第32話

恒星表面のチェックポイントを通過できた艦は三隻。

"鋼鉄のあぎと"号。"魚泥棒"号。そして"黄金の薔薇"号。

これらは恒星の重力圏を脱出後、観測帆を展開。数回の短距離慣性系同調航法を経て、星系内の重力状態を把握したのち、次のチェックポイントが存在する星系へと跳躍する事に成功した。いずれの艦も、恐るべき精度での跳躍であった。


  ◇


「―――親分。ついてきますぜ」

「ちっ。さすが、ここまで残ってるだけのことはある」

キャプテン・シャークとナビゲータのネズミ男の会話。

レースは既に終盤。三つ巴の様相を呈し始めて来た。

しかも、"黄金の薔薇"と"魚泥棒"はどこか協調するような動きすら見え隠れする。

残るチェックポイントはあとわずか。このままでは勝負は分からぬ。

船は、前方のガスジャイアントへと突入していった。


実際の所、テトとハヤアシは示し合わせてなどいなかった。ただ単に、共通する怒りを抱えていただけだ。そう。神聖なレースを汚し、そして死者すら出した敵への。


  ◇


無人の星系。

亜光速での航行中の事。

惑星の横を通り過ぎた際、その背後から出現したものを見て、テトはギョッとなった。

「―――Gボムだと?」

Gボム。ブラックホール爆弾。無慣性機動で標的を追尾・肉薄し、至近距離まで接近すると、量子機械の作用でマイクロブラックホール化。その全質量を、エネルギー化する超兵器であった。

その図体は、400m級駆逐艦に匹敵する。

そいつは、テトの前方、"魚泥棒"号をロックしているように見えた。

仮装戦艦の主砲斉射すら超えるこんなものを食らえば、どんな艦であってもひとたまりもない。言ってはなんだが、たかがレースでこんな化け物を使うだなどと!!

彼やハヤアシは知らなかったが、トライポッド級が撃沈されたことで、海賊ギルドが採算度外視の報復を始めたのである。

もちろん完全な逆恨みだ。

芋は、ハヤアシ宛にレーザー通信を開いた。

「―――あれは俺が引き受ける。お前は行け」

「……正気か?」

「借りは返す」

それだけ告げると、テトは通信を切った。そうだ。彼のばあやには世話になった。ここで命の一つも張っておくのが道理というものだろう。

芋は、微笑んだ。

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