自分の役目だ。軍人は民間人を守るためにいるのだ。もう辞めたが。芋にもその矜持はある。
互いにほぼ等速。光速の99・97%。
敵がいつ、どのタイミングで超光速航行を仕掛けてくるかわからない。こればかりは運でしかない。だが、敵のセンサーを馬鹿にすることはできる。少しでも情報収集を阻害し、超光速航行するタイミングを遅らせるのだ。こちらは戦術AIに現状を分析させ、少しでもよいタイミングで無慣性状態の解除を狙う。急停止して敵AIの予想と実際の未来位置をずらすのだ。
なんというチキンレース。
早すぎてもいけない。超光速航行なしで危害半径に巻き込めると判断すれば、奴は容赦なく自爆する。
手が震える。いい。これだ。この恐怖が恋しくて宇宙レースに参加した。
素晴らしい。
戦術AIの予想が出る。カンで微修正する。―――無慣性状態カット。
Gボムが、詭弁ドライヴを活性化させた。
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