第4話 ありがとうと言える事がこれからの目標か

ふぅ…


しけもくって多少香ばしく感じない?

そもそもしけもくって何?って人のために説明をするとだ、一本の煙草に二度目の火をつける事。

一本の煙草を2回にわたり吸える、お得だろ?

2回目の方が香ばしく感じるなんてお得感いっぱいで実はしけもくの方が好き!なんて奴も居るくらいだ。

そんな残り僅かなしけもくを吸いながら空を見ていると吐いた煙が空一面に広がっていく。

広がっては消えていく。

実は人間と同じなんじゃないかなって。

広がっても消えていくものってなんだ?

そんなナゾナゾがあったとしたら意外にも簡単に答えられるかもしれない。

実はオレって東大生より頭良かったりする?


「裕太くん、起きてます?」


「あぁ…起きてるよ」


「先ほどは取り乱してしまいすいません。」


「いや気にしないでくれ。梅田さんは…少しは気が晴れたかい?」


「はい、おかげさまで楽になりました。」


「そっか、それは良かった。」


なら良かったとオレもなんとなく気が楽になった。

自分が何かに救われたわけでもなければ、ただただ話しを聞いていただけだけど、梅田さんの笑顔は少しほっとする感じがした。


「そういえば裕太くん、ちょっと聞きづらいのですが…」


「あぁ…オレがここに来た理由?」


「はい…」


「んー、大学首になってさ、行く宛がなくてここにたどり着いた的な感じだよ」


「え?実家には戻られたりしなかったのですか?」


「大学首になった事が言いづらくてね、連絡も取ってなければ携帯すら未所持なんだよ」


何一つ嘘は言っていない。

むしろ昔からあまり嘘がつけるタイプではないんだよオレは。

世の中って良い嘘と悪い嘘があるって言うじゃん?

でも良い嘘っていうのは大体が自己満足で偽善の象徴。

その嘘は結局の所、成立させるためにもう一度嘘をつく。こんな連鎖に良い嘘があるなら世界は嘘だらけじゃないか。


「裕太くんは優しいんですね。」


「え?何故そこで優しいが出てくるんだ?」


「だって…実家に帰らないでここに居るって事はそれだけ両親を困らせたり悲しませたりさせたくないって事ですよね?」


「そ、そんなんじゃないよ。ただ辞めて帰ったらかっこ悪いとか思っただけで優しいなんてない」


「今日だって始めての私にダンボールを持ってきてくれましたし」


「そ、それはいきなり現れて凍死でもされたら後味が悪いっていうか、嫌だっただけだ」


「それでも裕太くんは優しいですよ」


「んな事ねぇーって」


「もう寝るぞ、夜はまだ寒いんだから覚悟しといた方がいいっスよ」


梅田さんとは反対方向を向き目を瞑った。

優しい?オレが?

べ、別に照れたわけじゃない。

照れたわけじゃないけど、何となく少しだけ、ほんの少しだけ自分はまだ人間やってるんだなって思ったっていうか。

なんだろ、よくわからん。

少しだけ体が暖かくなったのだろうか、寒い日だったが珍しくすんなり今日と言う日を熟睡出来た気がした。






「はぁはぁ…」


「チッ…いってぇなぁ」


口の中が鉄の味で満たされる。

もちろん好きではないが、最近よく味わう機会が多い。

オレもガキだが、近頃のガキは刃物まで持ってるとはなぁ。

腕から流れる血も、口から出てくる血も、最近は本当に機会が多い。

オレが言えた事じゃないが、刃物は犯罪だぜ。

しかし…しかしだ、刃物を持った時の相手の勝ち誇ったあの目。

あの目は嫌いだ。

自分が優位に居て、絶対的な物を持ってるから勝ち確定みたいな。

ふざけんな糞が。

○を書きたくてコンパスを持ってる奴が優位って。

喧嘩したら相手がボクシングをやってるから優位って。

女にモテるのはイケメンと金持ちが優位って。

ふざけんな糞が。

そんな優位があったらスポーツの大会や物事の順位をつけるイベント事なんていらねぇだろ。

絶対的なんてあってたまるか


「くそ…いてぇなぁ…」


昼の真っ只中、オレは喧嘩に明け暮れていた。

何故喧嘩をするのかと聞かれると、それはとても簡単で


「何も考えなくて良いから」


「お前なぁ…それでも痛いのは嫌だろうに」


「まぁオレはMじゃないし痛いのは好きじゃないが、これしか方法が分からないんだよ」


いつも爺さんは喧嘩後にやってきては傷次第では軽い手当をしてくれる。


「ほら、ガキ。手当は終いだ。一本やりねぇ」


「あぁ…すまない」


沸騰していた脳内も煙草一本で事足りる。

単純だ

あぁ…落ち着く。

さっきまで喧嘩をしていた感情なんて一瞬にして煙草の煙と一緒に吐き出せる

ホント万能なアイテムな事だ。


「そういえばガキ」


「ん?どうした爺さん」


「ほれ」


「え?お、お小遣い?」


「梅田のあんちゃんと一緒に何か食いねぇ」


渡された夏目漱石。

ここ最近見たことがなかった。

爺さんもなんだかんだ昨日聞いた事に対し罪悪感があるのだろうか。


「でも爺さん、こんなお金どこで手に入れたんだ?」


「野暮な事を聞くでねぇ、ガキに心配される程落ちぶれちゃいねぇ」


おいおい、同じ所に住んでて落ちぶれちゃいないってちょっとキツイぜ爺さん。

しかし爺さんなりの配慮、断るわけにもいかないか


「早く持って何か食ってこい」


「すまない爺さん」


「おいガキ」


「ん?」


「毎度ながら謝るな、謝るのは歳を取ればいくらでも言う機会がある。今はガキらしくありがとうと、言えるようになれ」


「……ありがとう、爺さん」


喧嘩で切られた腕よりも

喧嘩で殴られ鉄の味を感じた時よりも

少しだけ、少しだけ痛い部分がある。

この心臓のえぐられる痛みは……

涙が出る前の前兆である

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